従来のアナログ通信では相手のコールサインと自局のコールサインを付加して通信していましたが、デジタル通信ではどのような手順で通信を行えばいいでしょうか。音声通信とデータ通信についてその手順を説明します。

音声通信

No.2のデジタル化の目標の項で述べたように、音声はインターネット電bのようにデータとして通信することもできますが、大容量の通信回線や複数の迂回路を持たないアマチュア無線ではVoIP方式の音声通信は困難です。音声通信にはリアルタイム性がどうしても必要です。このため、D-STARでは音声とデータを別の手順によって通信しています。

また、音声通信は8Kbpsおよび2.4Kbpsの2つの伝送速度によって通信することができます。

ITU勧告 G723.1方式

ITU勧告 G723.1方式の伝送速度8Kbpsの音声通信は図1に示すフレーム構成になっています。

図1 ITU勧告 G723.1による音声パケットのフレーム構成

図1のフレームの構成を順次説明します。最初のビット同期信号は、受信側で入力信号と同期を取るための信号でこのタイミングに合わせて受信側を同期させます。変調方式がGMSKの場合は1と0を交互に繰り返すと同期のタイミングが取りやすいのですが、QPSKの場合は一度に2ビットづつ送るため、この符号ではタイミングが取れず、タイミングの取りやすい1001の繰り返しとなっています。

フレーム同期信号はデータの始めを表すもので、この符号の後が意味のあるデータであることを示しています。従ってできるだけ普通のデータの中に現れにくい符号の方が都合がいいのです。D-STARでは「111011001010000」の15ビットを採用しています。受信側ではビット同期信号の後この信号を待っていて、これが受信できると次の信号からデータとして受け取ります。

フラグは通信の状態を表すもので、データ通信と音声通信の識別、レピータ経由の通信と直接通信の識別等、その他色々な状態を表しています。

IDはそれぞれのコールサインを表すもので、送り先中継局コールサインは相手局の属しているレピータのコールサインです。送り元中継局コールサインは自局の属しているレピータのコールサインです。相手局コールサインと自局コールサインは説明をするまでもないと思います。

D-STARでは、音声通信は自局の属するレピータサイトとその隣のレピータサイトまで幹線系通信で接続して通信することが可能です。データ通信では幹線系通信の接続している全てに対して通信可能ですが、音声通信ではあまり遠くまで幹線系通信で接続すると全体的な通信の効率が悪化するため、すぐ隣のレピータサイトまでに制限しています。

P_FCSは、無線ヘッダ部のビット同期とフレーム同期を除く有効なデータ部分のエラーチェックをしています。正常な情報が受け取れないと正常に動作できませんので、不良データは切り捨てます。

この後はデータ部分になっていて、音声フレームとデータフレームが交互に繰り返す構成になっています。音声フレームはITU勧告G723.1形式のコーデックで音声信号をデータ信号に変換したものです。G723.1の信号は5.3Kbpsであり、30mS毎に送るこのデータを8Kbpsのパケットに詰めると160ビットとなり、80ビット他のデータを送ることができます。このデータフレームを使うと音声通信しながらメールを送るとか、静止画を送ることなどが可能です。また、このデータフレームを利用して20回に1回同期信号を挿入します。これによって通信の途中からでも受信することができますし、移動中に通話の途中でフェージングによって電波が途切れても復帰することができます。

ラストフレームは音声通信の送信の終了を表すもので、この信号により受信側で相手方の送信の終了を検知することができます。

AMBE方式

AMBE方式の伝送速度2.4Kbpsの音声通信は図2に示すフレーム構成になっています。

図2 AMBE方式による音声パケットのフレーム構成

無線ヘッダ部はG723.1方式と構成は全く同じですがデータ部が異なり、20mS毎にAMBEのコーデックのデータ信号が送られてくるので、この音声フレームを継続して送信します。この方式ではできるだけ低速度の伝送速度で通信し、占有周波数帯幅を極力狭くできることを特徴としています。

G723.1方式と同様に、送信の最後にラストフレームをつけて、受信側に送信の終わりを知らせます。