[パラオに到着]

関西空港からパラオは、通常4時間20分のフライトであるが、出発が遅れた分、回復に努力したのか、4時間ちょうどでパラオ国際空港に到着した。高度を下げて着陸態勢に入った頃から、搭乗機はマッシュルーム型をした島々の上を旋回していき、眼下に広がるすばらしい景色に海老原さんは感動した。「お天気が良かったのでサービススライトだったのかも知れません」と話す。

パラオでの入国審査は簡単に終わり、ゲートを出たところでpia-japanからの迎えのスタッフを探していたところ、手を振って合図をしている女性を発見、日本に居るはずのpia-japanの伊藤さんであった。本来なら日本に戻っているところ、フィリピン経由の帰国便が確保できなかったため、まだパラオに滞在しているとの事だった。スーツケースなどは別のワンボックス車に積み込み、小川さんと海老原さんは伊藤さんの運転するセダンで、宿泊予定のVIPホテルまで送ってもらった。

伊藤さんは、T88FWの免許を持つハムで、「まだしばらくはパラオに滞在していますので、何でも困ったことがあれば連絡してください」と言ってくれ、パラオは初めての海老原さんらにとって心強い味方ができた。伊藤さんは海老原さんらの滞在中、VIPホテルへ訪ねてきてくれ、一緒に運用も行った。また、パラオにある日本料理の店や韓国料理の店を案内してくれたという。

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左からT88GNジョージさん、T88FW伊藤さん、ジョージさんの奥さん、海老原さん。

[運用準備]

VIPホテルへ到着しチェックインを行った後、ホテルオーナーであるT88GNジョージさんに挨拶しようと呼び出してもらったところ、フロントスタッフからは「今日は経済関係の会議で、夜の9時くらいまで戻らない」と言われた。オーナーのジョージさんは元パラオの国務大臣で地元の名士であり、日本へも公務で来たことがあるとの話を聞いた。

時間はまだ夕方5時だったので、持参した3.5/7MHzのデュアルバンド対応ワイヤーダイポールの設置、ならびにホテル内にあるジョージさんの無線室の、14/21/28MHz用、18/24MHz用、50MHz用の3本のアンテナ端末から、中継用同軸ケーブルで自分たちの部屋まで引き込む作業に取りかかった。ちなみに、スーツケースが重くなったのは、中継用に100m分の同軸ケーブルを持ってきたことも要因のひとつであった。

ホテルの従業員ボンさんに、ジョージさんの無線室の鍵を開けてもらうことと、屋上に設置する3.5/7MHz用ワイヤーダイポールの手伝いもお願いしたところ快く引き受けてくれた。VIPホテルの屋上には、ジョージさんのアンテナ用ルーフタワーが3基設置されており、その他にも日本のグループが設置しているルーフタワーが2基、それに給水塔が3基あった。

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ワイヤーアンテナ設置中。中央はボンさん。

[ワイヤーアンテナ設置]

また屋上のルーフ面には30〜80cm長くらいの鉄筋が無数に頭を出していた。この鉄筋や給水塔には、上記のルーフタワーを固定するステーワイヤーが蜘蛛の巣状態で張られており、明るい昼間でも足を引っ掛けて転倒する危険性があるので注意を要した。ましてや、夜間の作業になると、もし頭を出している鉄筋の上にでも転倒すれば怪我では済まないことにもなりかねず、懐中電灯頼りの夜間の作業は危険と感じた。

海老原さんらは、事前に了解を得ておいた、JM1LJS海さんがVIPホテルに置いていったフジインダストリー製の伸縮マストを借りて3.5/7MHz用ワイヤーダイポールを設置した。このアンテナは出発前に自宅近くの公園で一応の調整はしておいたものの、設置場所の条件の違いで少し同調周波数が下にずれていたが、問題なく調整できた。これで、今回運用を予定している全てのアンテナの設置が完了した。

