アップルはポータブルデジタルオーディオプレーヤーよりスマートフォンに傾注

2009年あたりは、まだスマートフォンと音楽専用のポータブルデジタルオーディオプレーヤーの市場における棲み分けがどうなるのかはっきりとした方向性が見出せなかった。ただ、新製品の発売動向を見る限りではアップルは、スマートフォンに傾注しており、音楽専用のポータブルデジタルオーディオプレーヤー市場はシュリンクして行きスマートフォンがポータブルデジタルオーディオプレーヤーに取って代わると予測していたと思われる。

ソニーはポータブルデジタルオーディオプレーヤー市場に期待

一方、ソニーはスマートフォン市場がより大きくなって行くとしてもポータブルデジタルオーディオプレーヤーは一定の需要を確保し、それぞれが平行して存在していけると見ていたようだ。そうした見通しからか、ウォークマンの専用アクセサリーを拡大することで音楽専用機ならではの楽しみ方を広げて行くため、ウォークマン専用アクセサリー拡大に向けたライセンスプログラム「Designed for Walkman(デザインド フォー ウォークマン)」を開始した。ライセンシーに対してウォークマンとアクセサリーを接続する専用マルチ端子「WM-PORT(ダブリューエムポート)」の仕様を公開することで他のメーカーにもウォークマンと接続して楽しめる専用アクセサリー製造を開放した。ウォークマンの楽しみを広げるアクセサリー商品の拡大を図ることで音楽専用機ならでは魅力を高めていこうという狙いだった。

新製品発売にもアップルとソニーの音楽専用機に対する見解の違いが

こうしたアップルとソニーの音楽専用機に対する見解の違いから新製品の発売にも差が出ている。2009年のアップルは、同社の主力モデルのiPod touchの第三世代モデル、iPod Classicのメモリ容量を160GBにアップし、Genius Mixに対応したマイナーチェンジモデル。iPod nanoの第五世代モデルとなる新製品、それとiPod shuffleの第三世代モデルなどに留まっており、何か画期的な機能、性能を搭載した新製品は登場していない。これらの新製品は、メモリ容量のアップや、CPUの高速化、カラーバリエーションの追加、前モデルからの値下げなどが主な変更点だった。

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iPod shuffle第三世代モデル(右)、左は爪楊枝

ソニーはウォークマンの新シリーズなど多彩な新製品を発売

これに対して、ソニーはウォークマンの新シリーズの発売など相次いで新製品を発売している。2009年4月に同社のデジタルオーディオ技術を結集し、原音に近い音楽再生を実現したフラッグシップモデルとなるウォークマンXシリーズを発売した。メモリ容量32GBの「NW-X1060」と16GBの「NW-X1050」の2モデルがある。独自のフルデジタルアンプ"S-Master"をはじめとする6種類のデジタルクリアオーディオテクノロジーを搭載し、3.0型ワイド有機ELディスプレイを採用することで高音質・高画質を実現している。有機ELディスプレイの搭載により高画質な動画・静止画再生ができ、タッチパネル操作&ボタン操作を両立するハイブリッドオペレーションにより操作性も向上していた。また、無線LANを搭載し、インターネット接続に対応しているほか、ワンセグTV、FMラジオ、マルチコーデック対応などの高付加価値機能を搭載したモデル。

入門者拡大を狙ったエントリーモデルも発売、ラインアップを強化

さらに、着せかえパネルなどのアクセサリーで気分にあわせてコーディネートし音楽を楽しめるウォークマン「Eシリーズ」3機種を3月に発売した。USB端子を搭載し、パソコンにダイレクトに接続することで音楽の転送や充電が簡単にできる。2色のボディーカラーに多彩な着せ替えパネルを採用している。フラッグシップモデルのXシリーズに対してエントリーモデルであり、入門者拡大を狙ったシリーズ。そのため、フロントパネルに着せかえ機構を搭載、本体付属の着せかえ用パネルによって、1台で2つの異なるカラーバリエーションが楽しめる。よりポップで光沢感のあるデザインなどを揃え、ユーザーのファッションや気分、シチュエーションに合わせた着せかえができる。専用の別売アクセサリーも充実しており、ケースとストラップが一体となったシリコン製のウェアラブルキャリングケースは、本体に装着してバッグやベルトに簡単に取り付けることができ手軽に音楽を楽しめる。

また、2009年6月には、ネックバンドスタイルを採用し、エクササイズ時にも軽快に音楽を楽しめるヘッドホン一体型ウォークマンWシリーズを発売している。ヘッドホンコードが無く、エクササイズなどをしながらでも音楽を楽しむことができる。本体とヘッドホンが一体となった、ネックバンドスタイルの新しいウォークマンで、本体約35gの軽量化とともに、ずれにくく快適な装着感を実現している。「じっと音楽を聴く」から「動きながら音楽を聴く」ことへ進化させることで新たな需要拡大を狙ったモデル。

語学学習機能を搭載したSシリーズで新たな需要を開拓

さらに、同年10月には音楽に合わせて歌詞を自動スクロール表示することで歌う・聴く楽しみを広げるウォークマンSシリーズ9機種を発売した。音楽の進行にあわせて歌詞を自動的にスクロール表示する歌詞表示機能「歌詞ピタ」を始めて搭載したモデルで新たな需要を開拓していこうとする狙いがあった。もう1つの狙いは、再生スピードコントロールなど、3つの語学学習機能を始めて搭載したことである。外国語などの音声ファイルを保存して語学学習が行える機能。音声ファイルの再生スピードを、0.5倍速~2.0倍速の9段階から選択することができ、外国語のリスニング学習のなどに便利なことから、学生やビジネスマンなどへの需要を拡大しようというのが狙い。

同じく10月にウォークマンシリーズで最薄約7.2mmの本体に、フルデジタルアンプ"S-Master"をなど高音質技術、高画質再生を実現。2.8型ワイド有機ELディスプレイ、最大64GB大容量メモリを搭載したウォークマンNW-A840シリーズ3機種を発売している。このシリーズにも歌詞表示機能「歌詞ピタ」を搭載しており、語学学習や、テレビにウォークマンの音楽再生画面を出力し、歌詞を見ながらカラオケのように歌って楽しんだりできる。こうした両者の音楽専用機に対する取り組みの違いが2010年以降のマーケットシェアに徐々に変化が現れていくことになる。

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、BCN RETAIL、JEITA・HPほか