エレクトロニクス立国の源流を探る
No.175 電蓄からデジタルオーディオまで 第77回(最終回)
ここ数年オーディオ界で注目を集めているアナログディスク
オーディオ界はまさにデジタルオーディオ全盛となったが、ここにきてアナログディスクに海外、国内とも復活の動きが見られる。日本レコード協会の2019年の調査では、アナログディスクが122万枚、前年比109%、金額21億円、同103%と数量・金額とも6年連続で増加している。全体に占める比率は数量・金額ともまだまだ微々たるものだが、今後の動向が注目される。これまでCD、ハイレゾとデジタルオーディオの高音質化へひた走ってきたオーディオ業界だが、アナログレコードの復活傾向が何を意味するのか真剣に考えておく必要がありそうだ。オーディオ評論家や愛好家の中には、「アナログレコードこそ究極のハイレゾではないか」との声もある。つまり、サンプリング周波数、bit数をどこまでアップしても結局は原音を細かく切り、階段状にしており、加工をしない滑らかな音の波を忠実にそのまま再現できない、との素朴な疑念がオーディオファンにあるのかも知れない。
写真: アナログレコード売場には懐かしいアルバムも沢山ある
アナログオーディオの復活を望む声が増えてきた
最近開催されているハイファイ試聴会では、アナログレコードとアナログターンテーブル、真空管アンプ、スピーカーの組合せで行われることも少なくない。これを反映してかアナログターンテーブルやオーディオアクセサリーなどを発売するメーカーも出てきた。パナソニックは2016年に6年ぶりにアナログターンテーブル「SL-1200GAE」を発売した。そのきっかけは2010年に生産中止としていたが、同社アナログターンテーブルのユーザーだったイスラエルのDJが復活を呼びかけたことで、全世界から約2万5千人の署名が集まったからだと言う。同社のSL-1200シリーズはグローバルで累計350万台を販売した実績があり、復活を望むユーザーもそれだけ多いのだろう。
通販サイトや店頭でのアナログレコード販売が増加傾向に
アナログレコードの購入希望者の増加を反映して、レコードの販売はAmazonや楽天、ヨドバシドットコムなど通販サイトに加えて、家電量販店の店頭でも増えている。さらに、全米レコード協会がアナログレコードの売上がCDを上回る可能性を発表している。そして日本でも、人気アーティストがCDとアナログレコードを同時にリリースすることも増えてきた。デジタル化が進み、ストリーミングで音楽を聴くことが主流となっている時代にアナログレコードの人気が高まっている点は注目される。特に若者を中心にアナログレコードの人気が高まっていると言う。
レコード会社もアナログレコード用カッティングマシンを導入へ
アナログレコードのニーズが拡大するに伴い、アナログレコード用カッティングマシンを導入するレコード会社が相次いでいる。JAS Journal 2017年9月号の照井和彦氏のレポートによると、ソニー・ミュージックエンタテイメント(SME)は、乃木坂にあるスタジオに導入した。このところのアナログレコードブームによって社内の各セクションからカッティング依頼が増大したため導入に至ったと言う。音源は一旦PCM DAW(デジタルオーディオワークステーション)に取り込んでからカッティング作業が行われ、ビッグバンドオーケストラ編成でも収録できる広いスタジオに設置されていることからダイレクトカッティングも可能と言う。
ミキサーズラボでは、日米のエンジニアの合同作業によってカッティングマシンをわずか数日間で導入。新譜はハイレゾのデジタル音源がメインとなっており、DAWは192kHz/24bitに対応している。
また、日本コロムビアは赤坂を撤退した2005年からほんの少しの期間だけアナログレコードのカッティングを中断したものの技術は継承されている。こうしたアナログレコード製作環境の復活によって新譜をCDとアナログレコードのそれぞれで発売するという動きはさらに活発になりそうだ。
レコードプレーヤーなどの新製品を発売する動きが出てきた
こうしたレコード会社の動きに対応して、機器メーカーでもアナログレコードブームに合わせレコードプレーヤーなどの新製品を発売する動きが見られる。パナソニックのアナログターンテーブル「SL-1200GAE」に加えて、ソニーもステレオレコードプレーヤー「PS-HX500」(61,000円)を2016年4月に発売した。「PS-HX500」は、アナログレコードの高品位な再生と、世界で初めてアナログレコードの音をDSD5.6MHzなどのハイレゾフォーマットでパソコンに録音・保存が可能なステレオレコードプレーヤーであるのが特徴。新設計のストレートトーンアームの採用により、安定したトレースの実現とともにターンテーブルには、強度と重量のバランスに優れたアルミダイキャスト製のプラッター(回転盤)や、厚さ約5mmの独自開発ラバーマット、キャビネットには、厚さ約30mmの音響機器に最適な高密度MDFを採用するなどアナログレコードの高品位な再生を実現している。パソコンと接続し、録音・編集ができる新開発の専用PCアプリケーション“Hi-Res Audio Recorder”をインストールし、パソコンにハイレゾフォーマットで保存できる。
デジタル、アナログを問わずハイファイ、原音再生へのあくなき追究は今後も続くだろう
この連載は「電蓄からデジタルオーディオまで」と題してスタートし、アナログレコードからCD、MD、さらにはハイレゾとその変遷を追ってきたが、デジタルとアナログが混在するオーディオの世界が今後も続くだろう。一回りして元に戻った観もあるが、それはオーディオの世界が単に技術だけでなく、聴く人の感性や心理状態と複雑に絡んだ世界だからだろう。とは言え、エレクトロニクス技術者のハイファイ、原音再生へのあくなき追究は今後も続くに違いない。(終り)
参考資料:日本レコード協会統計資料、JAS journal(日本オーディオ協会編)