JASRACがカラオケにおける音楽にも著作権料を課金

映像カラオケの登場やカラオケボックスの普及によってカラオケ市場は急速に拡大してきたため、音楽の著作権を管理する日本音楽著作権協会(JASRAC)では、1987年からカラオケにおける音楽にも著作権料を課金するようになった。さらに、カラオケボックスが全国的に普及拡大してきたことから1989年にはカラオケボックスにおける音楽の使用に関しても課金する著作権使用規定案を作成した。
 

JASRACは1939年に設立された社団法人大日本音楽著作権協会を前身とするもので本部は東京都渋谷区の古賀政男音楽文化記念財団が所有するビル内にあり、全国主要都市に支部が置かれている。音楽著作権を管理する団体としては、ほぼ独占的立場にあると言えるため独占禁止法との関係がたびたび問題となるが、作曲者、作詞者、音楽出版社のほとんどはJASRACに自らが所有する音楽著作権を移転している。

著作権が及ぶ範囲も時代とともに拡大

JASRACは著作権の移転を受けて、利用者から使用料を徴収し、5%~25%の管理手数料を差し引いた金額を委託者に支払う仕組みとなっている。著作権が及ぶ範囲も時代とともに変化しており広範囲になっている。例えば、1971年の社交ダンス教室に始まってその後、喫茶店、レストランはもとより歌謡教室なども著作物の利用には、著作権料を支払うことになる。そして先に示したカラオケにもその対象が拡大した。さらに、フィットネスクラブやカルチャーセンター、音楽教室、コンサート会場まで及ぶ。もちろんテレビやラジオ放送、CD/DVDなどのパッケージ系ソフト、インターネットによる音楽配信と広範囲に及ぶ。

「音楽文化の普及発展に寄与する」との理念と整合性が問われる

ただ音楽教室の場合は、音楽教育の一環であり、またJASRACの設立理念である「音楽文化の普及発展に寄与する」と言う面からも、他の業種とはやや異なるため微妙な問題となっている。現在、音楽教室事業者団体の「音楽教育を守る会」とJASRACの間で訴訟問題となっている。著作権に関する監督官庁は文化庁だが、文化庁長官の文化審議会では、2018年に音楽教室の著作権使用料で受講料収入から2.5%の徴収を認める答申を提出している。


音楽教育の練習にまで徴収するのは「文化の発展」を謳っている著作権法に照らして果たしてマッチするのだろうかとの疑問がある。カラオケの場合「公衆に直接見せ、聞かせる」ものであり、著作権料がかかるのは理解できるが、音楽教育に関しての指導・練習にまで課金するのは権利濫用と指摘する有識者もいる。
 

文化庁が「カラオケ著作権に関する注意」を呼び掛け

その文化庁だが、「カラオケ著作権に関する緊急のお知らせ」が同庁のホームページに掲載されている。内容は、文化庁に「カラオケ著作権を購入すれば、カラオケビジネスの利益の一部を受け取ることができるのか」との問い合わせが多数寄せられるようになったため緊急で告知したもの。巷では著作権の譲渡に関するパンフレット等に「文化庁」と表示されたものが出回り、あたかも文化庁が推奨しているかのような表記があるためだ。これに対して「文化庁が著作権を利用した特定のビジネスや取引に関与したり、推奨したりすることはありません」と注意を呼び掛けている。

消費者庁も「カラオケの楽曲や発明に関する配当が入ると思い込んで購入する」可能性を指摘

またこの連載で紹介した「カラオケを発明した男」の著作権を分割譲渡に関する質問も文化庁に寄せられており、「譲渡を受けたとしてもカラオケビジネスによって生じた利益が自動的に受けられることはありません」と回答している。また、文化庁は「カラオケというビジネスモデルに著作権はありません」と警告している。この著作権譲渡に関する話は日経新聞でも報道されている。「カラオケ発明者として知られる井上大輔氏が書いた文章の著作権が2万口に分割され、高額で権利を売り付ける業者とのトラブルが増えている」との記事である。このため消費者庁では「カラオケの楽曲や発明に関する配当が入ると思い込んで消費者が購入する恐れがある」と注意を呼びかけている。こうした問題が飛び交うのも、カラオケの発明やカラオケビジネスに関する特許申請が無いことに加え、著作権という一般人にはよくわからない権利が絡み合って生じているようだ。カラオケに関する基本特許の申請は無いが、歌詞の色変わりティロップなどカラオケをより便利に楽しむための周辺特許は数多くあるため、なおさら混乱しているようなので注意してほしい。
 

3種類の許諾方法が選択可能

先に述べたように、JASRACは1987年からカラオケに関する著作権管理を開始している。ただし、営業面積5坪までの社交場は免除処置すると規定した。JASRACが管理する著作物の演奏等による利用にあたっては、包括許諾と曲別許諾のいずれかを選択できるとなっているが、原則として一演奏場所を単位として、利用場所ごとの手続きとなると表記している。包括許諾とは、JASRACが管理する著作物のすべてについて、利用できる許諾方法であり、①月額使用料、②カラオケ歌唱について年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合の月額使用料、③1日1回(宴会1回)あたりの使用料(宴会場における利用に限る)の3種類がある。また、曲別許諾は、JASRACが管理する著作物ごとに利用できる許諾方法で、利用日の5日前までに申し込まなければならない。この方法だと1曲1回の使用料が適用される。なお、JASRACでは利用許諾契約を締結している契約店には、契約店であることを示すステッカーを交付し、店の入り口等に貼れるようにしている。

写真: JASRACの活動

参考資料:文化庁HP、一般社団法人 全国カラオケ事業者協会HP、レジャー白書、JASRAC(一般社団法人 日本音楽著作権協会)、カラオケを発明した男(大下英治著 河出書房新社)、カラオケ秘史(烏賀陽弘道著 新潮社)、カラオケの科学(中村泰士著 はまの出版)、カラオケ王国の誕生(朝倉喬司著 宝島社)、笑う科学イグ・ノーベル賞(志村幸雄著 PHP研究所)、外国語になった日本語の事典、 日本ビクターの60年(日本ビクター編)、「SOUND CREATOR」(パイオニア編)、他