エレクトロニクス立国の源流を探る
No.144 電蓄からデジタルオーディオまで 第46回
iPod発売以前の1999年からデジタルポータブルオーディオプレーヤー商戦始まる
デジタルポータブルオーディオプレーヤーの歴史を振り返ると、2001年にアップルがiPodの初代モデルを発売したあたりから市場が活発化したわけだが、実はそれが始まりではない。iPod登場前の 1999年12月にソニーが、メモリースティックウォークマン「NW‐MS7」(価格45,000円税別)を発売した。カセットテープ、CD、MDのウォークマンに加えメモリースティックを録音媒体としたデジタルポータブルオーディオプレーヤーを発売し、デジタル・ネットワーク時代に向けスタートを切っている。当然、著作権保護技術「Magic・Gate」を採用し、パソコンとのコンテンツのやり取りは「Open・MG」を採用することで著作権保護に対応していた。また、音声圧縮技術にはMDに比べて約2倍の性能を持つ「ATRAC3」を採用していた。さらに、2000年にはフラッシュメモリー内蔵により一段と小型・軽量化を図ったネットワークウォークマン「NW-E3」を発売した。胸ポケットに入る小型ライター並のサイズ、市販のアルカリ単4電池1本で約5時間の連続再生が可能だった。付属のニッケル水素充電池でも約4時間の連続再生ができた。
また、この2000年は、松下電器産業(現パナソニック)もSDメモリーカードを搭載したデジタルポータブルオーディオプレーヤー「SV-SD70」を発売している。さらに、ヘッドフォン一体型モデルの「SV-SD01」も発売した。BSデジタル放送に採用されているAAC仕様で付属のソフト「SD-Jukebox」でCD、MP3をAACに変換できた。アルカリ単4電池1本で約4時間の連続再生が可能だった。さらに、2000年12月にはMP3に対応した「SV-SD75」も発売している。そんなわけで、ソニーや松下電器産業など国内メーカーはむしろアップルより先行していた。
フラッシュメモリーの採用により多彩なスタイルの商品が可能に
フラッシュメモリーの採用により小型・軽量化ができるようになったことから耳かけ式のモデルなど、アウトドアで音楽を楽しむことをセールスポイントとしたデジタルポータブルオーディオプレーヤーが登場してくる。ソニーは2001年にスタイリッシュな耳かけ式のネットワークウォークマン「NW-E8P」を発売、自由なアウトドアリスニングを提案した。64MBフラッシュメモリーを内蔵し、単4形アルカリ電池1本で約7時間の連続再生が可能。さらに、同年にUSBクレードル付属のネットワークウォークマン「NW-E7/E10」を発売した。付属のUSBクレードルにより簡単にパソコンと接続し、充電も可能となっている。なお、ソニーでは同時並行でMDウォークマンも販売しており、2001年にもMDロングプレイモード採用の「MZ-E600」を発売し、主に女性や10代~20代の若者に使いやすさを訴求している。
2001年にアップルがiPod発売以降、急速にデジタルポータブルオーディオプレーヤー市場が拡大していくことになり、東芝やビクターをはじめ新規参入メーカーも増えた。そのため市場の動きはめまぐるしく、数多くの新製品が発売された。その中でも代表的な注目モデルを年表にまとめてみた、ご参照いただければ幸いである。
1999年 |
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・ソニー(メモリースティックウォークマンNW-MS7) メモリースティック採用 |
2000年 |
・ソニー(ネットワークウォークマンNW-E3) フラッシュメモリー採用 ・パナソニック(SDオーディオプレーヤーSV-SD70) AAC対応 ・パナソニック(SDオーディオプレーヤーSV-SD75) MP3対応 |
2001年 |
・ソニー(ネットワークウォークマンNW-E8P) フラッシュメモリー採用。耳かけ式 ・ソニー(ネットワークウォークマンNW-E7/NW-MS11) フラッシュメモリー採用/メモリースティックタイプ ・アップル(iPod) 5GB/10GB・HDD搭載、Mac対応 ・パナソニック(SDオーディオプレーヤーSV-SD80) MP3対応 |
2002年 |
・ソニー(ネットワークウォークマンNW-MS70D) フラッシュメモリー採用&メモリースティックDuoで増設可能 ・東芝(ギガビートGシリーズ) 5GB・HDD搭載 ・アップル(iPod) 10GB/20GB・HDD搭載、Mac/Win対応。タッチホイール採用 |
2003年 |
・アップル(iPod) 10GB/20GB/40GB・HDD搭載、Mac/Win対応。タッチボタン採用 |
2004年 |
