カラオケボックスが酒を伴わない場での利用へとカラオケのすそ野を拡大

カラオケボックスが普及したことで、カラオケはそれまでの酒を提供する飲食店での利用から、酒を伴わない場での利用へとすそ野が広がって行った。バーやスナックと言った酒を伴う場は、友人・知人・会社の仲間以外にも他の客も居て、上手に歌える人なら気にもならないだろうが、あまり上手く歌えない人の場合はマイクを持つことを躊躇してしまうだろう。しかし、仲間同士で利用できるカラオケボックスならば、たとえ下手な人でも歌うことができるし、新曲の練習にも便利だ。
 

収録曲数の拡大でユーザーの選曲リクエストに応える

こうしたカラオケ市場の拡大に注目した大手電気メーカーやカラオケ専業企業は、次々とカラオケ市場への参入、新製品の発売に力を入れるようになる。1986年にはソニーがカラオケ部門を担うソニービデオソフトウェア―インターナショナルを設立した。また、クラリオンは“CDロボット”とCDグラフィックスソフトを発売した。レーザーカラオケで躍進していたパイオニアは、30cm盤LDを使いながら省スペース(カウンターサイズ)の「LK-V31」を発売するとともに、30cm盤LDオートチェンジャー「LC-V30」を発売している。従来は20cm盤LDが中心だったが30cm盤LDを採用することで収録曲数が1枚10曲程度から30曲程度に大幅にアップ、歌える曲数が増えることで幅広いユーザーのリクエストに応えることができるようになった。

メーカーもカラオケボックスへの対応を迫られる

日本ビクターも1986年には、VHDカラオケ「VK-1500」と100枚CDGオートチェンジャーカラオケ「DS-5000」を発売し多曲収容により、カラオケボックスなどへの対応を強化した。なお、1986年にはカラオケテープの累計生産数は1億巻に達したが、カラオケ界は、ランダムアクセスができ選曲に便利なLDやVHD、CDGなどディスクメディアへとシフトして行く。カラオケ専業の動きとしては、タイカンがVHDカラオケ「VDS-1000」を発売したほか、T&Mはプリペイドカード式カラオケシステム「TD-5」を開発するなどの新しい動きが見られた。プリペイドカードをカラオケに利用できるになれば、ユーザーはカラオケボックス利用で一層便利になり、事業者も現金回収の手間が省けるので双方にメリットがある。

ワイヤレスマイクが普及し始め一層歌い易くなる

さらに、1987年になるとタイトーもカードシステム「カードボックスTC-3000」を発売している。また、この年にはワイヤレスマイクが普及し始めた。現在ではワイヤレスマイクが当たり前となっているが当時は長いマイクコードを使っていたので、歌い手が変わる度にマイクコードをあちこちに移動せねばならず、テーブルの上のコップをひっかけて床に落としたり、飲み物をこぼしたりと厄介だった。また、カラオケ機のマイク端子や、マイクコードの端子などに力が掛かり接続不良による歌の途切れが出ることも有ったが、ワイヤレスマイクの登場によって、こうした不具合が一気に解消した。なお、この年には東映のカラオケビデオソフト「夜叉のように」が“国際映像ソフトフェア`87”において「映像ソフト大賞」を受賞している。

写真:ワイヤレスマイクが普及しカラオケはより便利となった。

1988年にFC事業開始でカラオケボックスブームが一気に盛り上る

こうした流れを経て、1988年にはカラオケボックスブームは一気に盛り上がった。第一興商やタイカンでは、カラオケボックスのFC(フランチャイズ)事業を開始した。これによりカラオケボックス経営に知識が無くても資金量があればカラオケボックス事業に参入することができるようになった。さらに、カラオケボックスは当初、郊外の道路沿いが中心だったが、繁華街や商店街、商業地へと広がりビルの中へも進出したことで立地面での制約もなくなり、全国的なブームとなって行った。
 

カラオケボックスを対象としたハード、ソフトが次々と登場

全国的なブームとなったカラオケボックスを対象としたハード、ソフトも次々と登場した。日光堂ではバーコード式CDオートチェンジャーカラオケ「CD-A150」を発売している。日本ビクターは150枚収納のCDGオートチェンジャーカラオケ「DS-6000」を発売した。この「DS-6000」は、2連動作可能で収録曲数のアップが可能となる。このほかでは、東芝EMIが150枚収納CDオートチェンジャーカラオケ「CD-150MK2」を開発し、クレセントが販売している。LDカラオケではパイオニアが30㎝盤LDカラオケ「LD-V17」を発売しており、この機種は以後ロングセラー機種となる。一方、注目されるのは家庭用LDプレーヤーの普及に合わせて東映がホーム用カラオケLDソフト「音多MANシリーズ」を発売したことで、家庭においても映像カラオケが普及するきっかけとなった。

参考資料:一般社団法人 全国カラオケ事業者協会HP、レジャー白書、JASRAC(一般社団法人 日本音楽著作権協会)、カラオケを発明した男(大下英治著 河出書房新社)、カラオケ秘史(烏賀陽弘道著 新潮社)、カラオケの科学(中村泰士著 はまの出版)、カラオケ王国の誕生(朝倉喬司著 宝島社)、笑う科学イグ・ノーベル賞(志村幸雄著 PHP研究所)、外国語になった日本語の事典、 日本ビクターの60年(日本ビクター編)、「SOUND CREATOR」(パイオニア編)、他