前回に続いて、変調方式について話しを進めて行きます。

QPSK

QPSKの説明の前に、BPSKについて説明します。BPSK変調は図1のようにデジタル信号によってキャリアの位相を180゜切り換えるものです。図の下にある元のキャリアと同じ位相の時には1、180゜違えば0となるような変調です。これを極座標で表すと図2のようになり、真ん中の原点から外向きの長さが振幅を表し、回転方向で位相を表します。

図1 BPSK変調の波形

図2 BPSKの極座標

図3は90゜位相の異なるキャリアの波形ですが、よく見ると、それぞれのキャリアの振幅が0の時にはエネルギーが0なのでサイドバンドも0になります。この0の時にもう一方のキャリアで信号を送るように考えたのがQPSK変調です。つまり、キャリアの位相が90゜異なるものを用意して、それぞれにBPSKの変調をかけると、お互いにエネルギーが0の時にもう一方に変調が載るので、お互いに邪魔をしないで時間的に使い分けているような状態になります。これは図2の座標を二つ用意して片方を90゜回転させて重ね合わせたようなもので、この極座標を見ると図4のようになり、1周360゜を直交した4つの状態として使えることになります。

図3 90°位相差のキャリア

図4 QPSKの極座標

実際の構成は図5のように、90゜位相差のあるキャリアを2つの変調器に入力して変調し、その出力を合成するものです。QPSK変調ではGMSK変調に比べて、一度に2倍の情報を送ることができるため、占有周波数帯幅は半分近くまで狭帯域にすることができます。このため、周波数の利用率はGMSK変調より良いことになります。

図5 QPSK変調の構成

それではQPSKは良いことずくめでしょうか。残念ながら何事もよいことばかりでなく、短所もあるものです。QPSKをGMSKと比べると、外部ノイズの影響などでエラーが出やすくなります。周波数変調、位相変調系はノイズに強いと最初に述べましたが、全く影響しないわけではなく、ノイズは結果的に振幅だけではなく、位相的にも影響を与えます。

GMSKでは1の時には90゜進み、0の時には90゜遅れるようになっていて、ノイズの影響等によって1を0と取り違えたり、またはその逆だったりするその境界線であるスレッショルドは90゜のマージンがあります。一方、QPSKではそれぞれの符号間が90゜なので、そのスレッショルドは45゜になってしまいます。つまり、位相のゆれの影響を受けやすく、従ってGMSKに比べてエラーが出やすいと言えます。

また、実際の回路では、占有帯域をできるだけ狭くするため、GMSKと同様にデジタル信号をフィルタに通して帯域制限をかけて変調します。このようにすると、QPSK変調は位相だけではなく、振幅方向にも変調がかかってしまいます。復調側では位相情報だけあればよく、この振幅情報は別になくてもよいのですが、もし送信側で振幅の歪みを起こすと占有帯域が広がってしまいます。これでは折角狭帯域である特徴が失われるため、送信機側では変調をかけた後はリニヤーアンプが必要になります。リニヤーアンプは一般的には面倒で効率も悪く、あまり歓迎されません。

このQPSK変調は同じ符号が続くと同じ位相関係を送り続けるため、符号の切れ目が分からない信号となり、復調するのが難しくなります。この問題を解決するのが図6に示すπ/4シフトQPSKです。この方式では同じ符号が連続して続いても必ず1つの符号で45゜以上位相を回転するようにしています。このようにすれば、必ず符号の切れ目が分かり、また、符号がどのように変わっても振幅が0になることがありません。従って、後続のリニヤーアンプの設計が少し楽になる特徴があります。

また、1符号分遅らせて重ね合わせる遅延検波を使うことができるのでこの点は有利です。このπ/4シフトQPSKの短所は、位相のスレッショルドが実質的に半分になって22.5゜しか取れないことです。つまり外来ノイズの影響を受けやすいことは否定できません。

しかし、短所より長所が評価され、単純なQPSKよりこのπ/4シフトの方が良く使われるようになっています。