スマートフォンの登場によって音楽を楽しむツールの多様化

iPhoneをはじめとするスマートフォンの登場によって音楽を楽しむツールの多様化が進み、ポータブルデジタルオーディオプレーヤーの需要層も若い世代が中心となってきた。さらに、音源もインターネットを使って手軽に入手できるようになる。ハード面だけでなく、ソフトウェア面でいかにこうしたニーズに対応していくかが販売上、重要な要素となっていった。

アップルが2003年4月から「iTunes Music Store」開始

こうした市場の流れをいち早く察知したアップルは、他社に先駆け楽曲ダウンロード販売に取組んだ。それが米国で2003年4月から開始されたサービス「iTunes Music Store」だ。デジタル著作権管理機能を持っており、アップルのソフトウェアiTunesを使って楽曲のダウンロードが可能となる。このころ米国では違法なダウンロードが横行していたが、「iTunes Music Store」は著作権保護がしっかりしていたことが評価され普及していった。スタート時に配信されていたのは音楽の配信だけだったが、やがて映画、ビデオソフト、テレビ番組、ゲームなども配信されるようになっていった。

やがて、2004年に入ると、米国だけでなく英国やフランスなどヨーロッパ各国でもサービスが開始された。さらに、当初はアップルのMac OSへの対応のみだったのが、MicrosoftのWindowsへの対応も追加された。普及が急速に進んだ背景には、販売されている曲数が多いことや、1曲当たり米国では0.69ドル~1.29ドル、EUでは0.69~1.29ユーロと割安だったことである。さらに、インターネットの普及やクレジットカードによる決済が普及したことも後押しした。

日本でも2005年に「iTunes Music Store」サービス開始

日本では2005年にサービスが開始された。米国やヨーロッパより遅れたのは著作権保護問題やレコード会社との契約などの問題があったためである。それでも何とかレコード会社15社と契約でき、1曲当たり150円~200円で配信するまでにこぎつけた。しかし、いざサービスが開始されると、わずか4日間で100万ダウンロード突破と大人気となった。それでも、国の数、人口の違いが有るとは言えヨーロッパで、サービス開始後1週間で800万曲ダウンロードと比べると少ないと言えるだろう。

日本国内でのサービス開始が遅れたのは、DRM(デジタル著作権管理)システム「FairPlay」がCD-Rへの書き込みを禁止していないこと、配信価格が安いことがレコード会社にとって不満があったためと言われる。さらに、日本では、レコチョクという音楽配信サービスが有ったことや、レンタルCD店が全国的に普及していたことなども原因している。また、買い物時の支払いが現金払い主体で、クレジットカードやプリペイドカードによる支払いを好まないという国民的な意識、習慣が根強い点も見逃せない。

キャッシュレス決済の利用割合が少ない日本

話は、横道にそれるかも知れないが、クレジットカードによらない現金決済主体という問題は、現在においても国の経済に大きな影響を与えている。その一つに、海外からの観光客の買い物金額への影響があると言われる。海外からの観光客は沢山現金を持ち歩くことに不安があり、買い物も少なくなる傾向が見られると言うのだ。何処のどんな店で買い物をしてもキャッシュレス決済で買えるなら消費金額ももっと増えると言われている。政府はインバウンドを増やそうとする政策をとっているが、ある試算ではキャッシュレス決済が海外並みに普及したなら1兆円は観光客の買い物が増えるだろうといった予測もある。

政府もキャッシュレス決済促進策を、2027年に4割を目指す

皮肉にもこの原因の一つに日本は治安が良いということがある。現金を持ち歩いても強盗やスリの被害にあうことが少ないからだ。また、クレジットカード払いだと手数料がかかるというので現金払いにするという考え方がある。経済産業省がまとめたキャッシュレス決済の利用状況(2015年)では、日本は18%、韓国54%、中国55%、米国41%となっており、日本が飛び抜けて低い。政府はアベノミクスの成果を上げるためキャッシュレス決済普及の環境整備に着手している。平成28年度経済産業政策の重点として2020年東京オリンピック・パラリンピック開催までにキャッシュレス決済普及の環境を整えようということである。そして2027年までにキャッシュレス決済比率を4割程度までアップしようとしている。話はちょっとそれたが、「iTunes Music Store」は、元々米国でクレジットカードを所有するMac OSユーザーへの音楽配信サービスからスタートしているので、こうしたサービス普及のために必要な環境について各国の状況を見てみたしだいである。

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グラフ:キャッシュレス決済比率の各国比較(経済産業省広報資料から)(※クリックすると画像が拡大します。)

2012年ころに日本でも主要なレーベルが揃い普及環境が整う

「iTunes Music Store」は、音楽だけでなく映画やビデオソフト、テレビ番組、ゲームなども配信されるようになったため、2006年にMusicを取り「iTunes Store」となった。そして、2008年にはiPod touchやiPhone向けのアプリケーションを供給する「App Store」をスタートしている。さらに、2009年にレコード会社の許諾を得た約1,000万曲を米国内においてDRMフリーで販売した。この他、2010年にはザ・ビートルズの楽曲配信開始を発表、2012年には、それまで配信を拒んでいたソニー・ミュージックの楽曲も配信開始し、日本の主要なレーベルが揃ったことで一層、普及環境が整った。

参考資料:経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」、JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、BCN RETAIL、JEITA・HPほか