時代時代によって大きな変化が見られるカラオケ用メディア

カラオケの発明や歴史を見る時、ハード(カラオケ機)に注目されがちだが、実はソフト面においてもその時代時代によって大きな変化が見られる。録音メディアとしては、8トラックカセットテープやアナログレコードから始まり、後に登場するコンパクトカセットテープやCD、そして家庭用VTRが登場してからはビデオカセットテープのカラオケソフトも登場した。さらに、映像カラオケにおいては、日本ビクターがVHD方式のディスクを発売し、パイオニアがLD(レーザーディスク)を発売したことで音楽(音)のみだったカラオケソフトは映像カラオケへとシフトして行くことになる。そして、現在の通信カラオケへと発展して来た。

カラオケ黎明期のカラオケソフトは8トラックカセットテープが主役

1970年以前のカラオケ黎明期におけるカラオケソフトは、これまで紹介してきたように8トラックカセットテープが主役であり、これと小型ジュークボックスとを組み合わせたシステムの時代だった。1970年代に入っても8トラックカセットテープ時代が続き、タイカン、タイトー、保志商店(後の第一興商)、日光堂、クレセントなどが創業し、カラオケビジネスがスタートした。この他にも小規模のいわゆる“4畳半メーカー”と呼ばれる事業者が乱立する。1970年代前半の市場は酒場やホテルなどへのレンタルが中心だったが、まだカラオケいう言葉は使われていなかった。

1970年代中期に大手電機メーカーが参入、カラオケ市場は活気を帯びる

1976年には大手電機メーカーのクラリオンが8トラックカラオケ「カラオケ8(ML-4000A)」を発売、カラオケ市場に参入した。ソフト面では、レコード会社のテイチクも豊富な音源を背景にカラオケテープの販売を開始した。また、1977年に入るとスナックなどの社交場でカラオケ人気が高まり客寄せに欠かせない存在となる、こうした背景から日本ビクターもカラオケ市場に本格的に参入する。1977年に日本ビクターは8トラックテープカラオケ第一号機「TJ-100」を発売した。これに対して、専業メーカーのタイカンが車載用カラオケ「ヴォイスワン」や電子エコー搭載の「タイカン7」を発売。また、日光堂もFMワイヤレスレシーバー内蔵のカラオケジューク「KJ-303」を発売、第一興商は8トラックカラオケ「プレイサウンド・TD-301」を発売するなどカラオケ市場は活気を帯びてくる。

ハード、ソフトの質の向上で社交場や家庭でカラオケ人気が高まる

そして、1978年にはクラリオンがカラオケの名を商品に付けたホームカラオケ“カラオケ8 No1「ML-1100A」”を発売した。これ以降に発売、もしくはレンタルされる製品にはカラオケとネーミングされるものが多くなる。クラリオンや日本ビクターのカラオケ市場への参入によって、ハード、ソフトともに質が向上し歌いやすくなったこともあって社交場はもとより家庭においてもカラオケを楽しむ人が増えて行った。このころが8トラックカラオケの全盛期で大手電機メーカーの日本ビクターやクラリオンを始め松下電器もホームカラオケに参入している。一方、カラオケ専業の第一興商、日光堂なども相次いで8トラックカラオケの新製品を発売、レンタルしている。参入メーカーの増加もあってカラオケ市場は盛り上がって行った。そして1978年には、東映芸能ビデオ(現:東映ビデオ)が映像のあるビデオカセット型カラオケソフト「想い出の軍歌(陸軍編・海軍編)」を発売している。さらに、大手家電メーカーの東芝や三洋電機もホームカラオケに参入しカラオケ人気は不動のものとなって行った。

業務用カラオケで採点機能が人気を呼び”採点ブーム”に

また、1980年には東芝EMIもビデオカセット型カラオケソフトを発売し、カラオケ市場に参入している。映像付きのカラオケは、1982年にパイオニアのレーザーディスクカラオケ(LDカラオケ)の登場によって一気に花開くことになるが、中でもスナックやホテルなどではレーザーディスクカラオケは不可欠の存在となって行く。また、このころ業務用カラオケでは採点機能が人気を呼び”採点ブーム”となる。初期の採点機能は必ずしも”歌の上手さ”と一致しているとは言えない面もあったが、採点機能は急速に進歩して行き今日ではテレビ番組のカラオケバトルでも審査員になり代って採点するほどの精度と信頼を得ている。

1980年代は参入メーカーが急増、カラオケ市場は戦国時代へ

1980年には、日本コロムビアもカラオケ「GP-K100」を発売しカラオケ市場に参入している。8トラックカセットタイプとコンパクトカセットタイプがあり、ホームカラオケにおいてはコンパクトカセットタイプが台頭してくる。さらに、1982年になると日立、アイワ、ヤマハ、日本マランツ、トリオなどもカラオケ市場に参入し、カラオケ市場は戦国時代に突入する。

カラオケによる騒音が社会問題に

ここまでカラオケがブームとなると、カラオケによる騒音問題が起きてくる。環境庁では、1980年に「カラオケ規制モデル条例」を作成してカラオケ騒音対策に乗りだした。この騒音問題は、後に「カラオケカプセル」や「カラオケボックス」の登場へとつながって行く。カラオケ騒音問題は日本だけでなくカラオケが普及している海外でも問題となっている。居酒屋の多いイギリスでは意外にもカラオケが普及しているが、その反面「最も重要と思いつつも最も不快に感じる発明品」としてカラオケが選ばれている。政府調査で不快な発明の1位にカラオケが選ばれ、イギリス人の22%がカラオケを不快と感じているのだそうである。これは、前回のイグ・ノーベル賞の受賞理由「カラオケを発明し、人々が互いに寛容になる新しい手段を提供した」と評価している反面、「相手に苦痛を与えるためには、自らも相手の歌による苦痛を耐え忍ばなければならない」と付け加えているほど、周囲の人には騒音としか聴こえない面があるからだろう。

写真:カラオケソフトのメディアとして、その時代時代に登場してきたメディアが利用された。写真はCDカラオケソフト。

参考資料:一般社団法人 全国カラオケ事業者協会HP、レジャー白書、JASRAC(一般社団法人 日本音楽著作権協会)、カラオケを発明した男(大下英治著 河出書房新社)、カラオケ秘史(烏賀陽弘道著 新潮社)、カラオケの科学(中村泰士著 はまの出版)、カラオケ王国の誕生(朝倉喬司著 宝島社)、笑う科学イグ・ノーベル賞(志村幸雄著 PHP研究所)、外国語になった日本語の事典、 日本ビクターの60年(日本ビクター編)、「SOUND CREATOR」(パイオニア編)、他