[3回目のパラオ]

2回目のパラオからさらに約半年後、海老原さんは再度パラオから運用する。きっかけは、2回目の渡航時に免許申請を頼まれ、T88FXのコールサインを取得していたJR3KFX高木さんから、「ぜひパラオからの運用に付き合ってほしい」との要望があったからだった。高木さんには、SSBやCWなどの通常のモードには興味が無く、PSK31とSSTVモードを運用したいという希望があった。これらはパラオからあまり運用されてないモードなので海老原さんも興味を持ち、すべての段取りを引き受けることにした。

ホテルについては、レンタルシャックが設置され、使い慣れたVIPホテルを利用することし、航空券の手配は今回もpia-japanに依頼した。しかし今回は、前2回で利用した関西空港発着のJAL臨時便の運行予定がなかったため、代わりに名古屋空港発着のJAL臨時便を利用することにし、2000年10月6日20:45名古屋空港出発、10月10日08:20名古屋空港帰着のフライトを確保した。残念ながら今回も深夜便しか選択の余地がなかった。

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VIPホテル屋上のアンテナ群。

海老原さんの京都の自宅からは、関西空港まで行くのと名古屋空港まで行くのでは、新幹線を使うことで時間的に大差がなく、交通費が若干高くなる程度で、名古屋発着でも大きな支障はなかった。当日は、京都駅で高木さんと待ち合わせ、新幹線で名古屋に向かった。

[チェックイン時のトラブル]

今回は名古屋空港でのチェックイン時にトラブルが発生した。チェックインカウンターで預ける荷物の重量は50kgを超えていたが、これまで2回利用したJAL臨時便では大目に見てくれ、超過料金を請求されることはなかった。しかし、名古屋空港では、カウンターの重量計が55kgを示しており、35kgの重量超過とされ、超過料金3万円を請求されてしまった。

海老原さんは、「いままで、関西空港では毎回同じ重量を預けたが、超過料金請求どころか、一度も注意すら受けてない。確かに重量超過であることは認めるが、同じJAL便なのに、関西空港では搭載してくれていたので、一貫性がないではないか。もし、これまでに関西空港で注意でも受けていれば、今回は荷物をセーブした」と、カウンター内のスタッフと掛け合った。

最終的に、責任者が出てきて「今回は、超過料金なしでお運びいたします。ただし、免責条項の契約書にサインしてください」と言われ、「スーツケース破損、内容物に破損があっても損害賠償請求はしません」と書かれた書類にサインして一件落着した。海老原さんのスーツケースには「HEAVY」と書かれた大きなタグが取り付けられたが、3万円の支払いはせずに済んだ。ちなみに高木さんの荷物はすんなり預かってくれたという。

搭乗機は定刻通りに駐機場を離れ、タキシングで滑走路に出たが、一向に飛び立つ気配がない。少しおいて「燃料ポンプにトラブルがあり交換します」との機内アナウンスが流れ、格納庫にまで引き返して、乗客を乗せたままその場で修理をおこなった。結局2時間遅れで離陸したが、修理直後の出発だったため、海老原さんは少々不安を感じたという。

[50MHzのビッグオープン]

T88KF(JR3KFX)高木さんは予定どおりPSK31とSSTVを運用し、両モードで約100QSOをログインできた。今回も移動手段としてレンタカーを借りており、コンディションがパッとしない時間帯には、高木さんはレンタカーを運転して島内観光を楽しんでいた。しかし右側通行に慣れてないため、「ホテルニッコーパラオでコーヒーを飲んだ帰路で、枝道からメインストリートに出る際、反対車線に入り込んでしまった。怖かったです」と話していたという。

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海老原さんらが借りたレンタカー。

海老原さんは、通常モードであるCWとSSBを運用したが、今回は50MHzがJAに対してビッグオープンした。過去2回とも50MHzでもQSOはできていたが、数十局程度に留まっていたのに対し、今回は、700局を超える局をログインできた。また、過去2回の様に、オープンする地域が6エリアから始まってからだんだん東へ移っていくのではなく、最初から北海道から沖縄まで、JAの全エリアの信号が同時に59プラスで聞こえて来たという。

デジタルモードを運用していた高木さんは、「コンディションが良くない、信号が弱い」とこぼしていたが、SSBとCWでは、適当に全バンドが開いているし、28MHzや24MHzが良い様に感じたため、ひょっとしてと思い、運用2日目の10月7日15:25、50.115MHz/CWでCQを出したところ、いきなりS9プラスの信号でJA3EGEからコールがあった。これが今回の50MHzでの1stQSOとなり、その後はすさまじいパイルアップとなった。16:33まで呼ばれ続け、約1時間の運用で93局とQSOできた。

さらに翌8日も、28MHzが良く開いていたので、13:44に50.115MHz/CWでCQを出したところ、JH8NBJを皮切りに10局とQSOできた。前日は「PSE SSB」と打ってくる局が多くあったが、それらを無視してCWしか運用しなかった。この日も「PSE SSB」を打ってくる局が少なくなく、あまり無視もできないため50.220MHz/SSBにQSYした。するとCWでは想像もできないくらいのパイルアップが始まった。

[テールレター指定で捌く]

CWなら呼ぶ側の送信周波数が適当に散らばるため、パイルアップでのピックアップはさほど難しくなかったが、SSBでは「わ〜ん」となってしまいフルコピーが不可能。1文字でも取れた文字を指定してパイルを小さくして捌いた。それでも、かぶせて呼ぶ局があって効率が上がらないため、スプリット運用に切り替えた。これによってペースが上がり1分間に3〜5局でQSOが進んでいった。

50MHzの場合、地域的なオープンやコンディションの急変があるため、エリア指定はあえて行わなかった。かわりにテールレターを指定し、1文字1局でAからZまでを何度も回した。海老原さんにも余裕がでてきた。結局この日は16:11までの3時間で356局をログインした。「日曜日のお昼という絶好の条件の時にコンディションがオープンしたためですが、これくらいやると本当に声が枯れました」と話す。

滞在4日目の最終日も24MHzがワールドワイドにオープンしていたので、14:55に50MHz/CWでCQを出し、この日はCWのみ約2時間で147局をログインした。この日の夜に機材の撤収を行ったが、帰国便が翌日04:00出発で、送迎車が01:30に迎えに来てくれることになっていた。中途半端に寝て寝過ごしてもいけないので、最後は、ホテルオーナーのT88GNジョージさんのシャックから再度50MHzを運用させてもらった。

[深夜でもオープン]

時間は深夜の23:00というのに、コンディションはJAにオープンしており、またまたパイルアップになった。ただし時間が制限されていたため、最初からSSBで運用し、出発準備ぎりぎりの00:10までの約1時間の運用で125局をログインできたという。「50MHzでは712QSOという結果を残せましたが、ビーコンを出して50MHzの集中運用を行ったなら、もっとQSO数が伸びた可能性があります」と海老原さんは話す。

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ジョージさんのシャックにて。

「3回目のパラオからの運用で、一番活躍してくれたのは、その年のデイトンハムベンションで買ってきたヘイル社のヘッドセットとフットスイッチでした。ログを書きながら、スプリット運用でダイアルを回す場合、どうしても同時に両手を使うことになりますが、ヘッドセットとフットスイッチがあれば完全に両手がフリーになり、手際のよい効率的なオペレーションが可能となったからです」と海老原さんは説明する。

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