携帯電話やパソコンでminiSD、microSD採用機種増加が決め手に

小型・薄型化や記録容量、転送スピードなどの競争では、メモリースティックもSDメモリーカードと互角の戦いをしていたが、携帯電話やパソコンでSDメモリーカード対応機種が多くなってきたことが、SDメモリーカードを決定的な優位に導いていった。特にminiSDやmicroSD規格が登場してからは、小さな携帯電話にも採用しやすくなったため、採用する機種が増えていった。

また、パソコンでもメモリースティックやSDメモリーカードなどのスロットを持ち、外部記憶装置として使える機種が増えていった。メモリースティックやSDメモリーカード両方に対応したパソコンもあったが、やはりSDメモリーカード対応機種が優勢で、急速にSDメモリーカードのデファクトスタンダード化が進んだ。この他の製品では、携帯型ゲーム機やデジタルカメラの記録装置としてメモリースティックやSDメモリーカードが採用されたが、やはりSDメモリーカードを採用した製品が多かった。

ソニーも自社ブランドのSDメモリーカードを販売

一旦、こうした流れが出来るとその勢いに逆らうことが出来なくなる。無理に逆らうと、携帯電話やパソコンの販売で不利となってしまうからだ。このため、メモリースティックを推進していたソニーとしても、やむなくメモリースティックとSDメモリーカードの両方に対応したマルチリーダーを採用せざるを得なくなった。自社のパソコンVAIO、サイバーショットをはじめ携帯電話にもSDメモリーカード対応機種を発売し、SDアソシエーションにも加入するようになる。その後、ソニーが自社ブランドのSDメモリーカードを販売するに至って、SDメモリーカードが実質的なデファクトスタンダードとなり、両者の戦いは終わりを告げた。その後のメモリースティックの生産は、メモリースティック対応機器ユーザー向けの供給だけとなっていった。

デジタルオーディオへの影響

メモリースティックやSDメモリーカードは、デジタルオーディオプレーヤーの録音・再生用記憶装置としても利用されたが、デジタルオーディオプレーヤーには、HDD(ハードディスクドライブ)や半導体メモリーを内蔵した製品もあった。HDD内蔵タイプでは何と言ってもアップル社が2001年に発売したiPod(アイポッド)が代表的なもので、エポックメイキングな製品だった。アナログ全盛時代にコンパクトカセットを使った、ソニーのウォークマンがアウトドアでも音楽を楽しむ文化を生み出すとともに、世界的に流行し若者のファッションともなった。まさに、iPodはデジタル時代のウォークマンと言える存在であった。iPodが登場する前には、半導体メモリーやHDDを使ったMP3プレーヤーが様々な中小メーカーから発売されていたものの、著作権問題を解決しないまま普及した。このためアメリカレコード協会(RIAA)は、著作権侵害の訴訟を起こしていた。また、日本のオーディオ機器メーカーも、やっかいな著作権問題があったのでMP3プレーヤー参入には慎重な姿勢をしめしていた。

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アップルのデジタルオーディオプレーヤー「iPod」

国内ではあまりは普及しなかったMP3プレーヤー

また、MP3プレーヤーを使う上でパソコンとのデータやり取りが必要になるが、当時のパソコンの性能・機能では使いづらくパソコンの知識が十分でないと扱いづらかった。パソコンのOS(オペレーティングシステム)は、Windows 98が採用されていたが、度々フリーズを起こしてしまうことがあり、インタフェースも扱い易いものではなかった。さらに、多くのパソコンにCD-RWドライブが搭載されるようになり、CD-Rに録音してポータブルCDプレーヤーで楽しむことが可能となっていった。こうした背景から国内ではあまりMP3プレーヤーは普及する事無く終わった。

iPodの発売で本格的なポータブルデジタルオーディオプレーヤー時代へ

アップルのiPodが画期的なのは、圧縮フォーマットとしてMP3ではなくAAC(Advanced Audio Coding)を採用した事である。AACは、不可逆のデジタル音声圧縮を行う音声符号化規格で、MP3より高い音質を実現している。AACは、MPEG-2及びMPEG-4の音声用として標準化されたもので、ISO、IECの国際規格として認定されている。また、AACには著作権保護機能がありMP3プレーヤーで問題となっていたアメリカレコード協会(RIAA)との著作権問題も解消していた。音楽データの転送・管理ソフトにはiTunesバージョン2.0が使われていた。記録装置には1.8インチHDDを採用しながらも小型・軽量で薄型化を実現していた。

Windows対応モデル発売で普及に拍車がかかる

操作性においては、液晶画面とホイール操作機構を持ち、液晶画面を見ながらホイールを指で押さえるだけの簡単操作が特徴で、デザイン的にも若者に受けた。この2001年11月発売の第1世代モデルは、価格47,800円でHDD容量5GBを持ち約10時間の音楽再生が可能だった。さらに、2002年3月にはHDDの記録容量を10GBにアップしたモデルを62,800円で発売している。なお、両機種ともパソコンのOSはアップルのMacだけの対応となっていた。しかし、当時パソコンのOSはWindowsが圧倒的なシェアを持っていたのでWindows対応のモデルも発売せざるを得ず2002年9月にはWindows互換モデルが発売されたことで一層普及に拍車がかかることになる。

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、「MDのすべて」(電波新聞社)ほか