MDファミリーを構築し、実質的な業界標準であるデファクトスタンダード化を目指す

ソニーは、日米で相次いでMDの規格を発表すると、いち早く世界中のハード、ソフトメーカー各社に、MD規格の採用を呼びかけた。

その狙いは、ソニーを中心としたMDファミリーを構築し、実質的な業界標準であるデファクトスタンダード化を目指したからである。急ぐ必要があったのは、同じくこの時期にフィリップスを中心としたDCCも規格提案されていたからである。そしてソニーは、日米欧のハード及びソフトメーカーに対して、MDのメリットを説明するとともにデモンストレーションを展開した。この努力のおかげで有力なハード、ソフトメーカーとライセンス契約締結に成功して行った。

オーディオ専業メーカー、家電メーカーなど主要な電機メーカーが参入

そしてソニーの呼びかけに応じて、MDに参入したハードメーカーは、パイオニア、オンキョー、アイワ、ケンウッド、ティアックなどのオーディオ専業メーカーをはじめ、松下電器、東芝、三洋電機、シャープなどの家電メーカーも参入した。一方、コンパクトカセットなどを生産していた磁気テープメーカーも録音・再生用MDに相次いで参入して行った。

過去の規格競争からの反省を活かす

実は、規格競争と言う点では、過去にソニーも苦い経験をしており、その反省に立って、MDでは同じ失敗はしたくないと言う思いが強かった。1976年からの「ビデオ戦争」と言われるほどのVTRの規格競争があった。当時の日本ビクターが提案するVHS規格対ソニーが提案するベータマックス規格の、日本国内はもとより世界中のハード、ソフトメーカーを巻き込んだ戦いだった。10年以上にわたる世界を2分する激しい戦いとなったが、結局は日本ビクターのVHS規格が勝ち残り、ソニーのベータマックス規格は自然消滅する結果となった。

また、小型フロッピーディスクの規格においても新規格同士のスタンダード戦争が勃発した。1981年に松下電器を中心とする日立、日立マクセルの3社が3インチのフロッピーディスク規格(3インチFD)を提案した。これに対してソニーは、1981年発売の英文ワープロ「シリーズ35」の外部記録媒体として3.5インチフロッピーを搭載し発売した。そして、この3.5インチFD規格を業界他社に提案した。しかし、最初に3.5インチFDを採用したのは一社に過ぎなかった。その後、1983年になるとアップルが動き主力パソコンのマッキントッシュに採用した。また、IBMがパソコン「IBM・PC」に採用したことで、3.5インチFDが規格競争に勝利する結果となった。そのおかげでソニーは世界一のフロッピーディスクドライブメーカーとなった。こうした、VTR規格や小型FD規格における経緯があるだけにMD規格がDCCに打ち勝つために、世界中のハード、ソフトメーカーの協賛を得てMDをファミリー化、デファクトスタンダードとすることに全力を注いだのだった。

MDファミリーへの供給体制強化がMD普及への原動力に

さらに、新しい規格であるMDをいち早く立ち上げるためには、ハード、ソフトメーカーのMDファミリー化に加えて、音楽MDソフト、録音再生用MDをファミリーへ供給することも必要となる。まだMD生産設備を持たないレコード会社へMDを供給し、音楽MDソフトを発売してもらわなければならない。ソニーではMDソフトの量産体制を1992年8月には整えており、同年秋には海外の工場でも生産が可能となっていた。こうしたMDファミリーへの供給体制の強化がMD普及の原動力となって行った。

MD登場から3年後にハードウェアの国内販売台数100万台突破

1982年のCD登場から遅れること10年、1992年に登場したMDは、順調に市場に根付いて行った。そして、3年後の1995年のMDのハードウェアの国内販売台数は100万台を突破した。ポータブルMDやMDデッキ、コンポへの組み込み、ラジカセへの搭載、カーオーディオへの搭載など手軽なデジタル録音、再生機器として普及して行った。

電子機器メーカーなどの団体であるJEITA(電子情報技術産業協会)の民生用電子機器の国内出荷統計によると、2000年のMD出荷台数は313万6千台、前年比106.3%となっている。この内、ポータブルタイプは295万7千台、前年比111.3%とMD全体の約94.3%を占めている。一方、同年のCDプレーヤーは235万1千台、前年比97.4%。内ポータブルCDは215万台となっており、いずれもMDの方が上回っている。ちなみに、同年のステレオセットの出荷台数は303万3千台、前年比106.3%。内MD付は256万7千台、前年比112.5%となっている。また、カーオーディオを見ると、カセット付きのカーステレオ317万2千台、前年比81.3%、カーCDプレーヤーは613万1千台、前年比124.0%、カーMDは54万3千台、前年比103.9%となっており、カーオーディオ分野ではカセットやCDが主力となっている。一方のMDはポータブルオーディオ分野で優位に立っている。この状況はMD開発初期からのソニーの狙いであり、市場はその通り進んで行ったと言えよう。

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MDファミリーの1社であるパイオニアのポータブルMD「PMD-R1」。デジタル録音、再生が可能。

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、「MDのすべて」(電波新聞社)ほか