アナログとデジタル 

デジタルとは何か、一言で言うのは中々難しいことですし、色々な所で説明されていますが、ますます分かり難くなることも珍しくありません。

アイコムならやま研究所近くにJRの駅に向かう歩道があります。図1のように階段とスロープがついていますが、これがデジタルとアナログの説明に便利だと思います。

図1 アナログとデジタルの歩道

もし、階段の方を歩くと、一度に一段ずつと言う条件なら、元気のいい若者があるいても老人が歩いても、または小さな子供が歩いても一歩の幅は変わりません。しかし、スロープの方を歩くと階段と違って一歩の幅は歩く人によってそれぞれ異なり、その幅はいくらにでもなります。

階段がデジタルであり、スロープがアナログに当たります。階段では一歩当たりの幅があらかじめ決まっているので、早く歩こうとすると歩くスピードを上げるか段数を飛ばして歩くしかありません。スロープでは歩くスピードを上げても、また歩幅を広くしても早く歩くことができます。このように、連続していて境目のないのがアナログです。

一般的にアナログと言われているものでも厳密にはデジタルであるものが珍しくありません。例えば、アナログ時計と言われている図2のようなものでは秒針が一秒ずつカチッカチッと進むものが多いように思われますが、これは、本当はデジタルです。なぜなら、動きが連続ではなく断続した動きになっているからで、「日」の字型の文字表示だけがデジタルと言う訳ではありません。

図2 アナログのデジタル時計?

昔の時計も内部の歯車の歯が階段に相当するため、アナログではなくデジタルと言えます。このように厳密な意味では殆どの時計はアナログではありません。砂時計でも砂粒の単位で変化するので少しあやしく、連続した太陽の動きの日時計だけが本当のアナログ時計かも知れません。

昔、「日」の字型のデジタル時計が流行りだした時、デジタルは人間工学に合っていないので良くないと言う評論家やその受け売りの人が結構いました。実際に出始めの高価な「デジタル時計」を使って見ると、何も人間工学が云々と言う程のことはなく、単に好き嫌いのレベルのように感じられました。

デジタル化の意味

では、なぜ今は色々なものがデジタルでなければならないのでしょうか。単純に言うとそれはデジタルの方がコンピュータで扱いやすいからです。例えばアナログ量である受信電波の強さを記憶させようとすると現状では大変で、その目的を果たす適当な素子を簡単に思いつきません。もしデジタルなら、この信号をアナログからデジタル信号に変えるA/D変換器にかけて、そのデジタル信号(数値)をメモリーに記憶させればOKです。後で元のアナログ信号に戻したい時には、D/A変換器にかけると簡単に元に戻すことができます。

また、デジタル信号はこのように数値であり、数学で計算できることは比較的簡単にでき、そのような処理が得意なDSPで計算すれば、計算通りの結果が得られます。昔は無線機を製造するために、測定器を使って細かく調整していました。その時に使った素子のばらつき等で調整が必要でした。その回路が数学だけで計算できるものなら、DSPを使うと計算通りとなるのでばらつきの出ようがありません。これによって、何十台作っても何百台作っても全く同じ性能のものを作ることができるようになりました。

また、携帯電話の普及でも分かる通り、通信の需要が増え、一昔前のアナログ携帯電話では使用できる周波数が満杯となりましたが、それ以上効率を上げることが困難でした。デジタル携帯電話ではアナログの音声信号をデジタル信号に変えるCODECで圧縮することができ、今までアナログ携帯電話一人分の周波数帯域で何人も使えるようになりました。

このようにデジタル化することによって、より便利にできること、効率が上げられること、高品質にできること等があげられます。デジタル化するとよいことばかりでアナログは必要ないように感じられるかも知れませんが、色々なものの中程はデジタル化できますが両端は相変わらずアナログが重要な要素として残っています。例えば、携帯電話でも電波として入ってくる部分はデジタル変調であってもアナログ信号で入ってきますし、途中はデジタル処理されていても、最後に出ていくのは耳で聞くアナログの音になります。

デジタルへの変換

アナログ信号をデジタル信号に変換する場合、そのアナログ信号で扱う周波数の2倍以上の周波数の間隔でサンプリングしなければならない、と言う原則があります。図3で見てみますと、よく知られたサインカーブですが、この原則に従うと、サイン波1サイクルに対して4ヶ所以上のサンプリングをすればよいことになります。もちろん、このサンプリング数は多い方が良いのですが、最低2倍以上と言うことになっています。サンプリングと言うのは、そのポイントの値を数値化することで、図のように5ヶ所サンプリングするとそれぞれ表1のような値が得られます。

図3 サイン波のサンプリング

ポイント 角度 数値 備考
a 0゜ 0.0000   
b 72゜ +0.9511   
c 144゜ +0.5878   
d 216゜ -0.5878   
e  288゜  -0.9511   

表1 サンプリングの結果