「ライセンス受領」

PTTに到着後、海老原さんらはまず校長や職員たちへの挨拶を行った。その後、元PTT校長のアイさんから、書面のライセンスと、さらに各人のコールサインが記載されたプラスチック製のプレート(20×30cm)が手渡された。海老原さんには3W6JJのコールサインプレートがプレゼントされた。これはPTT内にあるクラブ局XV2Aの設備を使って運用する外国人は、必ず経験するセレモニーとのことだった。

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3W6ARアイさんからコールサインプレートを受け取る海老原さん。

セレモニー終了後、海老原さんらは、その後の運用に備えてXV2Aの常設無線設備のチェックを行った。設備の概要として、トランシーバーがIC-760、IC-726、IC-750、FT-747、リニアアンプがIC-2KLとTL-922、アンテナは14/21/28MHz用3エレトライバンダー、3.5/3.8/7MHz用ワイヤーダイポール、それに50MHz用5エレ八木などが30m高の屋上に上がっていた。

これらの設備のほとんどは、三好さんらが以前から少しずつ持ち込んだものだった。同軸ケーブルが3D2Vだったので少々不安があったが、三好さんの話では、これらの同軸はすべて日本から手持ち荷物で持ち込んだが、総延長が数百米になったため、やむなく軽量の3D2Vにしたとの事だった。

[機器の整備]

セットアップを進めていくと、IC-726にTL-922が接続されていたが、どうも外部スタンバイ回路のリレーが焼きついている様子で、スタンバイが連動しなかったため、TL-922をIC-760につなぎ直し、さらにSSTV周辺機器の接続もやり直し、とにかくSSTVの運用を最優先に進めた。

次にまだ明るい間にアンテナを点検した。屋上に上がって驚いたのが、目の前あった巨大な監視業務用のログペリアンテナだった。その他にもエレメント長の異なるダイポールやAWX、V/UHF用ディスコーンなど、屋上は色々なアンテナのオンパレードであった。 PTTが入っている建物はホーチミン市での電波行政の中枢なので、当然と言えば当然の状況だった。

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PTTビル屋上のアンテナ群。左奥に監視業務用のログペリアンテナが見える。

[無線運用]

ベトナムからの史上初めての運用となるSSTVが全世界から注目されていることもあり、セットアップが完了後、さっそく杉澤さんによって3W6TVの運用をスタートさせた。この3W6TVはSSTV運用のために、三好さんがわざわざ取得したコールサインであった。ベトナムからのファーストエバーQSOは、東京ビッグサイトで開催中のハムフェア特別記念局の8J1HAMとの間で成立した。

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SSTVを運用中の杉澤さん。

海老原さん自身、SSTVのQSOを実際に見るのは初めてだったが、「1分間に2〜4局とのQSOが可能なCWやSSBに慣れている者にとって、1QSOが7〜10分くらいかかるSSTVは、チョットまどろっこしい感じを受けました」、「何万ドルも掛けて行われる大がかりなDXペディションで、SSTVの運用があまり行われない理由の一つがこの辺にある様に思いました」とその時の感想を話す。運用初日の8月22日は、結局SSTVだけ運用し夜8時に閉局してホテルに戻った。

翌23日は、前日の通関などの疲れもあって、ゆっくり起床して朝食を摂った。その後、午前10時頃から街へ出かけ、今後必要になる、飲料水、カップラーメン、200V仕様のハンダゴテ、ハンダ、その他の工具やビニールテープなど、不足分の補充品を買い出しに行ったため、無線運用は午後からとなった。

[3W6JJの運用スタート]

杉澤さんによるSSTVの運用は、3W6TVのコールサインを使って14MHz、21MHzの500Wで夜まで継続されたが、その合間をぬって、海老原さんは21MHzのSSBとCWで2時間ほど3W6JJを運用し120QSOを行った。一方、三好さんと馬場さんは無線のオペレーションにはあまりこだわらず、もっぱらホーチミン市の市街地へ出かけて、ベトナムを楽しんでいる様子だった。

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ホーチミン名物のバイク集団。

この日の夕刻、現地時間の18時(日本時間20時)には、JA3ASU狭山さんから、4630kHzで試験電波を発射するのでベトナムでワッチして欲しいと頼まれており、ベトナム側からは送信できないので、受信だけのスケジュールを組んでいた。時間になると狭山さんの信号がRST559で受信でき、スケジュールは成功した。

3日目の24日も、海老原さんは、午後から夕方まで21MHzのSSBとCWで3W6JJを運用し270QSOを行った。その後18時からは、アマチュア無線に興味を持つ現地の人たち約20人を対象に、SSTVのデモンストレーションを3時間程度行った。「このデモンストレーションに、在ホーチミン日本総領事のJA1YV松永氏が突然挨拶に来られたのには驚きました」と話す。なお、デモンストレーションで配布したアマチュア無線全般について解説した資料は、三好さんと海老原さんで作成したという。

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SSTVのデモンストレーション中。オペレーターは杉澤さん。

[観光も行う]

4日目の25日は、せっかくベトナムまで来たので少しくらいは観光もしようと、4人全員で「メコン河クルージング」の1日ツアーに出かけた。料金は昼食付で48米ドルだった。あいにく日本語ガイドのコースが満席だったため、英語ガイドのコースに参加したが、天気は最高に良く、さらにツアーで一緒になったオーストラリアから来た親子連れのグループとも気が合い、1日を楽しく過ごすことができたという。

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メコン河クルージング参加中のスナップ。左前が海老原さん。

この日は、ツアーから帰り夕食後の19時頃から運用を開始したが、SSTVのQSO数が、予定どおりにできていなかったため、特別にオールナイト運用の許可をもらった。杉澤さん以外の3人は22時過ぎにホテルに戻ったが、杉澤さんは、十分な食料を持ち込み、1人PTTのビルに残って徹夜運用を敢行した。

[馬場さんが体調を崩す]

ただ、馬場さんの体調が突然おかしくなり、夕食に行った日本料理屋でもほとんど食欲がなく、熱もある様子だった。ホテルへ戻った後、海老原さんが持参した体温計で検温したところ体温は39度に達していた。さらに食中毒の症状である下痢、嘔吐、腹痛の症状が出だした。海老原さんは、出発前に前述のドクターハムJA3ASU狭山さんに調剤してもらい持参していた解熱剤、抗生剤と下痢止めを馬場さんに飲ませた。

さらに、念のために持参していた熱冷却シートで冷やし、丸一日をホテルで安静にさせていたら、投薬の効果があった様子で、馬場さんは1日で回復した。翌26日が帰国日だったので心配したが、帰国準備を始めたころには完全に回復していた。「馬場さんは食べ物には目がなく、生春巻きや、氷の入ったトロピカル・フルーツジュースなどを警戒もせずに食べたり飲んだりしていた結果だと思います」と海老原さんは話す。

最終日の26日、海老原さんは11〜14時までの3時間、21MHzのSSBで運用し、最終的に3W6JJでの総QSOは約600QSOに達した。一方、杉澤さんがメインで運用した3W6TVのSSTVは190QSOだった。「あの超非効率なSSTVでの190QSOは大成功だと思います。」と海老原さんは話す。

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3W6JJを運用中の海老原さん。