「8トラック・カートリッジテープ」が音楽用テープとして登場

カセットテープと言えば「コンパクトカセット」を表すほど圧倒的な存在だが、「コンパクトカセット」以外にも目的に応じて様々なカセットテープが開発された。「8トラック・カートリッジテープ」は、「8トラ」の愛称で主にカーステレオやカラオケ用に利用された。8つのトラックが有り、2トラックで1つのステレオチャンネルとして使用することで、4つのステレオチャンネルが可能となる。1965年に米国でRCAビクターなど数社の協力によって、ステレオ録音の音楽を手軽に再生できる磁気テープとして開発されもの。主にカーオーディオなどに適したカセットテープを目指して開発された。その頃すでに「コンパクトカセット」は開発されていたが、テープ幅が小さく、音質面で音楽用テープとしては適していないとの考えから、それに代わるものとして開発された。

カーステレオを始め、カラオケなどで活躍

テープ幅は「コンパクトカセット」の3.81ミリに比べ6.35ミリと広い。エンドレス式で1個のリールに巻かれ、リール最内周から引き出されたテープが、リール最外周に巻き取られる構造。テープ速度は9.5センチ/秒と、これも「コンパクトカセット」の4.76センチ/秒より速い。構造上、再生専用として開発されたので、音楽を録音したミュージックテープとして利用された。この特性を生かして、日本ではカーステレオを始め、カラオケや、バスの車内放送などで使われた。

テープが切断しやすいのが欠点だった

しかし、「8トラック・カートリッジテープ」は、エンドレス構造だったためテープに負荷がかかりがちで、テープが切断しやすいのが欠点だった。また、再生専用の構造から録音がやりづらく、家庭でのオーディオ用としては使えなかった。やがて「コンパクトカセット」の磁性体の改良などによる音質向上にともない、カーステレオ用としても使われなくなっていった。その後、カラオケ用、業務用として1980年代後半まで利用されが、「コンパクトカセット」の性能アップにおされて衰退していった。

小型テープレコーダー用として「マイクロカセット」が開発される

一方、1969年にオリンパスは、「コンパクトカセット」よりさらに小さい「マイクロカセット」を開発した。オーディオ用と言うよりも「コンパクトカセット」の4分の1程度の小型カセットである特徴を生かして、会議の録音用、ビジネスマンの会話録音用、留守番電話機用などの小型テープレコーダー用テープとして開発されたもの。したがって、録音する音質よりも録音時間の長さが優先された。テープ速度は、2.4センチ/秒の標準スピードと、1.2センチ/秒の低速モードがあった。カセットサイズは小さいものの、最大録音時間90分のものも発売されていた。オリンパスは「パールコーダー」の商品名で録音用のマイクロカセットレコーダーを発売、今日のICレコーダーのような用途として人気を呼んだ。

テープ速度が遅くポータブルオーディオ用としては不向きだった

また、カセットサイズが超小型であることを生かしてポータブルオーディオ用として「マイクロカセット」を使うチャレンジがなされた。オリンパス、日本ビクター、アイワ、ソニー、三洋電機、松下電器産業などが「マイクロカセット」を使ったポータブルオーディオをはじめとする様々な商品を開発した。しかし、テープ速度が2.4センチ/秒と「コンパクトカセット」の4.76センチ/秒に比べて約半分しかないのが大きなネックとなった。音質を向上させるためメタルテープを採用した「マイクロカセット」も発売されたが、いかんせんテープ速度の遅さを克服できず、高域の再生周波数は10KHzが精一杯で、「コンパクトカセット」のノーマルポジションよりも音質は劣っていた。このため、後に半導体メモリを使ったICレコーダーが登場するまで、持ち歩くメモ録音用、電話機の留守録音用、パソコンの外部記憶装置など、限られた分野で使用されたが、それらの分野において記憶装置のIC化が進むつれ衰退していった。

オープンリール並の音質を目指した「エルカセット」が登場

一方、「マイクロカセット」とは逆な方向を目指して開発されたのが「エルカセット」。1976年にソニー、松下電器産業、ティアックの3社が共同で提唱した規格。この頃の「コンパクトカセット」は、まだ発展途上にあり、オープンリールの音質には遥かに及ばず、オーディオメーカーとしては市場を拡大するためにオープンリール並の音質を確保できるカセットテープを必要としていた。「オープンリールの音を、カセットに」を目指して開発されたカセット規格で、カセットは152×106×18ミリの文庫本サイズ、テープ幅は6.3ミリとオープンリールテープと同一だった。テープ速度は9.53センチ/秒で「コンパクトカセット」の2倍だった。4つのトラックを持ち、A面/B面それぞれ2チャンネルのステレオ録音が可能となっている。

カセットサイズ テープ速度 テープ幅
コンパクトカセット 100X64X10mm 4.76cm/秒 3.81mm
8トラック・カートリッジ 102X136X22mm 9.5cm/秒 6.35mm
マイクロカセット 50X33X8mm 2.4㎝/秒(標準) 3.8mm
エルカセット 152X106X18mm 9.53㎝/秒 6.3mm

主なカセットテープの種類

他のオーディオメーカー、オーディオマニア層から賛同を得られず

しかし、「エルカセット」規格は、他のオーディオメーカーが賛同するまで時間がかかったり、「コンパクトカセット」にメタルテープが登場したりして、性能がアップしていったことが普及の障害となった。さらに、「コンパクトカセット」デッキにノイズリダクションシステムが採用され音質が飛躍的に向上していったことも影響した。しかも、音質にこだわるマニア層は、オープンリールデッキで、より音質の良い19センチ/秒の速いテープ速度を愛用するようになっていたことで、オープンデッキユーザー層からも賛同を得られなかったことが普及の障害となった。

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、オリンパスHP、JEITA・HP、東芝HP、東芝科学館ほか