ソニー、ウォークマンSシリーズ3機種の売れ行き好調に自信深める

ソニーがアップルのiPodに対して十分戦えると自信を深めたのが2006年10月に発売したウォークマン「NW-S703F」などSシリーズ3機種の売れ行きが好調だったことだろう。好評を得た要因は、高音質技術「クリアオーディオテクノロジー」の採用や、「ノイズキャンセリング機能」を本体に内蔵したこと。さらに、大口径13.5㎜密閉型ドライバーユニットを採用し、クリアで迫力のあるサウンドを再生できるEXヘッドホンを付属したことである。このSシリーズによってシェアアップの手掛かりを掴んだと言えるだろう。

また、Sシリーズはマルチコーデック対応となっておりMP3/ATRAC/WMA/AACに加え、新たにATRAC Advanced(アドバンスド)Lossless(ロスレス)とリニアPCMの再生に対応したことが好評だった。パソコンを使わなくてもCDやMDなどのポータブルオーディオプレーヤーや、コンポから、ウォークマン本体で音楽を直接録音できる「ダイレクトエンコーディング」機能を搭載。直接録音が可能なファイル形式は、高音質ATRAC形式に加えリニアPCM形式にも対応している。ウォークマン本体で録音した楽曲は、パソコンと接続して音楽管理ソフトウエア「Sonic Stage CP」に取り込むことができ、インターネット経由で録音した曲の情報も取得できた。そして、曲名やジャケット写真がついた楽曲をもう一度ウォークマンに転送することも可能だった。

オーディオ専門メーカーならではの製品群で多彩な使用シーンを提案

さらに、ソニーは、ウォークマンをワイヤレスで楽しめるBluetooth(ブルートゥース)対応アクセサリーや、ウォークマンを家の中でも高音質で楽しめるS-Masterデジタルアンプ搭載のクレードルオーディオなどアクセサリー15機種を同時に発売、Sシリーズの販売を支援、オーディオ専門メーカーとして総合力を発揮したことも有利にはたらいた。「Bluetooth」対応アクセサリーを使ってウォークマンなどの音楽を、外出先でも家の中でもワイヤレスで快適に楽しむことができる。家の中では、ウォークマンに2.1ch S-Masterデジタルアンプ搭載のクレードルオーディオ「CPF-NW001」を組み合わせることで、充電しながら高音質な音源を迫力のある低域とクリアな高域で再生して楽しむことも可能。専用スタンド「BCR-NWS700」を使えば、パソコンやHDDコンポ "ネットジューク"と簡単接続しウォークマンを置くだけで、楽曲転送や充電が可能となった。さらに、外出用アクセサリーとしてファッションとコーディネートできるレザーネックストラップやレザーケースなどバリエーション豊かなアクセサリーを用意したことも好評だった。この一連の製品群によってオーディオ専門メーカーらしい提案ができたことが後々のシェア挽回につながって行った。

音と映像を融合した多彩な機能を前面に打ち出したソニー

2007年に入るとソニーとアップルの戦いは一層激しくなる。ソニーは、USB端子でパソコンやHDD搭載コンポ"ネットジューク"とダイレクトに接続が可能な"ウォークマンEシリーズ"3機種を発売。ジャケット写真も表示できる3行カラー液晶ディスプレイの搭載や3分充電3時間再生、最長約30時間の連続再生など使いやすい操作性に加え、高音質技術「クリアオーディオテクノロジー」を採用し高音質音楽再生も実現、オーディオメーカーらしい製品に仕上げている。さらに、高音質を追求した"ウォークマンSシリーズ"「NW-S710」「NW-S610」を発売、ラインアップを強化した。1.8型カラー液晶を採用しビデオ再生や曲検索も可能とした。高音質技術「クリアオーディオテクノロジー」、「ノイズキャンセリング機能」内蔵している。この頃のソニーの戦略としては、高音質化、USB端子搭載HDDコンポとの連動、カラー液晶採用によるビデオ再生といった、エレクトロニクス総合メーカーとして音と映像を融合した多彩な機能を前面に打ち出してきたことである。また、それまで販売してきたHDD"ウォークマン"「NW-A1000」の販売を終了しており、"ウォークマン"はフラッシュメモリー、コンポはHDDとそれぞれの特徴である"コンパクト性"と"大容量"を使い分けることを明確化した。

2007年、アップルがスマートフォン初代iPhoneを米国で発売

この2007年はアップルにとって大きな方向転換をした年といえるかもしれない。米国でスマートフォン初代iPhoneを6月に発売開始、ポータブルデジタルオーディオプレーヤーからスマートフォンへとシフトはじめた年でもあった。もちろんポータブルデジタルオーディオプレーヤーから撤退したわけではなくiPodシリーズにも力を入れている。そしてiPod touchを新シリーズとして同年9月に発売した。そして、ポータブルデジタルオーディオプレーヤーiPodと、スマートフォンiPhoneの両者を目的別に使い分けていく販売戦略だったのだろう。

外観的には双子のようなiPod touchとiPhone

iPod touchとiPhoneは、外観的には双子のようによく似ている。iPod touchは、iPodの代名詞のようになっていた操作ホイールを廃止し、マルチタッチパネルで操作する現在のスマートフォンのようなデザインとなっている。3.5インチワイド液晶(解像度480×320ピクセル)を搭載し、フラッシュメモリーは8GB、16GB、32GBの3モデル。サイズは、縦110×横61.8×厚さ8㎜で質量は120gとなっている。

iPhoneにはデジタルカメラ、マイク、スピーカー、GPSを搭載

一方、スマートフォンのiPhoneは、3.5インチワイド液晶(解像度480×320ピクセル)を搭載、フラッシュメモリーは4GB、8GB、16GBの3モデル。サイズは、縦115×横61×厚さ11.6㎜で質量は135gとなっている。そして、デジタルカメラ、マイク、スピーカー、GPSが搭載されており、これはiPod touchには無い機能。アップルのスティーブ・ジョブズは、iPhoneについて「タッチ操作のできるワイドスクリーンのiPod」であり、「革命的な携帯電話」「インタネットコミュニケーター」の3つの機能を統合した製品であると説明している。つまり、ポータブルデジタルオーディオプレーヤーiPodと多機能電話を融合したのがiPhoneというわけである。しかし、市場においては、スマートフォンiPhoneの存在が、iPod touchの販売ターゲットを明確に出来ない要素ともなった。

2007年

・東芝(ギガビートUシリーズ)

10GB/20GB・HDD搭載


・東芝(ギガビートTシリーズ)

4GBフラッシュメモリー搭載


・アップル(iPod classicシリーズ)

80GB/160GB・HDD搭載、Mac/Win対応。大画面カラー液晶。USB端子接続


・アップル(iPod nano) 4GB/8GB

フラッシュメモリー、Mac/Win対応。USB端子接続


・アップル(iPod touch) 8GB/16GB/32GB

フラッシュメモリー、iOS対応


・パナソニック(SDオーディオプレーヤー SV-SD850N)

MP3対応


・ソニー(ウォークマンSシリーズ)

1GB/2GB/4GBフラッシュメモリー内蔵、1.8型カラー液晶


・ソニー(ウォークマンEシリーズ)

1GB/2GB/4GBフラッシュメモリー内蔵、USBダイレクト接続可能

2007年

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、BCN RETAIL、JEITA・HPほか