オーディオファンの間でアナログ録音からデジタル録音への期待高まる

1980年代の後半になるとオーディオファンは、コンパクトカセットテープやオープンリールのテープレコーダーによるアナログ録音には音質面で不満を持っていた。多くのオーディオファンの間ではより高音質でノイズの少ないデジタル録音を自分でしたいというニーズが高まっていた。市場背景としてこのころアップルのマッキントッシュやWindowsパソコンが普及しつつあったこともオーディオのデジタル化へ拍車をかける要因となった。

1990年開催の全日本オーディオフェアにはDATレコーダーが登場。さらにMD、DCCへと続く

1987年開催の全日本オーディオフェアにおける出展にもDAT(デジタルオーディオテープ)コーナーが設けられたり、1989年には録音可能なCDプレーヤーが登場した。そして、1990年開催の全日本オーディオフェアにはDATレコーダーが登場するようになる。また、1991年からは全日本オーディオフェアからオーディオフェアに名称を変更して開催された。会場にはMD(ミニディスク)やDCC(デジダルコンパクトカセット)の技術発表とデモが行われた。また、DATの録音再生実験が行われるなどオーディオ愛好家が自分でデジタル録音再生ができる時代が到来した。翌1992年開催のオーディオフェアには、MD、DCCの製品が展示された。

より高音質のスーパーデジタルオーディオへの期待高まる

さらに、1993年開催のオーディオフェアにはCDのバリエーションとしてCD-G(CD-Graphics)が登場、オーディオデータとともに低解像度ではあるがグラフィックも収録できた。用途としては、CD-Gカラオケとして楽曲の背景に静止画を入れたり、歌詞を画面に表示したりするのに使われた。また、MDが12機種、DCCが9機種出品され機種も増えてきた。このほか、デジタルオーディオの品質をさらに向上させるスーパーデジタルオーディオが話題となった。日本オーディオ協会では「デジタルオーディオの将来を探る」を協会イベントとして実施、ハイサンプリング、ハイビット音源を紹介した。この頃、オーディオ業界としては市場の活性化に取り組んでおり活性化のための全国的なアンケートを行ったほか、第一回目の「録音コンテスト」を実施、入選作品はCD化を行っている。

1994年に12月6日を音の日として制定。「音」の文化への認識を深める

そして、1994年開催のオーディオフェアでは、96kHzサンプリング、24ビットのハイサンプリング、ハイビット音源のデモが来場者の関心を集めた。このほか、次々と登場してきたCDファミリーの特別展示や、日本PCM放送協議会が設けたCS-PCM放送エアーチェックコーナー、DATによる生バンドの生録イベントなどが注目された。また、第二回「録音コンテスト」を実施したほか、第一回「日本プロ音楽録音賞」を日本オーディオ協会と関連団体で制定している。そして、この年に12月6日を音の日(おとのひ)として制定している。

音の日は、トーマス・エジソンが1877年12月6日に世界で初めて蓄音機「フォノグラフ」による録音・再生の実験を成功させた日であることから選ばれたもので、オーディオの世界がここから誕生したということを知ってもらうために制定している。日本オーディオ協会、日本レコード協会、日本音楽スタジオ協会などと協議して制定したもので、音楽、オーディオ、レコードなど「音」の文化について多くの人々に認識を深めてもらうため定めたもの。

日本オーディオ協会や日本レコード協会、電機メーカー、オーディオ機器メーカーなどのオーディオ市場活性化の努力は続いたものの、1995年開催のオーディオフェアは出展62社へと減少した。実は、この年が底で翌1996年は70社へと回復している。会場では次世代オーディオディスクのデモが2フォーマットで実施されたほか、DVD-Videoプレーヤーが商品化され展示された。

DVD-VideoはDVDフォーラムで制定されたDVDに複数の映像、音声、字幕を記録するアプリケーションフォーマットで、1996年から発売された。それまで映像パッケージソフトはVHSやビデオCDなどが主流だったが、高画質でCD同様に扱いやすく操作性も良いこと、またプレーヤーも低価格化が可能だったことなどにより広く普及していくことになる。 また、1995年に発足したADA懇話会では「次世代オーディオ実現への"望ましい要求条件"」をまとめる作業を行っており、1996年にはAA懇話会が発足している。

1997年開催のオーディオフェアから「カーAVコーナー」が新設される

1997年に開催されたオーディオフェアは、池袋サンシャインシティで開催された最後のフェアとなったが出展社数は75社へと回復している。注目されたのは、DSD(Direct Stream Digital)の公開、第二世代DVD-Video、プラズマディスプレイなど。さらに、この年から「カーAVコーナー」が新設された。

そして、1998年には池袋サンシャインシティから東京ビッグサイト(有明・東京国際見本市会場)へと会場を変更、名称もオーディオエキスポに改められ94社が出展した。展示面では「カーAVコーナー」が本格的なものとなり、関連会社14社が出展、自動車15台が出展された。また、会場では当時話題となっていたVICSのデモ、試乗が行われた。このほか、各社がホームシアターの展示を行い話題となった。翌1999年開催のオーディオエキスポでは、カーDVD、カーAVコーナーが注目され、オーディオの世界が家から車へと広がりつつあることを示した。

開催年 会場、参加社 話題の製品・技術など
1990年東京(73社)パーソナルレコーディングフェアとの同時開催。DATレコーダ出品
1991年東京(72社)
名称をオーディオフェアに変更
ミニディスク(MD)、DCC技術発表とデモ、DAT録再実験
1992年東京(68社)MD、DCC、CS-PCM放送及び関連商品
1993年東京(66社)CDファミリーが登場、MDやDCCの製品が多数発表される
1994年東京(63社)96kHzサンプリング、24ビットのソフトデモ、CS-PCM放送のエアチェック、DATによる生録
1995年東京(62社)DVDのプロトタイプ登場、AC-3シアター
1996年東京(70社)次世代オーディオディスクのデモ、DVD-Videoプレーヤー登場
1997年東京(75社)
この年まで池袋サンシャインシティ
DSD(Direct Stream Digital)公開、第二世代DVD‐Videoプレーヤー、プラズマディスプレイ
1998年東京(94社)
この年から東京ビッグサイトでオーディオエキスポに
カーAVコーナー開設、各社ホームシアターに注力
1999年東京(90社)カーDVD、カーシアターが注目される

1990年代のフェアの歩み:JAS journal(日本オーディオ協会編)から

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、BCN RETAIL、JEITA・HPほか