[D-STAR]

D-STAR(Digital Smart Technologies for Amateur Radio)とは、JARLが開発した、アマチュア無線の「音声通信」、「データ通信」をデジタル方式で行う新しい通信方式のことで、レピータを介さないシンプレックス通信のほか、レピータならびにレピータ局間を中継する幹線系通信、さらにはインターネットを使うことで、広範囲の通信を実現した、画期的なシステムのことをいう。

また、音声系通信で比較すると従来のアナログFM波と比べて使用する占有周波数帯幅が非常に狭く、これにより不足しがちな周波数の利用効率が大幅に改善できるというメリットをもっている。長年研究が進められてきたD-STARであるが、2003年からD-STARネットワークの実証実験の準備が始まり、翌2004年になると実験局としてシステムが稼働を始めた。

まずは、関東地区、関西地区、東海地区の3地区にレピータ網が設置されたが、順次地方にも拡充していくことになった。2004年からJARLレピータ委員を努めていた浅井さんは、九州にもD-STARレピータが欲しいという会員からの要望を受け、JARL直轄局の設置を検討していた。2006年のJARL総会は熊本で開催されたことを連載第13回でも書いたが、たまたまD-STARレピータ設置の検討時期とJARL総会の開催時期が重なった。

[レピータ開設を計画]

JARLでは、会員への周知・啓蒙のため、JARL通常総会の時には、できるだけ総会会場からアクセスできるところにD-STARレピータを立ち上げている。前年2005年に仙台で開催された通常総会の時から始まり、2006年の熊本での通常総会でも会場からアクセスできるところにレピータを開設することとなり、浅井さん達の要望と合致したのであった。

レピータを開設する目処は立ったが、D-STARのデジタルレピータを開設する条件として、従来のアナログレピータの開設と決定的に違うのは、レピータをインターネット回線に接続することが挙げられる。そのため、山の上のロケーションの良いところへの設置を試みても、インターネット回線とつながらないのでは開設の条件が満たせない。浅井さんは、できるだけ公的機関がよいと考え、日本赤十字社熊本県支部に交渉を行った。

浅井さんは日赤熊本に出向いて、D-STARシステムを使った非常通信の有効性を訴え、最終的に了承をもらった。こうして開設場所の目処も立ち、新たに管理団体を組織することになった。しかし、通常総会までにレピータを稼働させるためには十分な時間もなかったため、管理団体の構成員は、JARL熊本県支部の役員を中心に声をかけてメンバーを募り、浅井さんが代表者となって、管理団体を立ち上げた。

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レピータ開設に協力してくれた日本赤十字社熊本県支部の社屋。

当時のスケジュールを見ると、2006年1月24日に日本赤十字社から開設同意書をもらい、25日にJARL熊本県支部長、さらには九州地方本部長の判をもらって、26日にJARL本部に開設申し込みの書類を送っている。当時はすでにJARL通常総会の実行委員会も稼働しており、非常に忙しいスケジュールであった。

[免許がおりる]

申請したのは、430MHzのDV(デジタルボイス)レピータと、1200MHzのDD(デジタルデータ)レピータで、3月22日付でJP6YHNとして免許がおりた。通常総会は5月下旬なので、結果的には十分に間に合った。また、レピータを開設しただけでは実運用は行えないため、レピータの開設申し込みと同時に、D-STARの普及を目的とした社団局「くまもとD-STARクラブ」を立ち上げ、開局申請を行っておいた。その結果、4月25日付けでJG6YBQの免許がおりた。

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稼働中のJP6YHN。

くまもとD-STARクラブの構成員は、JP6YHN管理団体の構成員と同じ、県支部の役員としたが、この社団局の開局によって、クラブ員だけでなく、クラブの機器を使ってゲストにもD-STARを体験してもらうことができるようになり、JARL通常総会の会場でデモンストレーション運用、ならびに来場者による体験運用も行えるようになった。以降は県支部大会や西日本ハムフェアの会場にもくまもとD-STARクラブとしてブース出展し、浅井さんらクラブ員が、D-STARの普及活性化に努めている。

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ブース展示して来場者に説明中のくまもとD-STARクラブ。

[アクティブに運用する]

D-STARレピータ開設に伴い、浅井さんは自身の個人局でも事前にD-STARハンディ機・ID-91を購入して変更申請を済ませておいた。そのため、JP6YHNが開局した直後に、D-STARを使った1stQSOを東京の局との間で達成している。もちろん通常総会が終わった後も、引き続きアクティブに運用している。特に自宅にいるときは、常時ID-91の電源を入れておき、JP6YHN経由の呼び出しがあれば、できる限り応答しているという。

浅井さんは、自宅シャックでID-91を使用している関係上、外部電源とスピーカーマイクを常時接続して運用している。また、パソコンにも接続して、パソコンのディスプレイで相手のコールサインや使用レピータなどを確認している。「ハンディ機なので、表示される文字が小さくて見にくいですし、さらに一度に表示できる文字数にも制限がありますので、パソコンのモニターで見ているのです」と話す。