[ムルへのアクセス]

コタキナバルからムルへのアクセスは、ビジョンエアーという航空会社が運行するドイツのドルニエ社製の19人乗り高翼双発ターボロップ機に乗って約1時間の距離だった。この飛行機の操縦席と客席との間にはドアなどがなく、カーテンのみで仕切られていたため、離陸前の時間に海老原さんはパイロットと少し話をすることができた。海老原さんは飛行機にも興味があり、航空雑誌などを読んでいたので、専門用語を使っての会話が成立したという。機長は40歳前後、副操縦士は20歳代で、2人ともカメラを向けたら親指を立てて応えてくれる気さくな米国人だった。

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ビジョンエアーの機長。

機体番号が「N」から始まっていたので、おそらく米国での登録機であろうと思い尋ねてみたところ、パイロットからは「6ヶ月前まで、グランドキャニオンやラスベガスの観光飛行をやっていたんだ」との答えが返ってきた。そんなこともあって、機体のカラーリングは白と赤のツートーンで垢抜けており、さらに機内もきれいだった。この飛行機はコタキナバルとムルの間を1日に数往復しているが、海老原さんらが搭乗した際の同乗者は米国人夫妻2名だけで、合計9名の乗客でのフライトだった。一方、帰路では、中学生くらいの男の子が5人搭乗したが、往路、復路とも満席という状況では無かった。

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9M8ARTのQSLカード。ムル空港での海老原さん。

[ビジョンエアー]

搭乗に際しての搭乗券は存在せず、チェックインが済んだ段階で胸に「Vision Air」と印刷されたワッペンを貼ってくれるだけだった。座席指定もなく、適当なシートに座る事になった。事前に読んだガイドブックは「小型機なので荷物の重量制限が厳しい」と書かれていたため、30kg程度あるスーツケースが心配だったが、幸いにも満席でなかったため問題は生じなかった。

当初海老原さんらは、このビジョンエアーという会社は、コタキナバル空港の敷地内にあると思っていたが、実際にはコタキナバル空港の外周をぐるっと半周した反対側に独立した飛行場があり、そこにビジョンエアーの小さな事務所と待合室があった。そのため、コタキナバル空港のターミナルビルからツアー会社の車で送ってもらったが、車でも15分くらいかかり、簡単に歩いていける距離ではなかった。

海老原さんらがビジョンエアーの事務所に到着しても人影が無く、さらに航空券も手元にないため、「本当にここで間違いないのかな」などと皆で話をしていたところ、事務所の2階から草履を履いた係員の女性が降りてきて、やっと間違いがないことが確認できた。やがてチェックインの時間になると4〜5人のスタッフが現れ荷物検査や重量チェックが始まった。しかし、X線検査機が故障で使えなかったため、全員のスーツケースを開けての目視検査になった。

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X線検査機が故障しており目視検査を受ける。

さらに、計量台まで故障して使えなかったため、荷物の計量は、かつて銭湯などによく置いてあったカンカンと呼ばれる秤に載せて計量された。さらに小型機であるが故、搭載物の総重量の確認が必要となり、搭乗者の体重まで計量され1人ずつカンカンに乗った。また、サバ州からサラワク州への移動になるので、チェックイン時にパスポートのチェックを受けた。

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手荷物も体重もこれで計量された。

[ムルに到着]

搭乗機は定刻に離陸し、海に面しているコタキナバルからボルネオ島内陸部のムルに向かって飛行すると、ジャングルの間を蛇行して流れる褐色に濁った川や、ジャングルの中に点在する小集落などを、500mくらいの高度から見ることができ、1時間のフライトを視覚的に楽しむことができた。また、ムル空港に着陸する15分くらい前から山肌スレスレかつジグザグの飛行が続き、目の前に崖が迫り一瞬ハッとすることが何度かあるなど、スリルのあるフライトとなった。思わず声を出してしまうメンバーもいたという。

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上空からみた蛇行するボルネオ島の川。

そしてムル空港が見えた時には「わあ〜、こんな短い滑走路で大丈夫かいな、という声が聞こえてきました」と海老原さんは話す。ムル空港は、ちょうど滑走路を300m延長する拡張工事の最中だった。当時の滑走路では、大口の団体客に対応できる航空機の離発着ができないため、世界遺産に指定されたのを機会に、この地域の観光産業を活性化させ地域発展の政策を進行させる一貫として拡張工事を始めたと聞いた。

[ムルについて]

ムルは、ボルネオ島北部の東マレーシア・サラワク州にある人口約1,200人の小さな村でまだまだ未開発の部分が多くある。一般住民の住居は、交通の要となる川沿いに建てられた高床式のものが中心で、電気、水道、ガスなどのライフラインは供給されておらず、富裕層だけが自家発電で電気を得ている。そのためTV、冷蔵庫、洗濯機などの電化製品はほとんど普及しておらず。TVも衛星経由で、当時は映画専門チャンネルの1局のみしか受信できない状況だったという。

ムル空港に着陸し、到着ロビーに向かうと、ホテルからの迎えのスタッフが2名待っていてくれ、送迎車両に5分程度乗車して、宿泊予定のロイヤルムルリゾートに到着した。このホテルはムルで唯一の、スイミングプールのある高級宿泊施設だった。他にも何ヶ所かの宿泊施設はあったが、レストハウスやユースホステルといった簡易的な宿泊施設だった。

ホテルのロビーでは、同じサラワク州のミリにあるホテル・リーガロイヤルの支配人で、一昨年の滞在中に世話になった岡さんが出迎えてくれたため、海老原さんは驚いた。このロイヤルムルリゾートはリーガロイヤル系列のホテルで、海老原さんらがこのホテルに泊まると聞き、海老原さんらの滞在日程に合わせて、岡さんはわざわざミリから飛行機で飛んできてくれたとのことだった。

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ジャングルの中にあるロイヤルムルリゾート。

さらに岡さんは、翌日からのジャングルトレッキングや洞窟散策のガイドとして、ガイド歴30年のアレックスさんを紹介してくれた。ムルでは、政府公認ガイドの資格を持つガイドが同行しないと国立公園内には入れないことになっているため、翌日からの観光にはアレックスさんが同行してくれた。

[ロイヤルムルリゾート]

ロイヤルムルリゾートの客室は、周りの自然環境と調和した高床式コテージ風の造りで、内部は清潔で広々としており、滞在中快適に過ごすことができた。また客室と客室とは地上高5m程度の桟橋でつながっていた。前々年までは全88室だったのが、前年140室に増築したと聞いた。海老原さんらが宿泊した部屋から、フロント、レストラン、売店、プールやカラオケホールなどがあるホテル中枢部へは100m以上離れており、移動用に自転車が常備されていた。

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ロイヤルムルリゾートの桟橋でのスナップ。

客室の周りはジャングルの大樹に覆われており、それらには幾つもの巣箱が掛けられ、朝は鳥やサルたちの鳴き声で目が覚めるなど、「本当に心和む環境が醸し出されていました」と海老原さんは話す。朝食は一般的なバイキング方式で、品数はやや少なめだったが、各種のフルーツジュースやコーヒーは自家製で自家焙煎のものが使われており、おいしかった。

夕食は肉料理やカレー料理などマレー料理が中心だった。11月13日のムル最後の夜は特別に寄せ鍋風の料理を注文したが、この料理は海老原さん達の好みに合っていて、食材を追加オーダーするほどおいしかった。アルコール類は、禁酒国である隣国ブルネイとは違い、ビール、ワインなどが各種用意されていた。もちろん、日本酒や日本製のビールはなかったので、海老原さんは地ビールを注文した。