デジタルメディアならではの多彩な編集機能と文字入力を可能としたMD

MDは、デジタル方式であり、かつディスクメディアであることから多彩な編集機能と、文字入力が可能な点が大きな魅力。再生専用MDの内周部にはTOC(テーブル・オブ・コンテンツ)があり、曲番や演奏時間などの情報が記録されている。これによりピックアップを指定のアドレスに移動させて演奏する目次の役割をはたしている。しかし、録音・再生用MDの場合は、曲番や曲の位置、タイトルなどを書き換えることが出来なければならない。これに対応するためUTOC(ユーザー・テーブル・オブ・コンテンツ)が採用されており、これにより多彩な編集機能と文字入力を可能としている。

曲名、録音時間、アーチスト名などの情報を記録

MDは最大255のトラックを持ち、TOC/UTOCでこれらのデータを管理する。「セクタ0」では、基本情報と曲の開始、終了アドレスを、「セクタ1」では、タイトル、アーチスト名などをアスキーコードで記録。「セクタ2」では、録音年月日、時間情報を、「セクタ3」はTOCのみ使用でバーコードなどを、「セクタ4」ではタイトル、アーチスト名などをISOやシフトJISコードで記録、漢字も使える。

セクタ0基本情報と各曲の開始、終了アドレス
セクタ1ディスクと各曲のタイトル、アーチスト名(アスキー・コード) 半角カタカナ、英数字が使用可能
セクタ2 ディスクと各曲の録音年月日時分秒
セクタ3ディスクのバーコードと各曲のISRC
セクタ4ディスクの各曲のタイトル、アーチスト名(ISOまたはシフトJISコード) カタカナ、英数字、漢字、ひらがな が使用可能

TOC/UTOC各セクタへの割付(セクタ3はTOCのみ)

多彩な編集を可能としたPリンク

また、MDはクラスタ単位で間欠記録するので1曲をスムーズに再生するにはクラスタをきれいに繋いでいかなければならない。そのクラスタとクラスタを正確に繋ぐのがリンクセクタで、P(ポインター)リンクが活躍する。MDの録音時には1曲が連続記録されない場合もあるので、これをPリンクが正しく繋ぎ合わせる。Pリンクは「ここまでいったら、次はここですよ」と指示して繋ぎ合わせるので、曲をスムーズに再生する事が出来る。例えば、プラモデルなどで、1つの箱の中にバラバラに入れられた部品を正しく繋ぎ合わせて、完全な形に組み立て完成させる作業に似ている。

イレース、ディバイド、コンバイン、ムーブの4つの編集機能

この機能を使ってMDは多彩な編集が可能となる。基本的にはイレース(消去)、ディバイド(分割)、コンバイン(連結)、ムーブ(移動)の4つの編集機能がある。録音した曲をイレースする場合、1曲だけ消す、すべての曲を消す、曲の一部分だけ消す、などのパターンがある。磁気テープをメディアとしたカセットテープなどでは、録音されている部分を消去しながら、新しく録音していくが、MDでは消去する曲部分はフリーエリアに登録し、消去する曲以降の曲のアドレスを書き換えることになる。さらに、曲の一部分を消去する場合はPリンクを使い、消去する前の部分から、消去した後の部分に繋ぐ指示が書き込まれる。同様に、連結や移動する場合もアドレス、トラックナンバーを書き換えればよい。

英数字やカタカナだけでなく漢字やひらがなも記録可能

さらに、MDはデジタルならではの文字入力が可能という特徴がある。これは、アナログのコンパクトカセットでは不可能な機能であり英数字やカタカナだけでなく漢字やひらがなも記録できる。記録できる文字数は限られるもののユーザーにとってはありがたい機能だ。「セクタ1」では、半角カタカナと英数字を記録できる。また、「セクタ4」ではシフトJISで漢字やひらがなも入力する事が出来る。「セクタ1」でのカタカナは当初からほとんどの機種で使えたが低価格機種では「セクタ4」で漢字を入力することは出来なかった。リモコンのテンキーに携帯電話のように50音を割り振ったタイプが発売されてから普及に弾みがついた。そして、高級機に限られるがキーボードが接続可能なものや、パソコンと接続できるタイプ、漢字表示対応リモコン装備など、様々なタイプが登場してきた。

著作権保護のためSCMS(シリアル・コピー・マネージメント・システム)採用

また、MDはデジタル録音メディアであるため、カセットテープと比べて音質の劣化の無いダビングが可能となる。そのために著作権保護が必要となりSCMS(シリアル・コピー・マネージメント・システム)が採用された。著作権のある音楽ソフトからのデジタルコピーは1世代だけに制限する機能である。例えば、デジタル音源であるCDからMDにデジタルコピーできるのは1世代だけ可能とするコピーガード技術。どうしても、それ以上コピーしたい場合は、一度アナログに戻してからコピーすることになる。アナログでのコピーならガードがかからないため何度でも可能となるがDA変換とAD変換が行われるので音質への悪影響は避けられない。それでも直径12㎝のCDを使うポータブルCDプレーヤーの大きさと比べて、直径6.4㎝のMDを使用するポータブルMDプレーヤーは、はるかに小さく、携帯性に優れているためオーディオファンの人気を集めた。また、ユーザーが自分で手軽にデジタル録音できるMDは、個人ユーザーだけでなく音楽学校や巷のミュージシャンの間で利用された。

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、「MDのすべて」(電波新聞社)ほか