・アップル(iPod mini) 4GB・HDD搭載、Mac/Win対応。カラー液晶 ・東芝(ギガビートFシリーズ) 10GB/20GB/60GB・HDD搭載 ・アップル(iPod) 20GB/40GB・HDD搭載、Mac/Win対応。USB端子接続可能 ・アップル(iPod photo) 40GB/60GB・HDD搭載、Mac/Win対応。カラー液晶 ・ソニー(USBメモリープレーヤー・パビ) MP3対応。256MB、USB2.0、アイワブランドで発売 ・ソニー(ポータブルハードディスクプレーヤー・ギガ・パビ) 1.5GB・HDD搭載。アイワブランドで発売 ・ソニー(ネットワークウォークマンNW-HD1) 20GB・HDD搭載 ・ソニー(ネットワークウォークマンNW-HD3) 20GB・HDD搭載。(NW-E99)1GBフラッシュメモリー内蔵 |
デジタルポータブルオーディオプレーヤーの代表的な注目モデル
実質的にはアップルとソニーの2横綱の戦いに
ネットワークオーディオ時代の幕開けにより、数多くのメーカーが市場に参入したといっても、実質的にはアップルとソニーの2横綱の戦いであり、大関、小結、関脇といった三役クラスはおらず、3番手といっても平幕あたりだった。東芝は2002年にGIGABEAT「Gシリーズ」を発売、シリーズ化して行く。同社は小型HDDやフラッシュメモリーに関しては高い技術力と生産能力をもっており、他社にも供給していたわけで、ネットワークオーディオ市場への参入は自然ななりゆきといえる。初代iPodにも東芝製の1.8インチ小型HDDが使われている。GIGABEATにも1.8インチ5GBの小型HDDを搭載している。大容量バッテリーを採用し、18時間連続再生を売りにしていたが、本体質量が235gと少し重かったことや、翌月にアップルがiPodの第二世代モデルとしてWindows対応モデルを発売したこともあって、そちらにオーディオファンの関心が行ってしまたため、あまり注目されなかった。この2002年には、ソニーが録音媒体にフラッシュメモリーを採用し、メモリースティックDuoを増設することも可能なネットワークウォークマン「NW-MS70D」を発売している。
2003年に入るとアップルは操作部にタッチボタンを採用するとともにドックコネクタを採用したiPodを発売した。さらに、2004年にはカラー液晶を採用したiPod miniを発売した。日立製の1インチHDDやリチウムイオン電池を採用することで大幅に小型化された。HDD容量は小型化により4GBと少なくなったが、それでも約1000曲録音できたのでヒット商品となった。アップルのiPodは、後にiPod classicと呼ばれる初代モデルからの流れと、このiPod miniの2系統となる。
百花繚乱の様相を呈してきた2004年
2004年はデジタルポータブルオーディオプレーヤー市場が一段と活発化したことから、多くの新モデルが登場し百花繚乱の様相を呈してくる。アップルはiPod miniに加えて第4世代モデルiPodや、新たなシリーズiPod photoを発売した。iPod photoは、カラー液晶と写真表示機能を搭載した新しいコンセプトの製品で音楽再生15時間、写真のスライドショーなら5時間可能だった。ソニーもアップルに対抗して、相次いでネットワークウォークマンの新モデルを投入した。20GB・HDD搭載の「NW-HD1」、「HD-3」、さらに1GBフラッシュメモリー内蔵の「NW-E99」などを発売した。「NW-HD1」は20GB・HDD搭載により、約30時間の長時間連続再生を可能とし、1.8インチHDD搭載モデルとしては、世界最小・最軽量を実現するとともに、スタミナ、高音質、操作性、堅牢製を兼ね備えアップル追撃の戦略機種だった。HDDを衝撃から守る耐衝撃ダンパーとGセンサーを搭載、CD約900枚分、最大約13,000曲もの曲を記録可能としたモデル。
初代ウォークマンからのトップメーカーの地位をゆずるわけにはいかないソニー
また、この年には東芝も10GB、20GB、60GBのHDD搭載ギガビートFシリーズ3機種を発売した。そしてソニーは吸収合併したアイワブランドで、128MBと256MBのUSBストレージメディア"pavit"と、"pavit"を差し込んで使うことができる"ポータブルUSBメモリープレーヤー"「AZ-RS256」、FMラジオ付きの「AZ-BS32」などを発売した。USBストレージメディアを使うことで、パソコンを日常的に使うユーザーに対して音楽を楽しむ便利さをアピールした製品である。さらに、アイワブランドによる厚さ約10.6mmで世界最薄、質量約68gで最軽量の名刺サイズ"ポータブルハードディスクプレーヤーGiga・pavit(ギガパビ)"「HZ-WS2000」を発売した。1インチの超小型1.5GB・HDDを搭載し、CD約25枚、約375曲を保存できた。胸ポケットにすっぽり納まる凹凸の無いすっきりとしたデザインと多彩なカラーバリエーションがセールスポイントだった。この時期、ポータブルオーディオ市場はアップルが一歩リードしていたが、カセットテープによる初代ウォークマンでポータブルオーディオプレーヤー市場を築いたソニーの先駆者としての覚悟が現れた2004年といえる。
参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HPほか