オーディオ「第三世代」への対応と新たな提案が続くオーディオ界
アナログ音源であるLPレコードやカセットテープ、FM放送が主要な音楽ソースであるアナログ時代をオーディオ「第一世代」とするなら、CDやMDも加わったデジタル・アナログ混在の時代はオーディオ「第二世代」と言える。そして、デジタルによる符号化音源の配信が始まり、リスニングスタイルもホームシアター、ヘッドフォンステレオ、2chステレオやマルチチャンネルによるサラウンドまで多様化してきたのがオーディオ「第三世代」となる。こうしたリスナーの多様化したニーズに対応していくことが2000年代のオーディオ界の課題であった。

日本オーディオ協会主催のフェアにもこうした動きが鮮明に現れてきており、2009年までは前回紹介した通りだが2010年以降の動向を見てみると秋葉原で2010年開催のオーディオ&ホームシアター展TOKYOでは、協会主催のセミナーとして「第三世代オーディオ」「デジタルホームシアター」「サラウンドサウンド」「生録」がテーマになっている。出展内容もポータブルオーディオから本格的なオーディオコンポーネントまでの幅広い展示と、3Dホームシアター、カーAVなど音と映像を融合、さらにはじめて実施された「音のサロン」では、音楽を楽しむ本来の姿を目指して、飲み物(アルコール)と食事を楽しみながら好きな音楽を聴くイベントが開催された。聴く音楽も「携帯電話に保存した音楽を聴く」「クラシックCDを聴く」「ジャズCDを聴く」とジャンル分けして幅広い参加を呼びかけた。

今度こそ本物の3Dブームと期待された第3次3Dブーム
純粋な音楽だけでなく、音楽と映像を融合したA&V、ホームシアターの普及を目指していたオーディオ界にとって3D映像の盛り上がりは絶好の追風であった。3Dブームは過去にもあったが、2009年12月に公開された3D映画「アバター」は世界的な大ヒットとなり再び3D映像に関心が集めることになった。家電業界でも3D対応テレビが相次いで発売され3Dテレビブームとなった。3Dブームは第1次ブームが1950年頃にあり、第2次ブームが1980年代前半にあった。しかし、いずれも3D映像という目新しさが注目されたものの、映像ソフトの質と内容、3D映像ソフトの絶対量不足がネックとなった他、専用眼鏡を必要とした煩わしさが3D離れを起こしブームは去って行った。そして第3次3Dブームとなった2010年代は大画面薄型液晶テレビが3D対応テレビとして普及し始めたことから、今度こそ本物の3Dブームと期待された。

またもや期待はずれに終わった第3次3Dブーム
しかし、この第3次3Dブームも数年で終焉を迎えてしまった。過去2回のブームとは違い、3D対応大画面薄型液晶テレビの普及、地デジ放送の開始、DVD・ブルーレイディスク、HDDなど高画質映像記録メディアの普及など過去には無かった普及のための条件、環境が整っていたにもかかわらずだ。加えて、シネマコンプレックス映画館でも3D映画専用スクリーンが常設されたり、衛星放送で3D放送チャンネルが開設されたり、国内テレビ局ばかりでなく英国を始めとする世界各国のテレビ局で3D放送が行われた。世界的に3D映像時代が到来したかと思わせたのだが、2017年あたりでソニーやLGなどが3D対応テレビの販売を終了したことで第3次3Dブームも終わりを告げる事になった。

原因はいろいろ考えられるが、3D対応テレビが割高で専用の眼鏡をかけて見る必要があったこと。専用眼鏡も1万円以上しており、家族4人で楽しむなら5万円近く必要になる。そして、何より専用眼鏡をかけるという煩わしさが不評であり、2D映像に比べて疲れる、違和感がある、子供の成長に良くないなどマイナス要素も取りざたされた。家電業界にとって起死回生となると期待を集めた3D対応テレビだったが期待はずれに終わってしまった。しかし、それでも新しい技術を使った3Dテレビの研究は今も続いており、専用眼鏡を使わず、もっと自然な形で3D映像を視聴出来るテレビの登場に期待が寄せられている。それが実現したならばホームシアターの普及も実現するだろう。

