ハイレゾ音源に採用されている録音フォーマットはFLACとDSDの2つが主流

ハイレゾ音源は音質重視のため必然的にデータ量が大きくなってしまうという問題がある。現在、主にFLAC (Free Lossless Audio Codec)とDSD(Direct Stream Digital)の2つの録音フォーマットが採用されている。FLACは、元の音源から音を削らずに圧縮する方式を採用しており、CDの約5分の1のデータサイズでCDと変わらない音質を保てる。また、可逆圧縮のため圧縮前の形式に戻せるのでWAV→FLAC→WAVという変換が可能となっている。このWAV(RIFF waveform Audio Format)は、Windowsで使われるファイル形式でマイクロソフトとIBMが開発した音声データをファイルするためのフォーマット。コンテナ形式を採用しており、データ形式は自由でμ-law、ADPCM、MP3、WMAなどの圧縮データを格納することができる。非圧縮のため音質を劣化させることなく音楽を記録できる。

オープンソースとして無償で公開されているFLAC

FLACは、可逆圧縮で元の音声データからの音質の劣化が無い。量子化ビット数は4bit~32bit、サンプリング周波数は1Hz~655.3kHz (655.350Hz)、チャンネル数は1ch~8chをサポートしている。特徴としてはエンコード・デコードが速く、シークも速い。また、データ構造がエラーに強いのも特徴。このため、可逆圧縮音声フォーマットとして広く使われており、オンラインストアでFLACのアルバムが販売されている。また、FLACはオープンソースとして無償で公開されており、優れた特徴とあいまって幅広い企業に利用されやすい環境となっている。

ハイレゾ楽曲のパッケージソフトの発売は極めてわずかでCDショップの店頭にはほとんど展示されていない。従ってハイレゾを楽しむにはインターネット配信の楽曲を利用するのがメインとなる。ハイレゾ楽曲の配信では、2010年7月からはオンキヨーが運営するe-onkyo musicでFLAC形式の楽曲の配信が始まったほか、2013年10月からソニーグループのレーベルゲートが運営するmoraでFLAC形式の楽曲の配信が始まっている。FLAC対応機器では、ソニーはウォークマンの2012年以降の国内及び欧米モデルの一部にFLAC対応モデルを発売している。その後、ネットワークメディアプレーヤーやAVアンプ、BDプレーヤーなどにおいてもFLAC対応の製品が発売された。

 

 ほとんどのCDショップではハイレゾ楽曲の品揃えはされていない

スーパーオーディオCD(SACD)で採用されたDSDもハイレゾに

一方、DSD(Direct Stream Digital)はもともとスーパーオーディオCD(SACD)で使用されているアナログ音声をデジタル信号化する方式。開発したソニーとフィリップスが商標権を持っている。CDやDVDで使用されているPCM(パルス符号変調)ではなくPDM(パルス密度変調)を採用しておりΔΣ変調と呼ばれている。PCM方式ではアナログ信号をデジタル信号に変換する際、ビット数やサンプリング周波数を大きくするほど原音に忠実な再生ができますがデータ量は大きくなり、長時間の音楽を記録する場合には記録媒体の容量も大きなものが必要となる。

ビット数1bitに過ぎないがサンプリング周波数は桁違いに大きいDSD

DSDフォーマットではビット数は、わずか1bitに過ぎない。そのかわりサンプリング周波数は桁違いに大きい。リニアPCMではなく、ΔΣ変調による低bit高速標本化方式で、サンプリングレートは1bit 2.8224MHz(=2822.4kHz)。SACDに記録された1bit 2.8224MHzのデジタル信号は原理的にはローパスフィルタを通すだけでアナログ音声信号に変換することができる。 

実際に音波が空気中を伝播するのに近いイメージのDSD

ビット数が1bitというのはなかなか理解しづらい面がある。というのも、従来PCMにおいてはビット数やサンプリング周波数を可能な限り大きくすれば、より忠実にアナログ信号をデジタル信号に変換でき、また原音に忠実な再生が可能となるというのが常識だった。しかし、DSDではビット数1bitとは“0か1か”であり“音が有るか無いか”という表現となる。つまり空気中を伝わる音波は縦波であることをうまく利用している。音圧が高い“密”な部分と音圧が低い“疎”の部分を波の“高さ”、“低さ”として捉えている。実際に音波が空気中を伝播するのに近いイメージの記録方式と言える。

PCM、DSDではサンプリング周波数はkHzとMHzで桁違い

ビット数1bitであるがゆえに、逆にサンプリング周波数は膨大となる。PCMではハイレゾ音源の場合、サンプリング周波数96kHzがよく使われるが、DSDにおいてはDSD64の場合、2.8MHzが一般的となっている。つまり両者のサンプリング周波数はkHzとMHzで桁違いとなっている。サンプリング周波数が高い場合はアナログ信号に変換する時に発生する量子化ノイズはより高域に発生するため人間の耳に聞こえる可聴範囲の外側に追いやることもできるメリットがある。

DSD音源の規格としては、サンプリング周波数2.8MHzのDSD64、同5.8 MHzのDSD128、同11.2MHzのDSD256、同22.4MHzのDSD512などがある。DSD64などDSDの後にある数字はサンプリング周波数がCD規格に使われている44.1 kHzの約何倍に相当するかを示している。いずれのDSD規格ともビット数は1bitなのでこちらは省略されている。

 


参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、BCN RETAIL、JEITA・HP、e☆イヤホンHP、PC Watch HP他