データを圧縮、大容量の通信システムにより通信カラオケが可能に

通信カラオケが急速に普及した背景としてカラオケボックスが全国的に増えたことがある。しかし、こうした市場背景が有っても技術的に通信カラオケを実現できるだけのものが無ければ不可能である。膨大な音楽データを短時間で伝送することのできる高速かつ大容量の通信システムが必要となる。また音楽データを圧縮して送受信する技術も必要となる。さらに、動画カラオケとなれば、膨大な映像データを高速で伝送したり、保存したりする技術が必要になる。こうした様々な問題を技術的に解決することで初めて理想的な通信カラオケが実現可能となる。

MIDIの登場により電子楽器間の演奏データのやり取りが簡単に

中でもMIDIと呼ばれる電子楽器の演奏データを機器間でやり取りする規格が登場したことが大きい。MIDIとはMusical Instrument Digital Interfaceの頭文字を組み合わせた言葉で、電子楽器やコンピュータ等のメーカーや機種に関わらず音楽の演奏情報を効率良く伝達するための統一規格だ。楽器演奏の要素となる「音の高さ」、「大きさ」、「長さ」と音色や効果 を数値化(記号化)したもの。音楽波形そのものを伝達するのに比べ約100分の1に圧縮された効率の良い音楽の演奏情報となっている。
 

MIDIの開発・普及に尽力した梯 郁太郎氏

MIDIは電子楽器会社のローランドを創業した梯 郁太郎(かけはし いくたろう)氏が、考案し電子楽器の世界共通規格として、その普及に尽力したもので、The Recording Academyから「Technical GRAMMY Award(テクニカル・グラミー・アワード)」を受賞している。この賞は音楽産業の発展において、レコーディング分野で優れた技術で貢献した個人や企業を表彰する賞で、r. Dave Smith(元シーケンシャル・サーキット社社長)と連名で受賞している。MIDIはメーカーを問わない電子楽器の世界共通規格であり、音楽産業の発展に貢献したことが評価され授与されもの。

MIDI規格の登場が通信カラオケ実現に貢献

MIDI規格に対応している楽器ならばメーカーや種類を問わず音楽データをやりとりできる。数値化されたデータなので内容を変更したり編集したりすることが容易になる。これがMIDIの最大の特徴で、鍵盤楽器によって演奏されたデータもコンピュータのキーボードで打ち込まれたデータもMIDI規格なら同じ数値となる。MIDI規格によって電子楽器の世界が飛躍的に成長し、コンピュータ・ミュージックも発展、通信カラオケの実現にも大きく貢献することになった。
 

DTMを可能にしたMIDI規格

また、音楽制作の場も録音スタジオから、パソコンによるDTM(デスクトップミュージック)での制作が可能となり、高価な録音スタジオを借りなくても安価に制作できるようになって行った。そして、パソコンでMIDI規格の音楽データを作り、それをMIDI音源やデジタルピアノなどの電子楽器に送れば音楽の演奏が可能となる。逆に電子楽器の演奏を音楽データとしてパソコンに送り、保存して置くこともできる。
 

MIDIにはソフト、ハード両面で規格がある

また、MIDIデータは、通信回線を使って離れた場所へも送受信できるので楽器やコンピュータの世界にとどまらず、カラオケにも利用されるようになって行った。カラオケルーム等にMIDI音源を置き、カラオケのMIDI演奏データを通信で送ればよい。MIDI規格は社団法人音楽電子事業協会で普及促進、バージョン管理などを行っているが、MIDI1.0規格が制定されてから38年後の2019年にMIDI2.0規格が制定されバージョンアップされている。MIDI規格はソフトウエアだけでなく、ハードウェアにおいても規格化されており、インターフェースや接続端子の規格もある。MIDIは、この他にも携帯電話の着信メロディの送受信に活用されたり、自動演奏装置やホールやイベントの照明装置など、自動制御装置とも連動したりして幅広く使われている。

カラオケ用ソフトはオーケストラ演奏ではなくMIDIにより作成

なお、カラオケ用ソフトは歌手が歌った時のオーケストラ演奏を歌手の声を抜いて録音したもの(オリジナルカラオケ)と誤解している人が多い。新曲のCDが発売される時、歌手の声を抜いたオーケストラ演奏がカラオケとして収録されているものが多い。しかし、カラオケボックスなどで一般にカラオケ演奏用として使われているカラオケソフトはそれとは異なる。レコード会社は楽曲のカラオケへの使用権を与えるだけで、歌手の声を抜いたオーケストラ演奏を渡しているわけではない。

カラオケデータ制作専門のプログラマーがMIDIデータを作成

カラオケボックスで使われているカラオケソフトは、元バンドマンだったりした人が、カラオケデータ制作専門のプログラマーとなり、シーケンサーやDTMなどを用いてMIDIデータを作成し、通信カラオケ配信会社に卸す仕組みとなっている。つまり演奏しているオーケストラのメロディや楽器の種類を聞き分け、それに基づいて作っている。頭の中に入った演奏情報を基にシーケンサーやMIDIデータを作成できるソフトの入っているパソコンなどを使ってカラオケソフトを作っているのである。
 

写真:MIDI規格のシーケンサー「ヤマハQY100」とMIDI端子

参考資料:一般社団法人 全国カラオケ事業者協会HP、社団法人音楽電子事業協会、レジャー白書、JASRAC(一般社団法人 日本音楽著作権協会)、カラオケを発明した男(大下英治著 河出書房新社)、カラオケ秘史(烏賀陽弘道著 新潮社)、カラオケの科学(中村泰士著 はまの出版)、カラオケ王国の誕生(朝倉喬司著 宝島社)、笑う科学イグ・ノーベル賞(志村幸雄著 PHP研究所)、外国語になった日本語の事典、白鵬大学論集(柳川高行氏)、文化庁HP、日本ビクターの60年(日本ビクター編)、「SOUND CREATOR」(パイオニア編)、他