[狩猟を始める]

海老原さんは、ハイレベルな競技熱が冷めた後、クレー射撃に並行して狩猟も行うようになる。初めの頃は単独で、スキートがそのまま実戦形式で応用できるヤマドリ撃ちに出かけていたが、今ではグループ猟によるイノシシやシカが対象の大物猟がメインとなっている。

「昨年は12名いた仲間が今年は6名になりました。高齢化に加え、銃砲所持許可の条件が厳しくなったからです」と話す。たとえば、銃と装弾は別の建物に保管しなければならなくなり、もし別棟の建物を持っていない場合は、銃、もしくは装弾のどちらかを保管業者に預けなければならないとか(2011年現在は努力目標)、3年に一度は射撃場で教習射撃を受け、規定以上の得点を得ないと所持許可取り消し処分(すでに実施)になる、などである。

とくに、ライフル教習射撃の場合、50m先の直径18cmサークル(外周円が1点圏)の標的を手持ち銃で20発を撃ち20点が合格点である。これはスコープを装着してない重い30口径(7.62mm口径)の実猟銃ではまず不可能な点数で、現に合格点の20点を得られるのは教習対象者の1/3程度という。

さらに、銃砲所持許可は日本全国で有効だが、狩猟免許は都道府県別となっており、京都府が発行する狩猟免許では滋賀県内で撃つことができない。1都道府県につき保険料なども含み約3万円かかり、2都道府県で狩猟をする場合は両県の狩猟免許が必要になるため費用がかさむ。海老原さんも以前は滋賀県の狩猟免許も申請して取得していたが、琵琶湖が全面禁猟になり、鴨撃ち猟が出来なくなったのを機会に、今は京都府の狩猟免許のみ取得している。

猟期は11月15日から2月15日の3ヶ月間だが、今年2011年からシカ猟のみ3月15日まで延長された(京都府の場合)。これは、シカが増えて農林業被害が増大、その駆除が目的とのこと。イノシシについては今年も2月15日までのため、その日以降にシカ猟に行った際、イノシシが飛び出してきても撃つことができない。なお、1日の捕獲量はハンター1人につき、シカが3頭(雄1頭、雌2頭)まで、イノシシは1頭までに制限されている。

[囲み猟]

海老原さんらのグループは囲み猟という方法の猟を行っている。まず猟の前日くらいに猟場を歩いて廻り、イノシシやシカの足跡で獲物がいるエリアを特定する。当日は、勢子(せこ)と呼ばれる比較的体力があり、猟場の地形に詳しいベテランが犬を引き連れ、獲物がいるであろうと特定しておいた狩猟エリアの山の頂上または尾根まで登り、上から下へ犬をけし掛ける。すると、獲物は下へ向かって逃げる。

逃げてくるであろう獣道で、撃ち手が待ち伏せをする。その場所は、周囲の地形や獲物の習性を熟知した経験で決めるという。「今シーズンはメンバーが激減してしまった私たちのグループでは、撃ち手と撃ち手の間隔がどうしても広くなるので、12名と時に比べて獲物を撃てる確率が下がりました」、「それでもイノシシ2頭とシカ42頭が今シーズンの猟果です。その内、私がイノシシ1頭とシカ12頭を仕留めました」と話す。

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2011年2月の猟でイノシシを仕留めた海老原さん。

猟犬は、血統が良い場合は1頭100万円もするのもいるが、海老原さんらは、血統書ではなく、猟師仲間の評判で、親犬がよく獲物に立ち向かったかどうかで判断している。「向かって行く、行かないは、犬によって全然違います。イノシシは犬に追われるのに疲れると、犬を待ち伏せして逆に襲ったりしますが、イノシシが出てきて逃げる犬ではダメです」と説明する。

[アマチュア無線が活躍]

海老原さん達のグループは、勢子と撃ち手、また撃ち手同士の連絡に、アマチュア無線を使っている。以前はCB用無線機を使って連絡を取っていたが、出力が100mWしかなく飛びが悪かったので、後年、グループ全員がアマチュア無線技士の資格を取得し開局申請も行って、アマチュア無線機に切り替えた。使っているバンドは144MHzである。430MHzの方が無線機のアンテナが小さく携帯性は向上するものの、逆に電波の直進性が高く、山の中での使用では、総合的に144MHzの方が優れるという。

「犬を放した」と無線機を通して勢子から連絡が入ると、「ここは絶対に通る」と長年の経験で見極めた獣道で待ち伏せる。遠くで犬の鳴き声がした後、まんまと獲物が通る。シカが出てきた場合は、肩口を狙って撃つ。肩口には良い肉が無いことや心臓に近く致命傷になることが理由で、腹に命中しても骨に弾が当たらないとシカは倒れないからだという。頭を撃つのがベストだが、的が小さいし動いているので難しい。もしシカが止まった場合は頭か首を狙う。

イノシシの場合は的の大きい腹を狙う。イノシシは動きが早く、走っているときにいきなり直角に曲がることもある。さらに暗いところを選んで逃げていくため、撃てるチャンスも少ない。そのため、部分的なところ狙っておられない。「イノシシを倒すのは難しいです。30年以上狩猟をやっていますが、イノシシはまだ10頭くらいしか仕留めていません」と海老原さんは話す。

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仕留めたシカを搬出中の海老原さん。(写真後方)

倒した獲物を一人で運べない場合は、無線機で仲間に連絡し、搬出を手伝ってもらう。車の誘導にも無線機が活躍する。その他、猟犬が道に迷い、帰って来ない場合も、無線機で連絡を取りながら、仲間と一緒に猟犬を探す。このようにアマチュア無線機は、もはや趣味での狩猟には欠かせない重要な道具のひとつとなっている。もちろん、アマチュア無線ではベテランの海老原さんが、適当な間隔でコールサインなどのIDの送出や、バンドプランの遵守を徹底させている。

[狩猟後]

「以前は剥製(トロフィー)も作りました。私のシャックに掛けているシカの剥製はもちろん私が撃ったものです。これくらい揃った3段角を持ったシカは京都の北山では珍しいです」、「ただし、これほど年老いたシカは肉が固くて、食用に適しません」と話す。大学職員現役の頃は、山登りの時などの尻当て用に鹿の皮が欲しいというワンダーフォーゲル部の学生に皮を提供した。「毛皮にするには、皮なめしが大変です。皮を伸ばして板に貼り、皮の中側にへばり付いている肉を全部ヘラで削ぎ落として、ミョウバンにつける作業です」と説明する。

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海老原さんが仕留めた3段角を持った大シカ。

肉は食用としている。1シーズンの狩猟で4、5ヶ月分はあるという。「シシ肉は鍋にするとおいしいですよ」、「無線仲間や元職場の外国人教員たちとでバーベキューをやるときなどには、シカ肉やシシ肉を提供しています」と話す。「シカ肉をステーキかローストビーフ風にして調理することもありますが、欧米人はシカ肉を「Venison」と呼んでいつも好評です。欧米人はどんな方法で調理しても食べてくれます」と海老原さんは話す。

※現在、狩猟にはデジタル簡易無線局(登録局)が使用できます。