日本オーディオ協会がハイレゾ普及に力を入れる

日本オーディオ協会ではハイレゾの定義を策定してから、その普及に力を入れており、同協会が主催するフェア“OTOTEN”会場でも来場者にハイレゾを理解してもらう展示を行った。2014年開催の“OTOTEN”会場では、「ハイレゾワールド」でまずハイレゾの音を体験してもらうことに力を入れた。翌年開催の“OTOTEN”では「新たなオーディオ時代を切り開く」をテーマにハイレゾ、4Kシアターの普及を目指した展示を行っている。この他、セミナーも定期的に開催しておりハイレゾに関するセミナーにも力を入れている。

こうした努力によって日本国内ばかりでなく世界的にハイレゾに関する認識が広がっている。また、オーディオ機器メーカー以外にもハイレゾに関心を持つ企業が増えている。アイ・オー・データ機器やバッファロー、HTCジャパン、ソフトバンクといったIT関連、通信関連、シュアージャパンやゼンハイザーといったヘッドフォンやマイクロホンなどオーディオアクセサリーやプロ用機器メーカーも参入している。さらに、スマートホンメーカーもハイレゾに参入しており“良い音”を求める動きに拍車がかかっている。

 

写真:“ハイレゾ”の認証マーク(日本オーディオ協会の登録商標です)=日本オーディオ協会提供

日本オーディオ協会の会員はハイレゾ効果もあって2020年2月現在では76社7団体に増加

「ハイレゾマーク」は日本オーディオ協会の会員でないと利用することができないこともあり、ハイレゾ規格策定後同協会に加盟する企業が急増した。2014年に同協会の会員は43社7団体であったのが、2015年9月には67社7団体となり、2020年2月現在では76社7団体に増加している。

音の専門家と言われる人たちの中にはハイレゾを疑問視するケースも

今やハイレゾはオーディオ界のトレンドとなっているが、その一方で“CDの音質を上回る必要があるのか”と言った声や、音の専門家と言われる人たちの中には疑問視する声が出ている。米国オーディオ技術者協会が行った、CDとハイレゾとの試聴比較試験で明確にその差を聞き取れなかったとの報告もある。こうしたCDとハイレゾとの試聴比較試験は、国内でも盛んに行われているが、その差を明確に聞き取れないケースも出ている。その要因としては、ハイレゾ音源であっても、再生するアンプやスピーカー、ケーブルなどがハイレゾに適しているのかといった再生システムの問題や、どのような部屋、会場で試聴しているのかと言った様々な要因がある。

また、海外のマスコミの中には「ハイレゾはオーディオ業界が必要以上のものを売りつけている」とマーケティングへの批判を掲載しているケースもある。日本オーディオ協会では誤解を避ける意味で「ハイレゾだから音が良い」という短絡的なフレーズで説明は絶対にしない、としており「ハイレゾにより、良い音に向けた環境(入れ物)を整備したという考え方にたっている。

「CDとハイレゾを聞き分けられない」という声が多いのも事実

「CDとハイレゾを聞き分けられない」「CDでも十分な良い音」という根拠として、CDの16bit/44.1kHzの規格で、ダイナミックレンジが約96dB、高域は22.05KHzまで再現できる。人間の可聴範囲20Hzから20kHzはCDで十分カバーしているとの説明が一般的だ。たしかに、歌声や楽器から出る音の周波数を見ると、ソプラノでは250Hzから1.2kHz、ピアノであれば下は27.5Hz、上は4.186kHz、バイオリンではおよそ150Hzから4kHzあたりでいずれも人間の可聴周波数範囲内にある。

しかし、歌声や楽器が単独で収録される音源はほとんど無い、多数の楽器が競演するオーケストラやオーケストラをバックに歌う歌手、しかも大ホールやスタジオでは反響音も収録される。こうした膨大な情報量を忠実に録音するためには、より広い帯域をカバーする機材が必要になる。ハイレゾがCDより広い周波数領域を収録できるメリットはここにある。

可聴領域外の音でも不快感が起きたり、ストレスが起きたりする健康被害が

人間は可聴領域の20Hzから20kHzだけで知覚しているのではなく可聴領域以外の音も感じ取っているケースがある。例えば風力発電の大きな風車が回る時に出る、20Hz以下の低周波音により、強い不快感が起きたり、ストレスが起きたりする健康被害を訴える事例が出ており社会問題となっている。一方、20kHz以上の可聴領域を上回る超高周波と呼ばれる音でも、単独では聞こえないはずだが可聴音と共存すると中脳、間脳へ影響するという研究が仁科エミ博士の研究グループが発見している。中脳、間脳は脳の奥にあって人間の健康維持に重要な働きをしている。また、快感、感動を司る中脳、前頭前野の局所血流が増大し、活性を高めることも明らかにしている。この他にも、脳波α波の増大、ストレス性ホルモンの減少、ナチュラルキラー細胞活性化など免疫性増大、可聴音をより美しく快適に感じる心理反応など様々な変化をもたらすという。このような効果を総称して「ハイパーソニック・エフェクト」と呼ばれている。

こうした研究や、比較試聴実験でハイレゾによって人間が“良い音”“心地良い音”と感じることが有りうるのは間違いないようだ。日本オーディオ協会が、スペックだけでなく“聴感”を重視しハイレゾの認証の中に“聴感評価”を加えている理由もこのあたりにあるのだろう。“つまり、ハイレゾが持つ人間の可聴領域外の音がリスナーに“良い音”“心地良い音”と感じさせる要素があるというわけだ。そして、音楽愛好家、オーディオマニアなど“良い音”を追究する人達にとってもCD以上の音源があるなら是非、自分自身でそのポテンシャルを試してみたいと思うのは当然でなかろうか。
 

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、BCN RETAIL、JEITA・HP、e☆イヤホンHP、PC Watch HP他