これまで述べてきた方法により、普通に扱われている音声や画像等のアナログ信号をデジタル化することができましたが、無線でデジタル通信を行うために音声やデータのデジタル信号の変調を行います。

デジタル化した信号は8ビットや16ビットのように並列に並んだ2進数の構成になっているのが普通ですが、無線通信で送るためには「4)アナログ信号のデジタル化」の項でも述べたように、基本的には1ビットずつ直列に送る必要があります。1ビットずつ直列に送ると1または0の2値になり、変調ではこの2つの状態を確実に送ることができれば目的をはたせます。

2つの状態を送る方法として図1のように、振幅的に1と0の状態を作ると従来から電信で使われている振幅変調になります。また、図2のように振幅を一定にして周波数で2つの状態を作ってもよく、この送り方は周波数変調になります。一般的には、振幅変調の方が外来ノイズの影響を受けやすいため、周波数変調がよく使われます。周波数変調に近い方法で信号の位相によって2つの状態を作る位相変調もあり、この場合も振幅は一定にできるためノイズの影響が少なくなります。

図1 振幅変調 上=信号波形 下=変調波形

図2 周波数変調 上=信号波形 下=変調波形

送る側の都合だけ考えると、1と0の2つの状態は外来ノイズの影響が少ないようにはっきりと分離できれば有利です。例えば極端な例として、1の時には1290MHz、0の時には1295MHzのように間隔を5MHzも離せば1と0を間違うことが少なくエラーも減少します。しかし、このようにすると、1局当たりの占有周波数帯幅が広がり、使用できる局数が減少するため周波数利用効率が悪くなってしまいます。また、近くの周波数で運用している局にも不要なエネルギーをばらまき、お互いに妨害になってしまいます。

この「デジタル変調」の技術は、できるだけ占有周波数帯幅を狭くして、その上1と0の2つの状態を確実に送る技術と言えます。前述のように、ここではノイズに強い周波数変調、または位相変調について進めて行きます。これらの変調には、FSK(Frequency Shift Keying)、MSK(Minimum Shift Keying)、GMSK(Gaussian Minimum Shift Keying)、PSK(Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、BPSK(Bye Phase Shift Keying)等があります。

それぞれの変調方式について説明すると長くなってしまいますので、現在よく使われていてD-STARでも使われることになっているGMSKとQPSKについて説明します。

GMSK

GMSKの基になるMSKから説明しますと、MSKはその名前の通り、デジタル変調を行う時に占有周波数帯幅を狭くするために周波数変調で最低の周波数シフト量にするにはどうすればよいかを考えたものです。

結論的には、1か0の一つの信号を送る時間内に90゜位相をゆっくり変化させるものです。例えば1の場合はこの期間に90゜位相を進ませ、0の場合は90゜位相を遅らせます。このようにすると、占有周波数帯幅が狭くなり、しかも1と0を区別して送ることができます。

MSK信号の位相関係 上=信号波形 下=変調波形

時間的に1と0を繰り返すデジタル信号波形を周波数的に見てみますと、図4のように繰り返し周期の基本波とその高調波によって構成されていることが分かります。このような波形で変調をかけると、両側のサイドバンドにこのような信号エネルギーがついてきます。このままでは占有帯域が広がってしまいますので、占有帯域を狭くするためには基のデジタル信号の高調波をフィルタで落としてしまえば良いことが分かります。占有帯域の観点から考えると、この信号の基本波を残して全部フィルタで落としてしまえば占有帯域は狭くできますが、実際の信号は図4のような繰り返し信号だけではなく、信号の1と0の比率が1:10のようなもっと幅の狭い波形も当然入ってきます。このような波形で基本波だけを通すフィルタにかけると信号が十分立ち上がる前にまた落ちてしまって元の信号の波形を正確に復元できなくなります。これはフィルタの特性が今の信号だけでなく、その前の信号の影響も受けるからです。

図4 デジタル信号の時間と周波数の関係

信号の高次の高調波スペクトルが早く減衰するよう変調する基のデジタル信号を滑らかにしたMSKの変調スペクトルを図5に示しますが、変調による高次スペクトルの減衰が緩やかで広い帯域に影響を与えていることが分かります。実はこのスペクトルは高調波成分を取り去ってもっと狭帯域にしても復調可能なことが分かっています。このため、信号はできるだけ正確に通して、しかも信号の高調波をできるだけ落とせるフィルタが研究された結果、ガウシャンフィルタがよいことが分かりました。このフィルタを通してMSK変調する方式がGMSKです。図6に示すGMSKの出力波形はMSKに比べて中心から離れた不要なサイドバンドがよく落ちているのが分かります。GMSKの変調方式はヨーロッパの電話系にも使われていて、後で説明するQPSKと並んでよく使われている変調方式です。

図5 MSKの占有帯域

図6 GMSKの占有帯域