スタートダッシュしたアップルが首位を独走

2001年にアップルがiPodを発売し、翌2002年にWindows対応モデルを発売したあたりがデジタルポータブルオーディオプレーヤー商戦の実施的なスタートとするならば、アップルは一気にスタートダッシュをかけ首位を独走したことになる。この首位独走状態はその後も続いた。代表的な新製品を掲載した年表にある通り、ソニーをはじめ新規参入メーカー各社も次々と新製品を発売し、追いかけるのだが、アップルも毎年、記録容量のアップ、操作性の向上、カラー液晶の採用など相次いで新製品を投入し、首位の座をキープした。調査会社BCNが発表した「携帯オーディオランキング」によると、2004年の販売台数シェアは、アップルが38.1%、ソニーが5.3%と大差が付いている。

約10年間もアップルの首位が続いたポータブルオーディオプレーヤー市場

2005年以降も首位のアップルとの差を何とか縮めようと追いかけるのだが、容易ではなかった。結論を先に言うと、この状態は2010年まで10年間続いた。それだけiPodのパワーは絶大だったといえる。この間のアップルとソニーの戦いを中心に見てみると、アップルは、2005年に新シリーズiPod shuffleを発売し商品ラインアップを強化した。iPod shuffleは初めてHDDに代わって512MBと1GBフラッシュメモリーを記録媒体に採用した2モデル。フラッシュメモリーを採用したことで、本体サイズは24.9×83.8×8.3mm、質量22gの小型・軽量化を実現している。USBコネクターを装備、パソコンのUSBポートに接続して曲を入れたり充電したりできる。注目すべきは小型・軽量化だけではない。それまでのiPodは3万円~5万円と高価だったが、iPod shuffleは512MBモデルで10,980円、1GBモデルでも16,980円と低価格化、iPodを買いたくても手が出なかった層でも買い易くなった。

iPod miniから、より小型化・軽量化したiPod nanoに移行

さらにアップルは2005年に、前年発売のiPod miniより小型化を図ったiPod nanoを発売した。iPod miniは日立製のマイクロドライブを採用していたが、フラッシュメモリーに切り替えることで本体サイズを90×40×6.9mm、質量42gと、さらに小型化・軽量化したモデル。この結果iPod miniの生産は中止され、iPod nanoが後継モデルとしてシリーズ化されていく。また、iPodも60GB・HDD搭載、2.5インチカラー液晶搭載によりビデオ再生も可能となった第5世代モデルが発売され、ラインアップが一層充実してきた。

しかし、iPod miniやiPod shuffleの発売時に、販売店に潤沢に製品が出荷されず混乱を起こしている。発売日に店頭に購入希望者が並んだり、買い物客で込み合っている店舗の光景がテレビ放送されたり、新聞に掲載されたりした。アップルが意図的に演出した訳ではなかろうが、部品調達が予定通り行かないのか、生産ラインの能力不足なのか、この毎度繰り返される光景が逆に一層人気をあおる結果となった。

ソニーもラインアップを大幅に増強しアップルを迎え撃つ

アップルのiPod新製品攻勢に対して、ソニーは2005年春にネットワークウォークマン7機種26モデルを一気に投入し戦力を強化した。一層の小型・軽量化はもちろん、有機ELディスプレイを搭載したモデルも投入した。有機ELディスプレイを搭載することで操作性の向上と高いデザイン性を持たせたモデル。そして多彩なカラーバリエーションとメモリ容量によりラインアップを拡充している。

さらに、同年秋には、手の中にすっぽり納まるコンパクトボディにUSB端子やFMチューナーを内蔵した新デザインウォークマン「NW-E305/307」を発売した。手になじみやすい丸みのある形状で、片手で簡単に操作できる使い易さがセールスポイントだった。最長約50時間の連続再生、"3分充電・3時間再生"の急速充電対応のほか、漢字表示対応の有機ELディスプレイを搭載していた。さらに、ソニーは同年末、新・ウォークマンAシリーズをiPod対抗モデルとして発売した。このAシリーズは、ソニーの主力シリーズとして後々まで継続していくことになる。Aシリーズは、それまでのウォークマンのデザインを一変させ、曲線を立体的に用いた流線形の本体に、大型の有機ELディスプレイを装備した。6GB・HDD搭載モデルと、20GB・HDD搭載モデルに加え、フラッシュメモリー512MB、1GB、2GB内蔵の3モデルを加えた5モデルを発売した。

東芝がギガビートXシリーズ、Pシリーズを相次いで発売

アップルとソニー以外では、東芝が2005年にギガビートXシリーズ、Pシリーズを相次いで発売している。ギガビートXシリーズは、前モデルのFシリーズを小型化するとともに、液晶ディスプレイを大型化したモデル。2.6型カラー液晶を搭載し26万色の表示が可能。また、Pシリーズは、フラッシュメモリー内蔵のコンパクトモデルで、1.1型カラー有機ELを採用している。

3.5型カラー液晶やスピーカー内蔵でワンセグテレビ放送を楽しめる

さらに、2006年に入ると東芝はギガビートSシリーズ、Vシリーズを発売し、ギガビートのラインアップを強化した。Sシリーズは、2.4型カラー液晶を搭載し、動画の再生が可能となった。また、Vシリーズは、デジタルポータブルオーディオプレーヤーとしては初めてテレビのワンセグ視聴を可能にしたモデルだった。3.5型の大型カラー液晶を搭載するとともに、スピーカーも内蔵しており、ワンセグテレビ放送を楽しめる。こうした様々な特徴を持った製品が登場し、音楽データの再生ばかりでなく、FM放送やテレビ放送まで楽しむ事ができるようになってきた。このように、単に音楽を楽しむ機器としてのデジタルポータブルオーディオプレーヤーから、写真や動画の記録・再生、FM放送やテレビ放送の受信など多彩な機能を備えたマルチメディア機器へと進化してきた。そして、電話機能、メール機能などが加われば、後の高機能電話機やスマートフォンに近いものになる。

2005年

・アップル(iPod shuffle)

  512MB/1GB・フラッシュメモリー、Mac/Win対応。USB端子接続


・アップル(iPod mini)

  6GB・HDD搭載、Mac/Win対応。カラー液晶


・アップル(iPod nano)

  1GB/2GB/4GB・フラッシュメモリー、Mac/Win対応。USB端子接続


・東芝(ギガビートXシリーズ)

  20GB/30GB/60GB・HDD搭載


・東芝(ギガビートPシリーズ)

  5GB/10GB/20GB・HDD搭載


・アップル(iPod)

  30GB/60GB・HDD搭載、Mac/Win対応。大画面カラー液晶。USB端子接続


・ソニー(新・ウォークマンAシリーズ)

  HDD搭載タイプ、フラッシュメモリー内蔵タイプなど5機種


・ソニー(ネットワークウォークマン)

  512MB/1GBフラッシュメモリー内蔵

2006年

・東芝(ギガビートSシリーズ)

  30GB/60GB・HDD搭載


・東芝(ギガビートVシリーズ)

  30GB・HDD搭載


・アップル(iPod nano)

  2GB/4GB/8GB・フラッシュメモリー、Mac/Win2000対応。USB端子接続


・ソニー(ウォークマンSシリーズ)

  1GB/2GB/4GBフラッシュメモリー内蔵

2005年~2006年

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、東芝HP、BCN RETAIL、JEITA・HPほか