2011年は「東日本大震災」の被災地復興に向けた支援活動
2011年開催のオーディオ&ホームシアター展TOKYOでは、同年3月11日に「東日本大震災」が発生、未曽有の大被害が発生したことから、被災者への見舞いと被災地復興に向けた支援活動が行われた。日本オーディオ協会では会員企業の協力のもとラジカセやアンプ・スピーカー等など文部科学省を通して被災した学校に送り、被災現地の支援を行った。そして、大地震発生から7カ月が経過した展示会場では、受付に「募金箱」を設置し、来場者からの義援金を預かり支援団体に寄付した。また、ライブコンサート(生録会)での生録参加費及びリスナー参加費より、収益の一部を義援金として支援団体に寄付している。なお、この年はじめて「真空管オーディオ協議会」と共催している。

2012年は日本オーディオ協会創立60周年を記念し「音の歴史館」開設
2012年開催のオーディオ&ホームシアター展TOKYOでは、1952年創立の日本オーディオ協会創立60周年と銘打って開催され、これを記念し、オーディオ草創期から現代にいたる、その時代を代表するエポックメーキングな機器やソフトが多く展示された日本オーディオ協会よる「音の歴史館」が開設。この他、金沢蓄音器館の八日市屋館長による「音の歴史」の講演とエジソン蓄音器などによる再生実演が行われた。「エジソンの蝋管とSPレコードを聴く会」では、エジソンが発明した蝋管レコードを当時のエジソン蓄音器(アンベローラ30)で、またSPレコードを国産第一号と云われるコロムビア製手回し蓄音器(ニッポノフォン)及び日本ビクターが開発した手回し式蓄音機(ビクトローラ1-90型)、など時代の名器を試聴できた。

2013年は秋葉原からお台場の「TIME(タイム)24」に移し開催
2013年開催のオーディオ&ホームシアター展TOKYOは、会場を秋葉原からお台場の「TIME(タイム)24」に移して開催された。過去4回開催された秋葉原会場では、若年層の来場は増えたものの、女性層の来場が期待したほどでなかったこと、そして何より出展者の経費負担の軽減を目指してのことだった。2014年のオーディオ&ホームシアター展TOKYOも「TIME(タイム)24」で開催された。内容的にはそれまでの展示会を踏襲しているが、NHKの「スーパーハイビジョン(8Kテレビ)」、協会テーマとしての「ネットワークで楽しむ、ハイレゾワールド」が行われた。これからのテーマである高画質テレビ放送、ハイレゾによる高音質化と、映像と音それぞれの新技術普及を目指した内容となっている。

開催年 会場、名称 話題の製品・技術など
2010年 オーディオ&ホームシアター展TOKYO(秋葉原)。
「OTOTEN音展TOKYO」のロゴ入り
3Dホームシアター、協会セミナー「第三世代オーディオ」「デジタルホームシアター」「サラウンドサウンド」「生録」
2011年 「東日本大震災」復興支援 オーディオ&ホームシアター展(秋葉原)
「OTOTEN音展TOKYO」のロゴ入り
募金箱を設置、義援金を支援団体に寄付。収益の一部を義援金として寄付。「音のサロン」開催。真空管オーディオ協議共催
2012年 オーディオ&ホームシアター展(秋葉原)
「OTOTEN音展TOKYO」のロゴ入り
日本オーディオ協会創立60周年記念として開催。記念イベントとして「音の歴史館」。CD登場30周年
2013年 オーディオ&ホームシアター展。「TIME(タイム)24」(お台場)
「OTOTEN音展TOKYO」のロゴ入り
スーパーハイビジョンデモ。ライブコンサート
2014年 オーディオ&ホームシアター展。「TIME(タイム)24」(お台場)
「OTOTEN音展TOKYO」のロゴ入り
スーパーハイビジョンデモ、22.2Ch音響システム。ライブコンサート。ネットワークで楽しむ・ハイレゾワールド

2010年代前半のフェアの歩み

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、BCN RETAIL、JEITA・HPほか