[開発のいきさつ] 

「D-STAR」プロジェクトの今までのいきさつは次の通りで、表1に概要を表示し、詳しい内容を説明します。

表1 D-STARプロジェクトの今までの経緯

この「D-STAR」プロジェクトのスタートは、平成10年度(1998年4月~1999年3月)に総務省(当時の郵政省)から(社)日本アマチュア無線連盟(以下JARL)が「アマチュア無線のためのデジタル化技術の調査検討」について委託を受けたことから始まります。

このため調査検討会が発足され、国の予算を使っての調査検討のため、公正で透明性が図られ、委員長には藤原功三氏が就任され、委員には大学の教授、このような技術に詳しい方及び当時の日本アマチュア無線機器工業会(JAIA)のそれぞれのメーカーの技術者等が当たられました。郵政省からも検査官、技官がオブザーバーとして参加されJARLが事務局を務められました。委員の名前を含むすべての詳細については既に総務省より情報公開されています。

この調査検討に必要な機材は、郵政省が調達してJARLに貸し出すことに決定し、「デジタル伝送シミュレーション装置」の入札による調達が行われました。国が行う入札のため、所定の手続きなど厳格で公正に行われましたが、弊社アイコム以外入札に参加するメーカーはありませんでした。これは最初からこの機器を開発して納入しても採算が合わず利益がでないことが分かっていたからと思われ、弊社はアマチュア無線の将来を考えて先行投資のつもりで採算を考えずに入札に参加して落札しました。従って、どのメーカーも公平に参加できる形でのスタートでした。機器メーカーとJARLとの関係の深さ等によって変わるような性質のものではない公正なものです。

この調査検討会の下に作業部会が作られ、弊社は機器の納入業者として得たノウハウを含めた技術的な協力をしましたし、JAIAの一部の他のメーカーの技術者も一緒に協力して実験等行いました。その結果はJARLより郵政省に「アマチュア無線のためのデジタル化技術に関する調査検討報告書」として報告されました。

平成11年度(1999年4月~2000年3月)も同様に当時の郵政省より予算がつくことになり、前年度と同様に郵政省からJARLが前年度をベースにした「アマチュア無線のためのデジタル化技術の調査検討」について委託を受けました。

調査検討会も同様に設けられ、委員長は継続して藤原功三氏が就任され、一部委員の変更もありましたがJAIAに属するほとんどのアマチュア無線機器メーカーの技術者も委員として参加しました。

この調査検討に必要な機材も前年同様総務省から国際入札による調達がなされ、JARLにその機材を貸し出すことになり、前年同様な手続きが取られました。この国際入札に関する意見聴取や入札に必要な事項について官報に載せられ誰でも公平に入札の情報が分かるようになっていました。この年度は「デジタル伝送技術試験装置」が調達され、この年も弊社アイコム以外入札に参加する企業はありませんでしたが、その理由は前年と同様にこれだけでは採算が合わないことではないかと思われます。

JARLはこの年度も調査検討会でまとめた内容を「アマチュア無線のためのデジタル化技術に関する調査検討会報告書」にまとめて郵政省に納入されました。

この郵政省のプロジェクトは実は3年間の予定になっていましたが、国の予算は単年度が原則であり、1年毎の予定で平成12年度(2000年4月~2001年3月)も郵政省からJARLが前年度より更に進めた「アマチュア無線のためのデジタル化技術の調査検討」について委託を受けました。

調査検討会も同様に設けられ、委員長も藤原功三氏が継続され、委員も一部変更はありましたが、これまで同様公正さが保てるメンバーが委員に就任され、郵政省も一部担当官が替わられましたがオブザーバーを務められました。

この年度も調査検討に必要な機器の調達は郵政省よりなされ、国際入札によるすべての手続きは今まで同様に厳正に行われました。この年度もアイコム以外入札の参加はなく、結局3年間アイコムで担当することになりました。繰り返しますが、国の予算に関わる入札は公平かつ厳正であり、誰でも入札に参加できる反面、今までの経緯による便宜等全くありません。この年度の機材の調達はより実用化に近い「デジタル送受信装置」で前年度の機材も一緒に使って実験するものです。このような新しいデジタルのシステムは総務省が国の予算を使って進めていただいた訳で、アマチュア無線に関係するメーカーも協力して新たなシステムを構築する必要があります。このため、3年間継続した実験に協力されたメーカーもありました。

これらの機材を使った実験は、既にJARLニュース等に載っていますが、房総半島において実施されました。

JARLは最後の年度も調査検討会でまとめた結果を「アマチュア無線のためのデジタル化技術に関する調査検討報告書」として総務省に納入しました。この報告書は各委員にも渡されていて、従って関係するメーカーに対する有利不利はあり得ませんし、内容は全て各メーカーの技術者も参加している調査検討会で検討されたものに限られ、アイコムが勝手に何かをするようなことはあり得ないことです。もちろん、総務省からの機材の調達で、機器製作上のノウハウは当然ありますが、これは公平な入札に参加した結果であると思います。

総務省(郵政省)による3年間の調査検討が終わり、2001年4月よりJARLは実用化実験に取り組み始めました。前年度の報告書に基づく実験局の免許を受けることが可能なシステムは、前年まで協力してきた弊社アイコム以外に事実上製作不可能であり、そのシステムをJARLより弊社に発注していただきました。その納入した機器による結果がこの4月末まで行った実験局の実験となっています。従って、この実験局のシステムは全て上記総務省プロジェクトを元にしたJARLの次世代通信委員会の承認による仕様のものであり、アイコム独自に大幅な仕様の変更を行ったり、また、このシステムの納入によって弊社が利益を得た訳ではなく、アマチュア無線の将来を考えてJARLに協力していることをご理解いただければ幸いです。