エレクトロニクス立国の源流を探る
No.172 電蓄からデジタルオーディオまで 第74回
Bluetooth®とハイレゾオーディオ
日本オーディオ協会では、スマートホン、ワイヤレススピーカー、ワイヤレスヘッドホンなどの普及が著しく、ワイヤレス接続で音楽を聴くことが若者を中心に広がってきたことから、2018年11月28日「ハイレゾオーディオロゴ」の新カテゴリーとして「ハイレゾオーディオワイヤレスロゴ」を新設した。さらに、もう一つの背景としてハイレゾオーディオのライセンス開始から4年経ち、ライセンシー180社、ロゴ付与製品も約2000モデルに達しており、製品別に見ると、その中でもヘッドホンやイヤホンが圧倒的に多いことが分った。
「ハイレゾオーディオワイヤレスロゴ」には「コーデック」と「プロダクト」の2つの認証が
「ハイレゾオーディオワイヤレスロゴ」が付与された製品は、ハイレゾオーディオ信号を圧縮してワイヤレス伝送しても、ハイレゾオーディオとして十分な音質をもつ製品であることを保証することになる。もう少し詳しく説明すると「ハイレゾオーディオワイヤレスロゴ」には「コーデック」と「プロダクト」の2つの認証がある。「コーデック認証」については、聴感評価においてハイレゾらしさが合格レベルにあることに加え、客観評価としてテスト音源と評価ツールを使った試験でスペックをクリアすることが求められる。一方、「プロダクト認証」は「ハイレゾオーディオワイヤレスロゴ」の対象製品となるもので、ワイヤレス伝送において「コーデック認証」に合格したコーデックを用い、ワイヤレス伝送以外の構成要素は「ハイレゾオーディオロゴ」の規定に記載されたスペックを満たしていることが条件となる。
Bluetooth®伝送では音質が悪いというイメージが定着
ワイヤレス伝送で音楽を楽しむにはBluetoothが一般的に使われている。ワイヤレス再生するBluetoothの標準コーデックとしてはSBC(Sub Band Codec)が使われているが、伝送環境が多少悪くても伝送できる反面、音質の劣化や再生時の遅延が起きやすいという問題がある。そのためかBluetoothを使うと音質が悪いとのイメージが強かった。そこでSBCより少し音質の良いAAC(Advanced Audio Coding)や、独自にコーデックを開発して採用する製品が増えてきた。また、音楽プレーヤー以外にもスマートホンで音楽を楽しむ人が増えてきたこともあって、より音質が良く、かつ映像とのタイムラグの少ないコーデックが求められるようになってきた。その結果、アップルのiPhoneやiPadにおいては、AACが採用されている。AACはSBCと比べて圧縮率は変わらないが、タイムラグはSBCより少なく、高音域の減少も少ないのでiPhoneで音楽を楽しむには適している。
Android®を採用しているスマートホンではaptXを採用
一方Androidを採用しているスマートホンではクアルコムのaptXが採用されている。aptXは北アイルランド・クイーンズ大学ベルファストのスティーブン・スミス博士によって開発されたコーデック。1990年代以降、低ビットレート音声圧縮技術として映画や放送などのプロの現場で使われてきた。aptXの特許は2010年からCSR plcが保有していたが、CSRは2015年にクアルコムに買収されたため現在はクアルコムが所有している。広く一般にaptXが知られるようになったのは、Bluetoothで使用される標準コーデックの一つとして利用されるようになってから。Bluetooth接続でSBCの欠点であった音質、遅延などを改善する新たなコーデックとして採用されるようになったのである。特に伝送の際の遅延は、SBCで220ms、AACで120ms、aptXで70msとなっておりaptXが優れている。
プロの現場で使われてきたaptXがエンドユーザーまで広く知られるようになったのは、1990年に公開された映画「ジュラシックパーク」だった。この映画では、DTSによる5.1chデジタルシアターシステムが採用され、この圧縮技術にaptXが採用された。全米約2万4000シアターが導入したことでaptXが広く知られるようになった。またヘッドホンメーカーのゼンハイザーからaptXの技術者に「Bluetoothによる音を良くできないか」との要請があり、aptXを応用すれば良い音になると判断し、aptXを採用したヘッドホンを商品化したことがオーディオファンの間に広がるきっかけとなった。また、aptXの派生技術としてaptX HD、aptX Low Latency、aptX Adaptive など様々なバージョンが登場している。
ハイレゾ対応規格のaptX HD
aptX HDは、ハイレゾに対応するコーデックで、aptXが48kHz/16bitまでサポートするが、aptX HDはハイレゾ規格の下限である48 kHz/24bitまで対応可能となっている。ハイレゾ音源には48 kHz以上のものも存在するため「ハイレゾ相当」と表現される場合もある。ハイレゾに対応するもう一つのコーデックにソニーが開発したLDACがるが、LDACがハイエンドユーザー向けなら、このaptX HDは一般ユーザー向けのお手頃なコーデックと言える。クアルコムでは一般ユーザー向けにコストを抑えた製品を実現するために、ハードルを下げたとしている。実験的にハイレゾ音源を96kHz/24bitのPCM音源と48kHz/24bitのaptX HDを音響工学の学生30名に聴き比べを行った結果、その差を訴える学生はほとんどいなかったこと、また一般ユーザー調査でも同様だったことから48kHz/24bitに決定したと言う。
写真: 店頭には様々なカタログが並べられているが、音質はハイレゾ級とかハイレゾ相当などの記載があるので分かりづらい
参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、BCN RETAIL、JEITA・HP、e☆イヤホンHP、PC Watch HP、getnavi web、mupon.net、ELECOM HP他