世界スタンダードとなるまで広く認知・定着してきたハイレゾ・オーディオ

日本オーディオ協会やソニーを始めとする企業の努力もあってハイレゾ・オーディオは、今や世界スタンダードとなるまで広く認知・定着してきた。その一方で、ハイレゾ音源の種類にとまどうオーディオファンも多いようだ。日本オーディオ協会やJEITAのスペックに関する定義は理解できても、ハイレゾ音源にはPCM形式やDSD形式がある。さらに、録音した時の録音方式や録音機材などによる違いもあるのでオーディオファンには分かりづらい。

ハイレゾのルーツはスーパーオーディオCD(SACD)

ハイレゾのルーツとなっているのは、CD超えを目指して開発されたスーパーオーディオCD(Super Audio CD:SACD)である。1998年からアドバンスドオーディオ協議会で検討されていたもので、1999年にソニーとフィリップスにより規格化された次世代CD規格。CDと同じサイズの120mm光ディスクに、オーディオデータをCD以上の高音質で記録したものである。規格書はその表紙の色からScarlet Bookと呼ばれる。SACDプレーヤーが始めて発売されたのはソニーが1999年5月に発売した「SCD-1」(価格50万円)である。

SACDは2層構造となっており、1層を通常のCDとすることもでき、SACDとCDのハイブリッド仕様となっている。1層でSACDプレーヤーのみで再生できるソフトや、2層ともSACD層で構成された長時間SACDも製作可能。SACD層の1層あたりの容量は4.7GBとなっている。最大の特長は、リニアPCMではなく、ΔΣ変調による低bit高速標本化方式で、サンプリングレートは1bit、 2.8224MHz(=2822.4kHz)のダイレクトストリームデジタル(Direct Stream Digital) DSDフォーマットを採用している。このデジタル信号はローパスフィルターを通しアナログ信号に変換できる。 

CDに取って代わるほど普及しなかったSACD

しかし、SACDが登場した時期が早すぎたのか、レコード会社のSACDソフトに対する姿勢がCDほど積極的ではなくタイトル不足は避けられなかった。しかもSACDの性能を十分発揮させるためのシステムは高価で、ユーザーが負担するのは大変だったことからCDに取って代わるほど普及しなかった。ソニーが1999年5月に発売したSACDプレーヤー「SDC-1」は50万円(税別)と高価だっただけでなく、アンプやスピーカーなどの再生装置もハイエンドなものが要求されることから、CDに満足できないハイエンドユーザーを対象とした規格と受け止められた。SACDソフトもこうした印象から、ロックやポップスから歌謡曲まで様々あったものの、クラシック音楽、ジャズなどが大部分を占めた。なおSACDプレーヤー「SDC-1」のスペックは、再生周波数範囲2Hz~100KHz、ダイナミックレンジ105dB以上を確保していた。

普及価格の"Listen(リスン)"シリーズを発売したが成功せず

ソニーは、こうした状況を打破すべくSACDの普及拡大を目指して、
SACD やDVDも楽しめる普及価格のシステムステレオ"Listen(リスン)"シリーズ3機種を2003年11月から発売した。スーパーオーディオCD/DVD搭載コンポ「CMT-SE9」「CMT-SE7」「CMT-SE3」で価格はオープン価格。当初、3機種合わせて月産2万台を計画していた。SACDに加えDVDの再生機能を搭載することで、音楽好きな顧客に満足してもらえるとともにSACDソフトの不足をDVDの再生機能も搭載することでカバーする狙いがあったと思われる。

それぞれの特徴は「CMT-SE9」は、5.1チャンネルシステムのアンプとスピーカーを搭載し、SACDのマルチチャンネルやDVDの5.1チャンネル音源を臨場感いっぱいに楽しめる。「CMT-SE3」は、専用オプションのNet MD対応MDデッキ「MDS-SE9」と組み合わせることにより、2チャンネルのMDシステムへの拡張も可能だった。この時期のSACDソフトは、クラシック、ジャズ、ポップスなど様々なジャンルから日本国内累計で835タイトル(2003年7月現在)がリリースされており、同年内には累計1000タイトル以上のリリースが見込まれていた。システムステレオ"Listen"シリーズはオープン価格となっていたが、市場における実売価格は4万円強と普及価格であったものの、ハード、ソフト業界を取り巻く環境は整わず、その後1年半程度で実質的にはSACDは終焉している。 

SACDからハイレゾにシフト、ハイレゾ対応コンポ「CMT-SX7」発売

こうした経緯を経て、ソニーはハイレゾ対応のオーディオ機器に力を入れて行くことになる。そして2015年にハイレゾ対応マルチオーディオコンポ「CMT-SX7」やハイレゾ対応ワイヤレススピーカー「SRS-X99」など3機種(各オープン価格)を発売したほか、マルチチャンネルインテグレートアンプ「STR-DN1060」(72,000円)を発売している。ハイレゾが広くオーディオ愛好家の間に普及していくためにはハイレゾ対応機器を多くのメーカーが手頃な価格で発売するとともに、ハイレゾソフト(音源)の充実が欠かせない。

 

ソニーのハイレゾ対応マルチオーディオコンポ「CMT-SX7」

ハイレゾ音源はCDショップではなく音楽配信サイトでの購入が主体

ハイレゾ音源はCDショップやレンタルショップではほとんど見かけないので、音楽配信サイトでの購入が主体となる。ハイレゾ音源の音楽配信サイトでの主要なファイル形式としてFLAC(Free Lossless Audio Codec)と呼ばれる無圧縮方式が採用されている。このほかのハイレゾ音源のファイル形式として無圧縮方式のDSD(Direct Stream Digital)がある。

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、BCN RETAIL、JEITA・HP、e☆イヤホンHP、PC Watch HP他