前項の「デジタルへの変換」でサイン波をサンプリングしてデジタル化する方法を述べましたが、実際の音声のアナログ信号で考えてみたいと思います。

具体的なアナログ信号をデジタル化する様子を図1に示しますが、よく見ると「アナログとデジタル」の項で説明した歩道の階段とスロープと同様であることが分かります。つまりアナログ信号は境目がなく連続していますが、デジタルでは飛び飛びの階段の波形になっています。

図1 アナログ信号のデジタル化

この階段の1段分の高さが低い程アナログに近づくのが分かりますが、その代わり全体的な階段の数が大きくなってしまいます。この階段の数を2進数で数えるとビット数になります。従って、仮に階段の総数が256段とすると8ビットと言うことになり、16ビットなら階段全体が216=65,536段となってよりアナログに近づき誤差が少なくなります。

図2はアナログ信号のサンプリングの様子を示すものです。アナログ信号は図のように変化していますが、サンプリングは飛び飛びのポイントだけでその途中は全く関知しません。このようなポイントだけデジタル化しても、その周波数の2倍以上の周波数でサンプリングする原則さえ守っていれば理論的にアナログの全ての情報が含まれると言うので不思議です。

図2 アナログ信号のサンプリング

音声信号はよく知られているように、普通の会話では300Hzから3KHzまでの周波数成分を含んでいます。デジタル化する周期は、音声信号の最高周波数の2倍以上、つまり6KHz以上でサンプリングしなければなりません。6KHzちょうどでは全くマージンが取れませんので音声信号のサンプリングは8KHz程度で行うのが普通です。

図3は周波数的に見た信号の様子を示しますが、実はサンプリングとミキシングはほとんど同じことをしている訳で、サンプリングの周波数がミキシングのキャリア周波数に相当します。そう言えば昔のダイオードによるサンプリング回路は構成がDBM(Double Balanced Mixer)によく似ていました。

図3 音声信号サンプリングの周波数関係

もし、サンプリングまたはキャリア周波数が信号の最高周波数の2倍より低いと元のベースバンドの信号とLSB(Lower Side Band)の信号がオーバーラップして干渉するのが分かります。これが信号周波数の最高値の2倍以上でサンプリングしなければならない原則の別の見方かと思われます。また少しマージンが必要なのはフィルタの傾斜部分が必要になるからです。

仮に、音声信号を8ビットに変換して8KHzのサンプリングしたデータを無線で送ることを考えてみます。図4のt1~t2の時間はサンプリング周波数8KHzなので125μSになります。

図4 デジタル信号のタイミング

普通無線通信では1ビットずつしか送ることができませんので、t1~t5のそれぞれのデジタル化した値は8ビットとしますと、この125μSの間に8ビット送らなければならず、1ビット当たりは125μS/8=15.625μS、つまりその逆数の64Kbps(bit per second)となり、1秒間に64、000個の1または0のデータを送ることになります。

この64Kbpsの信号でFM変調(GMSK)しますと占有帯域幅が68KHz程度となります。元の音声信号で従来のアナログFMの変調をすると占有周波数幅は16KHz程度のため、そのままではデジタル変調すると4倍以上に広がってしまって電波の利用効率が極端に悪くなってしまいます。このため、電波の有効利用のために何か工夫をしなければなりません。