オーディオ界の2つの課題。音楽を楽しむスタイルの変化とA&Vの融合

2000年代のオーディオ界においては、90年代の後半に登場してきたポータブルデジタルオーディオプレーヤーによって音楽を楽しむスタイルが変化しており、従来からのホームオーディオといかに両立させることができるかが課題となっていた。また、様々な映像機器が普及してきたことから、ビジュアルとオーディオをどのように融合し、新しい需要を創造していくかという大きなテーマに取組んでいく必要に迫られていた。

若者を中心にポータブルデジタルオーディオプレーヤー一辺倒の音楽試聴スタイルが定着するのであるなら、家でゆっくりとオーディオを楽しむといった、従来からの音楽試聴スタイルは廃れて行くことになり、アンプやスピーカーなどのコンポーネントの需要は低迷することになる。音楽の楽しみ方、試聴スタイルの多様性を認めながらも「もっと良い音で楽しみたい」という、オーディオ発展の歴史の原点を見失うことは避けたいとの思いはオーディオ業界関係者共通の願いだった。

そしてもう一つは、ビジュアルとオーディオの融合による新しい楽しみ方を普及させることだった。それを具体化したのがホームシアターであり、薄型大画面テレビとマルチチャンネルオーディオによる音と映像を一体化した臨場感のある視聴スタイルを家庭でも楽しむことが出来るようにすることである。2000年代のフェアもこうしたオーディオ業界の課題を反映した展示内容となっている。

インテリア産業協会が後援団体として参加したA&Vフェスタ2006

A&Vフェスタと名称が変更されてから第4回目となる、A&Vフェスタ2006は、開催テーマ「感動!それぞれのA&Vスタイル」と、オーディオ業界あげて取組んでいるビジュアルとオーディオの融合を来場者に強くアピールする内容となっている。さらに、社団法人インテリア産業協会が後援団体として参加、インテリアコーディネーターによる提案も行われている。この他、モーツァルト・イヤーにちなんだセミナーが開催され「提案・体験・参加」をキーワードに実施された。

提案では、「テレビとサラウンドシステムの組み合わせ」「ワンセグ対応のモバイル機器をいい音で聴く工夫」をテーマに。体験では、「最近店頭では減っているハイエンド機器の試聴、技術者との会話により納得できるまで体験」。参加では、「トークイベントや、親子で参加できる工作」などが実施された。この他、オーディオ愛好家の底辺を広げるためA&Vフェスタでは、「工作教室」に力を入れており、親子で楽しめる工作教室としてスピーカーの組立や、レコード盤録再蓄音機工作教室を開催。電気を使わずに音が録音され、再生される楽しみを体験してもらうイベントを実施。また、ホームシアター普及に向け「ファミリーシアター」を設置。子供でも楽しめるよう「ホッキョクグマのなまえ大募集」などを上映、マニアだけでなく子供や母親にもA&Vライフの楽しさを訴求する内容でホームシアターを紹介した。

10月開催から2月に変更して開催されたA&Vフェスタ2008

2007年は、毎年秋に開催されているCEATECとの開催時期をはずし2月に開催日を変更するため実施されなかった。そして2008年2月に開催されたA&Vフェスタ2008は、会場は前回同様にパシフィコ横浜だったが、展示ホールからカンファレンスセンターとなり、従来の展示中心から、「展示と体感」へとシフトしている。主催者の日本オーディオ協会では、フェアの会場や内容の変更について「オーディオとAVライフスタイルの提案を深化、卒業・入学など生活形態が変化する時期を新しいプロモーション機会とした」と説明している。この年の開催テーマは「たっぷり視る!じっくり聴く!五感がよろこぶ3日間」とし、出展各社のブースは、リスニングルームでじっくり聴く、ホームシアターで臨場感と迫力あるAVライフを楽しむことができるように変更された。会場を大ホールから中小の部屋に変更した。勢いの増してきた携帯オーディオは、それなりに便利なものだが「良い音か?」、と言うと必ずしも肯定できない。オーディオの魅力を深く掘り下げて伝えるためには、リスニングルームでじっくり聴いてもらう必要があった、と説明している。

翌年のA&Vフェスタ2009も、パシフィコ横浜カンファレンスセンターで2月に開催された。目玉企画はPCMレコーダーなど高音質録音機器の「ポータブルデジタルレコーダーコーナー」でメーカー各社の最新機器が展示・紹介された。また、「レコーディング体感コンサート!生録会!」も実施され、プロのエンジニアによる生録のワークショップが行われた。PCMレコーダーなどの登場によって「生録を一つの文化として成長させたい」との夢があった。

A&Vフェスタに代わるオーディオ&ホームシアター展inAKIBA2009が秋葉原で開催

また、この年の11月にはこれまでのA&Vフェスタに代わるオーディオ&ホームシアター展inAKIBA2009が秋葉原UDXビルと富士ソフトアキバプラザで開催された。会場を横浜から秋葉原電気街へ変更、販売店まで巻き込んだ地域一帯の大型イベントとし、オーディオマニアだけでなく一般の若者たちや家族連れも来場してもらい参加者増や来場者数アップ、また地域密着型イベントとしての定着を狙った。イベントのサブタイトルとして音展(OTOTEN)が始めて使われたが、やがてイベントの正式名称としてOTOTENが使用されて行くことになる。

"製・販"連携、地域密着型・多元回遊型イベントで業界の発展を目指す

秋葉原での開催について日本オーディオ協会の校條亮治会長は、その狙いを「①オーディオ、ホームシアターを楽しむため日本の住宅事情に合ったアドバイス②モバイルオーディオとホームオーディオの融合③2ChとマルチChの融合④デジタル技術とアナログ技術の融合」とし、初の"製・販"連携、地域密着型・多元回遊型イベントとすることでオーディオ業界の発展を目指したい、と説明している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開催年 会場、名称 話題の製品・技術など
2006年 横浜、A&Vフェスタ2006 インテリア産業協会が後援
2007年 開催日を9月から、2月に変更のため開催されず
2008年 横浜、A&Vフェスタ2008 従来の大ホールから、中小の部屋でじっくり試聴へ
2009年 2月21日~23日、横浜、A&Vフェスタ
2009
11月~13日~15日 東京、オーディオ&ホームシアターin AKIBA
A&Vフェスタ:サラウンド、デジタル生録。オーディオ&ホームシアターin AKIBAは、秋葉原の販売店も巻き込んだ地域密着型イベントに

2000年代後半のフェアの歩み:JAS journal(日本オーディオ協会編)から

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、BCN RETAIL、JEITA・HPほか