今回のパラオからの運用では、事前の交渉によって、T88GNジョージさんが所有する常設アンテナを借りられる事になっていたため、各自のリグと、ワイヤーアンテナを1本だけ持参するだけで済んだ。リグは、小川さん、海老原さんそれぞれが、小型HF機であるアイコムのIC-706MK2を持参し、海老原さんはそれに500Wのリニアアンプを追加で持っていった。2局が同時に運用しても影響はなかったという。

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T88JJを運用中の海老原さん。トランシーバーはIC-706MK2。

[パラオでの食事]

海老原さんらが宿泊したVIPホテルには、食事ができるレストランが併設されていなかったため、毎回、外食するか自炊するかの選択となった。徒歩で5分程度のところにWCTCという大型のスーパーマーケットがあったため、朝食や昼食には、このスーパーでカップラーメンやパンを買ってきて済ませたという。このスーパーでは食品の他にも、酒やビールなどのアルコール類、飲料水、日用雑貨、衣類など、たいがいの日常生活用品は揃っていた。

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WCTCショッピングセンター。

夕食は、外食とすることが多かったが、VIPホテルはパラオの中心部にあるため、歩いて行ける範囲内に、何件かのレストランや日本で言うところの居酒屋があった。海老原さんは「ひょうたん」と「どらごん亭」がおいしかったと話す。さらに、すぐ近所にあるアウトリガーホテルのレストランでも食事をした。また、車で15分くらい走れば、パラオで一番の高級ホテル「パラオパシフィックリゾート(通称PPR)」があり、ここでは、海岸に面した屋外で、素晴らしい海岸の風景を眺めながら夕食を摂ることができたと海老原さんは話す。

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ひょうたんで食事中のジョージさんと海老原さん。

[島内の交通機関]

パラオには鉄道やバスなどの公共交通機関がなく、島内の移動は基本的にタクシーを利用することになる。しかし、タクシー料金が安くないことと、さらに流しのタクシーを拾うことはまず不可能なため、近くのホテルから呼んでもらう必要がある。海老原さんらは一度VIPホテルからパラオ国際空港内にあるテレコムまで、片道約7kmのところを往復で利用したところ、料金が40米ドルだったという。パラオの通貨は米ドル(以下ドル)である。

そのため、海老原さんらはレンタカーを3日間借りた。1500ccクラスの日本車であれば1日50ドル、それに保険の10ドルを加えて、60ドルで借りられるという。レンタカーはホテルのフロントに頼んでおけば指定の日時にホテルまで持ってきてくれる。ただし、現地の人の運転のマナーはあまり良いと言えないので、「注意して運転する必要がありますよ」と海老原さんはアドバイスする。

[パラオの無線局免許]

パラオの無線局免許は、当時パラオ国際空港の建物2階にあったテレコム(正式名称はDivision of Transportation & Communication Bureau of Commerce)で扱っていた。海老原さんが申請した頃、パラオではまだアマチュア無線の免許申請に関してきちっとした制度が確立されておらず、業務無線用の申請書を流用した申請だった。また免許申請料は無料だったという。

海老原さんは、海さん経由ですでに日本を出発する前から免許を受領していたが、友人から免許申請を頼まれたので、上記のテレコムを訪問して申請を代行した。その友人は、郵送で2度も免許申請書を送ったが音沙汰がなかったため、パラオを訪問する海老原さんに申請を託したのだった。海老原さんがテレコムを訪問すると、郵送での免許申請書が山積みになっており、結局のところ、テレコムを訪問しないとスムーズに免許の発行がなされないようだった。

ただし、訪問して申請だけ行っておき、その際に十分な郵送料を支払っておけば、免許発行後に日本まで郵送してくれる事が分かった。この時申請した友人にも約2週間後に免許が郵送されてきたという。参考までに、パラオのテレコムは2011年現在、パラオ国際空港から別の場所に移転し、さらに免許申請料も10ドルの有料になったと聞いている。

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2011年現在、テレコムはこちらのビルに移転している。

[運用結果]

10MHzを除く、3.5〜50MHzの8バンドで、5日間運用した結果は、T88MM(JA3AJ)が1,205QSO、T88JJ(JA3ART)が2,567QSOで合計3,772QSOだった。

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