オーディオ需要拡大のためビギナー層や女性層を如何に取り込むかが課題
2010年代後半のオーディオ界は、オーディオ需要拡大のためマニア層だけでなくビギナー層や女性層を如何に取り込んでいくが課題となっていた。日本オーディオ協会やメーカーは、そのためにイベント名や展示内容、会場選びなどに苦心していた。2015年に開催したオーディオ&ホームシアター展(音展)は、お台場地区に移ってから3回目の開催となったが、テーマは「観る!聴く!触る!ハイレゾと4K シアター」として「聴くぞ、ハイレゾ!今日から広がる感動新世界」を提案した。新しい技術であり、今後のオーディオ界を牽引していくであろう「ハイレゾ・オーディオ」には大きな期待を寄せていた。日本オ-ディオ協会では、2014年に「日本発」の新技術「ハイレゾ・オーディオ」を世界に広めていく提案を開始しており、統一ロゴマークを制定し、米国CEA ともパートナー契約を締結していた。

スマートフォンの急速な普及拡大がオーディオ界にも大きな変化を
業界上げての努力の結果、ハイレゾ市場への参入企業数はスタート時と比べ倍増していた。そして参入メーカーから多くのハイレゾ認定製品が発売されるようになって来た。また、遅れていたソフト業界にもハイレゾソフトが拡大しつつあった。また、注目すべきは、スマートフォンの急速な普及拡大がオーディオ界にも大きな変化をもたらした。これまでオーディ業界としてオーディオのカテゴリージャンルとして捉えてこなかったスマートフォン、タブレット、パソコンなどが新たなオーディオ領域となりつつあった。

ハイレゾがオーディオ業界以外のスマートフォン、IT企業へ広がる
2015年開催のオーディオ&ホームシアター展(音展)では、ハイレゾ・オーディオによる徹底した"質の向上"を提言し、音楽の世界は、生演奏に迫る本物の質感ある"感動創造"の世界を提案した。
ヘッドフォンから大型スピーカーまで、さらにはスマートフォンから本格コンポに至るまで全てにおいてハイレゾ・オーディオによる"感動創造"をアピールした。ライブコンサートによる生演奏と生演奏に勝るとも劣らないハイレゾ・オーディオによる新しい世界を体験してもらうことで普及を加速させていく狙いだった。展示会場にはハイレゾマークが付いたオーディオ機器が約430種類展示され話題の中心となった。一方、日本オ-ディオ協会に加入する法人会員も急速に増えており、前年の43社7団体から20社以上増え、67社・団体となった。増えたのはパソコンやスマートフォン、IT企業、ヘッドフォン企業などで、ハイレゾがオーディオ業界以外への広がりを見せた。

ハイレゾがオーディオ業界以外への広がりを見せた、とは言うものの、一般のオーディオファンにまでハイレゾ・オーディオが認知、体験されるのはまだ先となる。どちらかというとオーディオ専門誌やマスコミ報道が先行した形であり、エンドユーザーまで認知されるまでには至っていなかった。オーディオ市場においては、「CDで十分良い音ではないか」「なぜハイレゾが必要なのか?」といった声もあり、「ハイレゾでなければならない」「ぜひハイレゾが欲しい」と言うまでにはまだ至らない状況だった。

オーディオ&ホームシアター展(音展)の見直しを迫られ2016年は一旦中止
こうした曲がり角に来ていたオーディオ界に対して日本オーディオ協会では、オーディオ&ホームシアター展(音展)の見直しを迫られたことから2016年は一旦中止し、代わりに「音のサロン&カンファレンス」を秋葉原で開催した。そして開催時期、開催場所、来場者ターゲット、展示内容を見直し、翌年の2017年に名称も「音展」から「OTOTEN」に改め、開催時期をこれまでの秋から春(5月)に変更、会場も有楽町の東京国際フォーラムに変更した。

主なリニューアル内容は、「音楽ソフト分野との連携強化」「来場者と出展社のマッチング」「分かり易い展示(カテゴリーとゾーニング)」「ビジュアルを一新、イメージ刷新」を図った。過去のフェアでは、「若年層の開拓が出来なかった」、「女性層拡大が出来なかった」、「主な来場者の年齢が45歳代から50歳代へ上がってきた」、「マニア層に集約されつつある」などの反省から思い切ったリニューアルを実施した。

国内オーディオ市場の縮小傾向をハイレゾ普及により回復へ
危機感をもって思い切ったリニューアルをせざるを得なかった背景には、日本の人口が減少しつつあり、中でもオーディオファンとなるべき若年層の減少が問題だった。さらに、普及に力を入れているハイレゾの認知度がマニア層では9割程度なのに対して一般では2割程度と格差が大きいことがあった。この他、2015年の国内オーディオ市場は、出荷金額2,185億円、前年比91.9%、集荷台数895万4千台、前年比75%と低迷していることがあった。ただ、台数に対して金額面の減少幅が少ないことは、高級機へのシフト傾向が見られるのでハイレゾ普及に注力することによって回復への足掛りをつかめるとの明るい見通しも出てきた。

そして第2回目となる「OTOTEN2018」が2018年6月に東京国際フォーラムで開催された。協会自らハイレゾ・オーディオ再生に相応しいコンテンツを監修・製作し、会場で試聴したり購入したり出来るようにした。また、再び注目されてきたアナログレコードにも力を入れたり、カーオーディオにもハイレゾを普及すべくハイレゾ搭載カーコーナーを設けたりしている。また、2019年開催の「OTOTEN2019」では、この流れを踏襲しつつ、ハイエンドオーディオをじっくり聴ける「オーディオブランド機器展示&視聴ルーム」や、入門者向けに「さあ始めよう!オーディオスタートコーナー」を新設している。ビギナーからマニアまで幅広い層の来場を目指した展示内容だった。
 

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東京国際フォーラムで開催された「OTOTEN2018」

 

開催年 会場、名称 話題の製品・技術など
2015年 オーディオ&ホームシアター展。「TIME(タイム)24」(お台場)
「OTOTEN音展TOKYO」のロゴ入り
テーマ「新たなオーディオ時代を切り開く」としハイレゾと4Kシアターの普及を目指す
2016年 オーディオ&ホームシアター展は中止し、「音のサロン&カンファレンス」開催。
富士通ソフト・アキバプラザ
女性向け企画に注力。ハイレゾルーム
2017年 OTOTEN2017(OTOTEN AUDIOーVISUAL EXHIBTION 2017)。
東京国際フォーラム(有楽町) 
音楽ソフト分野との連携強化。ゾーン別展示で若年層の来場アップを目指す
2018年 OTOTEN2018(OTOTEN AUDIOーVISUAL EXHIBTION 2018)。
東京国際フォーラム(有楽町) 
ハイレゾ・オーディオの普及を目指し、それに相応しいコンテンツを紹介。「アナログレコード祭り」実施
2019年 OTOTEN2019(OTOTEN AUDIOーVISUAL EXHIBTION 2019)。
東京国際フォーラム(有楽町) 
マニア向けハイエンドオーディオだけでなく、ビギナー向け「さあ始めよう!オーディオスタートコーナー」新設

 

2010年代後半のフェアの歩み

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、BCN RETAIL、JEITA・HPほか