D-STARの端末で音声系通信とデータ系通信を行いますが、実験ではこれらの通信に1.2GHz帯を使用しました。実用的にはこれらの通信に必要な占有周波数帯幅が許される周波数帯ならどこでもいい訳で、音声系のAMBEを使ったものならHF帯でも通信できます。

幹線系の通信は音声系やデータ系の信号を多重化して送ることは既に述べた通りですが、D-STARでは幹線系の伝送速度は10Mbpsとなっています。この伝送速度のデータを送るための幹線系に使用できる帯域を持つアマチュア無線の周波数帯は図1のように5.6GHz帯以上になります。帯域だけを考えると2.4GHz帯も候補の一つになりますが、現状では無線LAN等で使われていて安心して使うことが困難と思われます。

図1 幹線系中継に使える周波数帯

また、10GHzの実験結果から、90cmのパラボラアンテナで中継可能な距離は15Km~20Km程度と考えられ、10GHz帯より上の周波数帯では空間の伝送損失が多く中継間隔が短くなって実用的でないことが分かっています。10GHz帯のようなマイクロ波帯の通信距離は遙かに長い記録になっていますが、これらは音声通信など狭帯域の通信のものがほとんどで、このD-STARの幹線系のような広帯域の通信はどうしても通信距離が短くなってしまいます。

幹線系通信では多段中継が必要なことから、図2のように同じ周波数帯で繰り返し中継できる周波数構成が必要です。一般的にはこのような用途には3波必要になります。2波では自局の送信電波が回り込んで繰り返し中継が困難です。しかし高い周波数では一般的にパラボラアンテナなど指向性の強いアンテナが使用できるため、2波でも繰り返し中継が可能です。

図2 幹線系中継の周波数構成

図1を見ると10GHz帯のレピータの周波数区分は10.000~10.025GHzと10.150~10.175GHzの対でそれぞれ幅が25MHzあり、幹線系通信の占有周波数帯幅は約10.5MHzとなるので幸いなことに2波取ることができ、繰り返し中継が可能です。

10GHz帯のような高い周波数では同軸ケーブルの損失が大きいため図3に示すようにアンテナと送受信機の距離はできるだけ短くすることが必要です。また、この場合でも高い周波数専用の損失の少ない同軸ケーブルを使う必要があります。これらの同軸ケーブルの接続にはN型またはSMA型のコネクタを使用します。

図3 アンテナと機器の接続

D-STARの実験には本格的なプロ用のパラボラアンテナを使用しましたが、レピータの本体を上回る程非常に高価でした。実用的なものは衛星放送の受信用のものを転用してコストダウンしたものが使える見通しになっています。

一般的にレピータを上げる場所は山の上など電話線の架設されていない場所が多く、インターネット運用ができませんが、幹線系通信の接続ができると、このことを考える必要がなく便利です。また、電線のない場所でロケーションのいい場所もあるので、太陽電池電源の開発も進めています。太陽電池電源と幹線系接続ができれば中継条件のいい場所だけ探せばよいことになります。

実験で使った幹線系レピータの構成は図4のようになっています。

図4 幹線系レピーターの構成

入力されたDATA信号はIF・ベースバンドユニットでデジタル変調され、IF信号として送信機に送られます。また、受信機よりの信号はIF信号としてこのユニットに入力され、復調されてDATA信号として出力します。従って送受信機はトランスバータとして動作しています。

10GHz帯は非常に高い周波数ですが、最近は使える半導体の種類も増えて昔程機器の製作が困難ではなくなったように感じられます。