新しいデジタル録音・再生機器としてICレコーダーが登場

1992年の発売以降、手軽なデジタル録音・再生機器として順調に普及したMDだが、やがて新しいデジタル録音・再生機器としてICレコーダー(ボイスレコーダーなど半導体メモリを使った録音再生機器)が登場したことでMDは衰退していくこととなる。皮肉にもMDは振動対策に半導体メモリを採用していたのだが、半導体メモリがICからLSI、そしてVLSIへの大容量化、大量生産による低価格化するにつれ、半導体メモリそのものが録音メディアとなって行ったことがMD衰退へとつながってしまった。

2002年からICレコーダーが出荷統計の項目に登場、44万7千台

各デジタルオーディオ機器の2001年からの国内市場の推移をJEITAの出荷統計で見てみるとその変遷が良く分かる。2001年は、CDプレーヤーが265万台(前年比112.7%)、MDが315万9千台(前年比100.8%)。2002年は、CDプレーヤーが247万9千台(前年比93.5%)、MDが317万2千台(前年比100.4%)とCDプレーヤーは前年を下回っているが、MDは若干だがまだ前年を上回っている。そして、この年から初めてICレコーダーが出荷統計の項目に登場しており、44万7千台、対前年比133.1%となっている。月間3万台から4万台規模と、CDプレーヤーやMDの6分の1程度の規模に過ぎないが、前年に比べて他の機器より大きな伸びを見せておりICレコーダーが着実に普及し始めたことを示している。

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グラフ:CDプレーヤー、MD、ICレコーダーの国内出荷台数の推移
(2009年2010年の統計無しは、集計項目が無いためで、出荷台数が0ではない。この時期は新しい製品が登場し、集計項目を何にするのか難しかったため)
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2004年MDが大きな転換期を迎え前年を下回る

さらに、2003年になると、CDプレーヤーが183万9千台(前年比74.2%)、MDが324万2千台(前年比102.2%)、ICレコーダーが65万4千台(前年比146.3%)となっている。CDプレーヤーは衰退傾向にあるとともに、MDは横ばい、ICレコーダーは高度成長と言ったところ。そして、2004年になるとMDは大きな転換期を迎えることとなる。この年は、CDプレーヤーが139万1千台(前年比75.7%)、MDが295万7千台(前年比91.2%)といずれも前年を下回った。特にMDは成長路線から衰退期に入ったことを示している。これに対してICレコーダーは72万3千台(前年比110.6%)と前年を上回った。

2006年からデジタルオーディオプレーヤーがJEITA統計に加わる

また、2005年は別の意味で大きな転換期を迎えている。CDプレーヤーが86万8千台(前年比62.4%)、MDが79万4千台(前年比54.5%)といずれも大幅に前年を下回り、ICレコーダーも68万6千台(前年比94.9%)とわずかだが前年を下回っている。実は、ICレコーダーは、会議の記録や、営業マンなどの交渉の記録、学生などの語学の勉強に使われるボイスレコーダーだった。そして、まだデジタルオーディオプレーヤーはJEITAの統計項目には入っていなかった。しかし、市場には登場し始めていた。そして、翌2006年から正式にJEITA統計に加わった。統計にはデジタルオーディオプレーヤー全体と、その内、半導体メモリを使用したタイプに分けられた。これは、わずかだが録音メディアにハードディスクドライブ(HDD)などが使われていたものもあったため。

一気にデジタルオーディオプレーヤー時代に

初めてICレコーダーに代わって、デジタルオーディオプレーヤーが統計に加わった2006年の出荷台数は、CDプレーヤーが74万台(前年比85.3%)、MDが68万9千台(前年比42.7%)とMDが急速に衰退している。一方、デジタルオーディオプレーヤーは、637万台、内半導体メモリタイプが546万4千台となっており、半導体メモリタイプが圧倒的な比率を占めている。デジタルオーディオプレーヤーは、CDプレーヤーやMDに比べて圧倒的な出荷台数となっており、一気にデジタルオーディオプレーヤー時代が到来したと言える。

2010年にMDが出荷統計から削除されMD時代が終焉

そして、翌2007年の統計からは半導体メモリからフラッシュメモリへと項目が変わっている。この年は、CDプレーヤーが64万1千台(前年比86.6%)、MDが33万8千台(前年比49.0%)、デジタルオーディオプレーヤーは600万3千台(前年比94.2%)、内フラッシュメモリタイプが509万5千台(前年比93.3%)となっている。

さらに、2009年には統計項目が大きく変更され、デジタルオーディオプレーヤーは統計項目から削除されたので出荷台数は分からない。しかし、この年のCDプレーヤーは69万3千台(前年比102.1%)と下げ止まり、MDは1万8千台で前年比の数字は出されていないが、計算すると5.3%となり、MDはほぼ消滅し、メーカーの生産もストップしたようだ。また、翌2010年にはMDは出荷統計の項目からも削除されており、MDの時代は終焉したのだった。

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、「MDのすべて」(電波新聞社)ほか