[使用アンテナ]

今回の運用は、サイパン島への深夜到着かつ深夜出発というハードスケジュールで、実質2泊3日であった。短期滞在と少人数での運用だったため、設営、撤収の時間を節約するためアンテナはできるだけシンプルなもので済ませようと海老原さんは考えた。ロケーションは海側が断崖絶壁でその下は太平洋という好条件で、日本方向、ヨーロッパ方向ともに遮るものが何もなく、コンディションさえ開ければ、ダイポールやバーチカルアンテナでも問題ないと考えた。

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レンタルシャックから海側を撮影した写真を使ったKH0/N3JJのQSLカード。

そのため、アンテナは、レンタルシャック常備の7〜28MHz用のマルチバンドバーチカルをメインアンテナとし、その他に、3.5/7MHz用のワイヤーダイポール、10/18/24MHz用のロータリーダイポール、50MHz用の5エレメント八木を使い、それに日本から持ち込んだ自作の1.8MHz用のフルサイズワイヤーダイポールを加えた。ちなみに、このダイポールアンテナは、出発前に自宅近くの公園で一応の調整と動作確認をしておいた。

メインのバーチカルアンテナは米国クッシュクラフト製のR-7000Jで、組み立てと調整が大変で若干の時間を要したが、7〜28MHzまで、WARCバンドを含んで良好に動作しよく飛んだ。50MHzは日本とのオープンを期待して、海さん自作のメモリーキーヤーを使い、ビーコンを24時間日本向けに送信したが、結果として50MHzがオープンしなかったのは残念だった。

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使用したアンテナとコテージ。写真中央のバーチカルがR-7000J。

なお、アンテナの設置や撤収時、特に夜間はキャップライトを点けての作業となったが、思わぬ障害が現れた。すごく大きい蚊だった。顔面、首筋や腕など、肌の露出しているところは、何処でも攻撃してきて、これが気になって作業が進まなかった。蚊取り線香がコテージに置かれてはいたが、全く効果がなかった。「今思えばブヨだったかも知れません。何れにしても、強力な虫除けスプレーを用意した方が無難です」と海老原さんはアドバイスする。

[パイルを捌く]

運用バンドについては、14MHzや21MHzでは、北マリアナ諸島(KH0)は雑魚と考え、日中は主に24MHzと28MHzで運用した。前述のようにレンタルシャックはロケーションが良く、またコンディションも良かったことで、バーチカルアンテナとダイポールアンテナに300Wの出力でヨーロッパからパイルを受けた。「久し振りにパイルをさばく快感を味わうことができました」と海老原さんは話す。

結局、海老原さんは16日の早朝から17日の深夜までの40時間を不眠不休で運用した。その後は、海さんと交代で適当に休憩と仮眠を取りながら、日中はレンタカーを借りて観光に出かけたり、また同時運用を行ったりして、18日22:20にQRTするまで、海老原さんが1,100QSO、海さんが1,500QSO、2人合わせて2,600QSOを行った。

[地元局とアイボールQSO]

17日には、地元局のWH0V(ex DU1WHO)ジュンさんがホテルまで訪ねてきてくれた。ジュンさんは当時、サイパン島の常駐局としては最もアクティブな局で、ローバンドから28MHzまで、RTTYを含んでオールバンド、オールモードでQRVしていた。5年前にフィリピンから移住してきて、サイパンでは時計屋さんを経営しているとのことだった。昼食用に彼が買ってきてくれたピザを一緒に食べながら、しばしのアイボールQSOを楽しんだ。

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左から海老原さん、海(JM1LJS)さん、ジュン(WH0V)さん。

今回は海老原さんにとって、初めてのサイパン訪問だったため、18日はレンタカーを借りて、半日島内観光を行った。「バンザイクリフ」、「スーサイドクリフ」や「日本軍最後の司令部跡」などの太平洋戦争激戦の地を回り、またショッピングセンターにも立ち寄って、サイパン島を一巡した。レンタカーは1日50ドルで、ホテルのセンターハウスで借りられた。運転免許はサイパン島の場合、日本の免許でも運転が許されるが、海老原さんは国際運転免許証を持って行った。

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激戦の地に建立されている慰霊碑。

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放置されている戦車。

[帰国]

18日の22:20にQRTし、海老原さんと海さんはアンテナや機材の撤収に取りかかった。レンタルシャックなので、海老原さんが持ち帰る機材は、自作の1.9MHzのダイポール位で、撤収は比較的楽だった。その後、ホテルのワゴン車でサイパン空港まで送ってもらった。往路は関西空港からのサイパン直行便だったが、帰路はグアムでの乗り換え便だった。サイパン空港を飛び立ち、約20分でグアム空港に到着した。すぐに、関西空港行きの便に乗り換えたところ、座席がCA(キャビンアテンダント)シートの前で、偶然にも前々年にマーシャル諸島(V7)に行った時と同じキャビンアテンダントが座った。彼女にマジュロへの便で一緒に写真を撮ったことを話すと、大変驚いていたという。

「短期間であったことと小人数での運用のため、アンテナも最小限のものしかセットせず、おまけに、リニアアンプが初日から故障という悪条件でしたが、コンディションに恵まれ、2人合わせて2,600QSOとまずまずの成果を上げることができました。また全日程でお天気に恵まれたことも、初めてのサイパンからの運用をより素晴らしいものにしてくれたと思います」と海老原さんは話す。帰国して1週間くらい経つと、世界各国からダイレクトによるQSLカードの請求が届き始め、最終的に約100通のダイレクト請求があったという。