[日本のレピータ]

1982年、東京巣鴨にあるJARL連盟事務局に設置されたレピータJR1WAが落成検査に合格し、アマチュア無線家の長年の夢であった日本初のアマチュアレピータ局として開局した。このJR1WAを皮切りに各エリアに順次JARL直轄局のレピータが開設されていった。その後、同年10月、地域のクラブなどが開設するレピータ・団体局の申し込み受付が開始された。

直轄局と団体局の違いを説明すると、直轄局はJARLが機材を調達し、設置、管理する局で、基本的には1つのエリアに1局を開設することになっている。団体局は、JARL以外の団体が機材を調達し、設置、管理する局だが、レピータの免許はJARLにしか下りないため、団体局でも免許人はすべてJARL会長となる。そのため、機材は、団体がJARLに無償貸与する形となる。現在日本で稼働しているレピータの大半は団体局である。

[管理団体を組織]

1982年、ハム連合の中で、ぜひ熊本県にもレピータを設置しようという話が持ち上がった。団体局に応募するには様々な条件があったが、まずは管理団体を組織して資金を確保してから、レピータを設置する場所を定めて、所定の様式でJARLに計画書を提出する必要があった。会長の浅井さんは、直ちにレピータ開設に向けた団体(管理団体)を組織し、メンバーを募集した。すると180名もメンバー集まり開設資金調達の目処も立った。「よくまあ180人も集まったものでした」と浅井さんは当時を思い出す。

計画書の中には、JARLの県支部長の印が押された理由書が必要であった。支部長からは「時期尚早だ。熊本にレピータなんか要らない」と言われながら、浅井さんは粘り強く交渉して、理由書を書いてもらい印鑑を押してもらった。浅井さんはすぐに、東海大学に向かい、開設予定場所である東海大学立田山分室にレピータを設置する旨の承諾書をもらった。もちろんこれは事前に内諾を得ていたものであった。

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東海大学立田山分室。(2010年現在の様子)

[団体局に応募]

立田山は熊本市の中心部にある標高160mの山で、山頂近くに東海大学立田山分室が設置され、無線通信の研究が行われていた。この立田山分室ではその頃衛星通信の研究も行っていた関係で、アマチュア衛星(JAS-1など)の追尾を行い、JARLの技術研究所にデータを送っていたため、アマチュア無線とは縁があった。さらにここは、TVの中継局もあるなど、ロケーションが良く、レピータを設置するには絶好の条件であったため、浅井さんは、レピータ開設の話が出たときから、立田山に目を付け、東海大学と交渉を行っていた。

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設置場所について記載した計画書の一部。

必要な書類が集まったため、浅井さんは計画書を提出して団体局に応募した。九州管内では、まず直轄局のJR6WAが福岡市に開局し、次にJR6WBが日本初の団体局として甘木市(現・朝倉市)に開局していた。「WCは嫌だなあと思っていたところ、WDが割り当てられてほっとしました」と浅井さんが話すように、ハム連合が組織した管理団体にはJR6WDが割り当てられた。

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落成検査に合格し、担当官から免許状を受け取る浅井さん。

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JR6WD開局を伝える「くまもとハム連情報」。

[装置を局舎内に移動]

アンテナは、東海大学立田山分室にあった鉄塔を借りて設置したが、ロケーションが良いため飛びすぎないかとメーカーが心配したくらいで、想定していたカバーエリアは熊本市内であったが、実際には久留米市の先まで電波が飛んでいった。設置当初は、アンテナだけを鉄塔に取り付け、同軸ケーブルを校舎に引き込んで、レピータ装置は校舎内に設置させてもらっていたが、しばらくすると鉄塔直下にあった局舎が空いた。

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局舎と鉄塔。

この局舎は広さ3畳程度の鉄筋コンクリート作りの建物で、肥後銀行のオンラインの補助回線(専用線が壊れたときのための無線によるバックアップ回線)用の無線設備が稼働していた。肥後銀行も東海大学の鉄塔を借りて、補助回線を構築していた。しかし、通信技術の進歩で有線回線が安定し、無線による補助回線は要らないという事になって肥後銀行が撤退したのであった。撤退後、そのまま局舎を借りられることになったため、浅井さんらはレピータを校舎から局舎に移転させた。

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レピータ装置を移転させた局舎の内部。

局舎の賃借料は無料で、電気代だけ負担すればよいという好条件であった。冷房はなかったが温度センサー付きの換気扇があり、夏場の高温期にも問題はなかった。なにより局舎は鉄塔の直下にあるため、同軸ケーブルのロスが少なくなったことが大きなメリットであった。JR6WDの開設当初は430MHzだけであったが、180名もの会員がいたため、資金に余裕があり、すぐに1200MHzも追加していた。特に1200MHzで同軸ケーブルのロスが減ったメリットは大きかった。

[今なお正常に稼働]

資金に余裕はあった反面、会員が多すぎてレピータの稼働率が極めて高く問題も出てきた。レピータ局は、管理団体の会員以外が使用しても何ら問題はないが、JR6WDの場合、設立当初は稼働率が高すぎて、会員だけでも満足に使えない中、一般局が入り込む余地がなかった。そのため長話はダメと規制をかけた。また時には無変調の電波でいたずらをする輩も出てきたため、そのようなときは、遠隔操作で電源を落として対応したという。「その頃は、いたずら防止のため常にワッチしている必要がありました」と、浅井さんはと当時を振り返る。

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鉄塔トップに1200MHz用のアンテナ、突き出し金具に430MHz用のアンテナを設置している。

JR6WDは開設からすでに27年経過しているが、浅井さんは開設の時から2010年の現在までずっと管理団体の代表者を務めている。いまでは会員が10数人まで減ってしまい、レピータ自体は正常に動作しているものの、あまり稼働していない状況で、どちらかというと、管理団体の会員以外が使っていることが大半だという。なお、会員が減って会費収入も減ってしまったが、電気代はかかるため、昔からあった積立金を少しずつ取り崩して運営している状況だという。

開設以来27年間に、430MHzと1200MHzを合わせて3回ほどしか故障が無く、そんなこともあって、点検も3年に1度くらいしか行っていない。「1200MHzは、普段ワッチもしていないため、調子が悪くても分かりません。連絡を受けて初めて不調が分かるという次第です。連絡があると、装置の確認に行きますが。局舎には小動物や虫が入ってくるため、装置はフンだらけという状態です」と話す。