[アンテナ設営]

ムルに到着した11日は観光などの予定を入れず、アンテナの設営を行った。海老原さんらは、JA3UB/JR3MVF三好さん夫妻を除いて1人1部屋で予約しており、その内の1部屋をシャックにする予定にしていたが、アンテナ設営や同軸ケーブルの引き込みに好都合な一番端の部屋が空いていることが判った。すぐに1部屋分の料金を支払ってその部屋を確保し、無線専用の部屋として深夜や早朝でも誰に気兼ねすることなく、24時間いつでも運用ができるようにした。運用終了後に自室に戻らず、その部屋のダブルベッドで寝込んでしまうメンバーもいた。

アンテナを設置するにあたり、周囲のロケーションやアンテナ設営の条件などを確認したところ、困ったことにアンテナを支える適当な支持物や構造物が全く無かった。ホテルはビルではなく平屋建てのコテージだったため屋上もなかった。そのためホテルのスタッフに、支柱にするための竹の調達を依頼したものの、急なことで用意ができず、代わりに用意してくれた枝状の短い木を3本つないだが、結局5m長くらいにしかならなかった。

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全員で手分けしてアンテナを設営。

そのため、側にあった大樹に、ホテルのスタッフに10mくらい登ってもらい、そこに滑車を付けてもらった。3.5/7/21MHz用3バンドダイポールアンテナの片端や、10/14MHz用ツエップアンテナの給電点は、その滑車に通したロープで引き上げた。アンテナの調整は、海老原さんが持参したMFJ社のアンテナアナライザーで簡単に終了し、いよいよ運用準備が整った。

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枝状の短い木を3本つないでを支柱にした3バンドダイポール。

[運用開始]

ホテルの周囲が大樹に囲まれていることや、近くに岩肌むき出しの山が迫っていることなどから、無線をやるためのロケーションが悪いことは認識していたので、実際に電波を出してQSOするまでは不安だったというが、CQを出すとそこそこのペースで呼ばれ始めた。「こんな悪いロケーションからの電波を、皆さんよく拾ってくれるものだと驚きました。本当に信号は弱かったと思っています」、と海老原さんは話す。

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9M8ARTを運用中の海老原さん。

リグは100W機と5W機の2台を使用し、アンテナは、前述の3.5/7/21MHz用3バンドダイポールアンテナ、10/14MHz用2バンドツエップアンテナ、それに18/24MHz用2バンドダイポールアンテナの3本を使い分け、2台同時運用ができるようにセッティングを行った。

[洞窟探検]

ムル滞在第2日目の12日は、往復8kmの熱帯雨林のトレッキングと洞窟探検、コウモリの観察の予定が組まれており、朝9時にホテルのゲート前に集合した。まずは、前日にガイドのアレックスさんから各自に渡されていた「MULU」のロゴマーク入りデイパックに詰め込んだ懐中電灯、レインコート、弁当、おやつ、カメラ、タオルや虫除けスプレーなどに忘れ物がないかを再度点検し、ホテルの車に乗り込んだ。

10分程の走った距離にあるグヌン・ムル国立公園事務所に到着すると、メンバー全員が入園記録簿に名前を記入し、その後、カメラ持ち込み税としてビデオカメラは10リンギッド(当時のレートで約300円)、スチルカメラは5リンギッド(同150円)を支払った。そしてアレックスさんの先導で、いよいよ国立公園に入園し、約300万羽のコウモリが集団で洞窟から飛び立つ姿を観察できるディアケイブという洞窟に徒歩で向かった。

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アレックスさん(右)のアドバイスを受けて、入園記録簿に名前を記入中の三好さん。

国立公園内のジャングルの主要観光部分には、トレッキング用の桟橋が架設されており、藪こぎをしなくとも、その桟橋を歩いていくつかの洞窟まで行けるようになっている。ただ、桟橋とは言っても雨や霧でいつも濡れている上、コケが表面を覆ってヌルヌル状態のため、スリップして転倒しないよう注意深く歩く必要があった。

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トレッキング用の桟橋。

足の速いJH3GAH後藤さん、JA4HCK馬場さんと海老原さんの3人は、普通に歩くと他のメンバーとどんどん離れてしまうため、分岐点など要所要所で立ち止まり、足の遅いメンバーに歩調を合わせているアレックスさんたちを待った。海老原さんは本格的な密林を歩くのは初めての経験だったが、すぐ傍で鳴く野鳥やサルなどを眺めながら、突然現れる蛇に驚いたり、清流に泳ぐ熱帯魚を観察したり、時には休憩したりと、片道4kmのコースを楽しく歩くことができた。

[ディアケイブ]

ディアケイブにある鍾乳洞は日本国内のものとは桁違いの規模で、大きなビルがすっぽりと収まるくらいの空間になっていたり、水量の豊富な川が流れていてボートが浮かべられていたり、天井が吹き抜けになっていて青空が眺められたり、さらには陽が当たらないのに植物が育ち昆虫類が生息していたりして、その迫力に圧倒された。奇岩や様々な形状の鍾乳石を鑑賞したりしているうちに、あっという間に数時間が経過した。

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洞窟内にて。全員が背負っているのはホテルから支給されたデイバッグ。

洞窟内には散策道が整備されていたが、コウモリの糞でヌルヌル状態になっていて、海老原さんを含めグループ内の何人かが転倒してしまった。特に海老原さんの場合は転倒の際、岩肌で右手首に擦過傷ができ、すぐに持参していた消毒スプレーを吹き付けておいたが、コウモリの糞の雑菌で感染し、ホテルに帰った頃から化膿が始まってしまった。さらに運悪く、CWのパドルを握るとその患部がちょうどテーブルの縁にあたり、キーイングに苦労をしたという。

海老原さんは帰国してからJA3ASU狭山医師の治療を受けたが、化膿部分を切開し人口皮膚を貼り付け、粉末状の抗生物質を振りかけるというたいそうな事となり、「完治するまでに4週間もかかってしまいました」と話す。また転倒した際に、肩に掛けていたデジタルカメラのレンズ部分が破損したため、帰国してから修理に出したところ14,000円の修理代がかかった。幸いにもこれは海外旅行保険で補填することができたという。

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アレックスさんから鍾乳石の説明を受ける。

[帰路]

コウモリが洞窟を飛び立つのは夕方になるため、洞窟を出た所にある休憩所で時間待ちをしたが、あいにくのスコールになり、さらに陽もかなり落ちて薄暗くなってきたため、アレックスさんから「残念ながら今日の観察は無理」という判断が下され、来た道を引き返した。往路と同様、人によって歩く速度が違うためにメンバーがバラバラになり、分岐点毎に、足の遅い人に合わせているアレックスさんを待ち、行先を確かめてから進むということになった。

暗くなったジャングルの中、桟橋になったトレッキングコースとは言っても、雨具を着けているため全身が汗でびっしょりになり、さらにスニーカーの中は雨水で水浸しという悪コンディションで、往路とは正反対のハードな復路になった。案内標識にはどこどこまで20kmとか40kmなどと表示されており、もし分岐点で行き先を間違うととんでもないところに行ってしまう事になり、海老原さん自身、「公園事務所の灯りが見えたとき、ホッとした気持ちになりました」と話す。

この日ホテルへ戻ったのは夜の7時を過ぎていた。メンバー全員疲れていたが、夕食を摂った後、皆が無線室に集まってきて深夜まで運用し、運用を行っていないメンバーはラグチューに花が咲いた。