エレクトロニクス立国の源流を探る
No.181 日本が生んだ世界的エンタテイメント“カラオケ”第6回
テレビ画面にカラオケソフトの映像を映し出せる映像カラオケが登場
カラオケの普及に貢献した技術としてハード面ではエコー装置がある。歌うことが下手な人でもエコー装置により上手に聴こえるのでカラオケファンを増やす大きな要因となった。一方、カラオケソフトでは歌詞の画面表示機能がある。これは、テレビ画面にカラオケソフトの映像を映し出せる映像カラオケの発明によって初めて可能となった。むろん映像を映し出せるハードと、映像ソフトの両方が揃って実現したわけであり、単純にソフト面だけの進化というわけではない。
歌詞表示機能がカラオケ普及の最大の貢献者となる
初期のカラオケでは、歌詞カードや歌詞ブックなどを見ながら歌う必要があった。もちろん自分の持ち歌の歌詞をキチンと覚えていたなら歌詞カードなどを見る必要は無い。しかし、素人が何曲もの歌詞を覚えておくのは至難の業だ。曲の1番だけでも覚えておくのは難しい。これが1番から3番まで全曲覚えておくとなると相当の努力が要る。しかも10曲、20曲ともなると素人では、ほぼ不可能だ。そういった面からカラオケの歌詞表示機能はカラオケ普及の最大の貢献者と言っても良いのではないだろうか。
新曲のヒット期間が短くなる傾向にあり歌詞を覚えづらくなる
例えば、日本テレビの長寿番組で今でも人気のある“笑点”で回答する落語家が時々、歌で回答することがある。その時に最初の1~2小節は歌詞を覚えているので歌えるものの、その後は「ら、ら、ら、ら、ら~」となってしまって歌えず、司会者に叱られる場面を時々ご覧になった方も多いだろう。昔は、ヒット曲のヒット期間が長いものが多く、1年間~3年間という長期間に渡ってヒットする曲もあって、何度もラジオから流れて、自然に歌詞を覚えたりもした。しかし、最近では新曲の発売数が多く、ヒット期間が数ヵ月~半年程度となる傾向にあり、歌詞を覚えづらくなっている。
何曲もの歌詞を覚える能力もプロ歌手の凄いところ
余談になるが、プロ歌手は言わずとも“歌が上手い”。だが“歌が上手い”からと言って歌手になれるわけではない。人気歌手となるための条件は何だろうか。“歌が上手い”のは必要条件ではあるが絶対条件ではない。日本の歌謡界を代表する美空ひばり、五木ひろし、また石原裕次郎、小林旭などの日活の映画スター達まで幅広い歌手がいる。例えば、美空ひばりや五木ひろしの歌唱力は誰もが認めるところだが、石原裕次郎などは出演した映画からくる他者には無い独特の雰囲気、人間性などが聴く人の心に響く。そして、何曲もの歌詞を覚える能力もプロ歌手の凄いところ。自分の持ち歌で何百回と歌っているのだから覚えていて当然というかもしれない。しかし、コンサートなどで1ステージに何十曲も歌うとなると全曲、歌詞を正確に覚えていて歌うのはプロ歌手と言えども難しい。
美空ひばりでさえ「1ステージに39曲もの歌詞を正確に歌えるか」という不安が
1988年に行われた、美空ひばりの「不死鳥コンサート」東京ドームは、今でも伝説のコンサートとして語り継がれている。森英恵がデザインした不死鳥伝説のステージをイメージした金色の衣装で登場。体調が悪く足の痛みでステージに立つことすら難しい中で、激痛に耐えながら合計39曲を熱唱した。万一に備えて裏手に救急車や控え、さらに簡易ベッドと医師も控えていたほど。そんなプロ中のプロでも一番心配していたのは、過去に何度も歌ってきた持ち歌でも「1ステージに39曲もの歌詞を正確に歌えるか」ということであったと後に語っている。また、美空ひばりと親しかった島倉千代子は「新曲を覚える時に、私は歌詞から先に入る」と語っていた。メロディーより先に歌詞を見たり、覚えたりすることによって曲のイメージを掴むということなのだろう。
歌詞カードを不要としてくれた映像カラオケの登場
そんな訳で、素人が歌詞を覚えるのは至難の業であり、歌詞カードはどうしても必要となる。その歌詞カードを不要としてくれたのが、映像カラオケの登場である。1978年に東映芸能ビデオがテレビ画面に映像と共に歌詞を表示するビデオカセット型ソフトを発売した。また、1981年には東芝EMIが“文字ビジョンカラオケ”「文字郎」を発売している。
1982年にパイオニアが“レーザーディスクカラオケ”「LD-V10」を発売
さらに、1982年にはパイオニアが“レーザーディスクカラオケ”「LD-V10」を発売。東映ビデオも20㎝盤LDソフト「東映レーザーカラオケ」を発売している。この年には、クラリオンが採点機能付きカラオケ「MW-5000A」を発売しており、パイオニアもステレオホームカラオケ「KS-808」を発売している。さらに、日本コロンビアが「GP-K300」を発売するなど家庭用カラオケ市場は活発化、月産25万台規模へ成長している。一方、業務用カラオケ市場においても、タイカンがコインボックス一体型カラオケ「ミューズ800」を、日光堂は「ハイキャッスルK-2000」、第一興商が“スタジオマスター”「GP-K650」を発売している。社交の場だけでなく家庭においてもカラオケ人気は高まってきた。
参考資料:一般社団法人 全国カラオケ事業者協会HP、レジャー白書、JASRAC(一般社団法人 日本音楽著作権協会)、カラオケを発明した男(大下英治著 河出書房新社)、カラオケ秘史(烏賀陽弘道著 新潮社)、カラオケの科学(中村泰士著 はまの出版)、カラオケ王国の誕生(朝倉喬司著 宝島社)、笑う科学イグ・ノーベル賞(志村幸雄著 PHP研究所)、外国語になった日本語の事典、 日本ビクターの60年(日本ビクター編)、「SOUND CREATOR」(パイオニア編)、他