[4回目のスリランカ]

2004年9月、海老原さんらは4年連続でスリランカを訪問することになった。きっかけは、過去3回の訪問では、観光をしながらの運用であったため、ホテル到着と同時に無線局のセットアップとアンテナの設置を行い、翌朝には撤収というような忙しい運用形態もあって、なかなか一ヶ所で落ち着いた運用が行えなかった。そのため、QSO成果ももう一つ上がらなかった。そんな中、観光より無線がやりたいメンバーの一部からは「無線運用だけでスリランカへ行ってみたい」という声が出始めた。

それに応えるため、この4回目は無線組と観光組の行動を完全に二分し、海老原さんら無線組の6人(JR3QHQ田中さん、JA3UJR中浴さん、JQ3DUE池田さん、JA3AVO中出さん、JH3IJY武市さん、海老原さん)は、スリランカ滞在中、観光は行わずに無線運用だけをする計画を立てた。訪問日程は9月17日〜25日と決まり、そのうち18日〜24日の7日間、無線組はニゴンボのブルーオーシャンビーチホテルに滞在して無線運用に集中することにした。

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ブルーオーシャンビーチホテルとアンテナ。

この4回目もスリランカ訪問団は総勢32人の大所帯となったが、無線組6人以外の26人は観光組だった。ただし、観光組の方にも100Wトランシーバー1台、アンテナチューナー1台、ワイヤーダイポール1本を持たせ、機会があればオンエアできるように配慮を行った。4回目に使った機材は、スリランカ預けの分と合わせて、トランシーバー8台、電源8台、リニアアンプ2台、アンテナ9基となり本格運用に際して十分な量が揃った。

[出発]

今回の渡航にはシンガポール航空を利用した。9月17日12時に関西空港を離陸し、シンガポールで乗り換えた後、18日0時15分にコロンボ国際空港に到着したが、過去3回とはかなり様子が違っていた。日本人が大変多く、各入国審査ブースに長蛇の列ができていた。どうやら日本国内の大手旅行会社が主催するスリランカツアーの団体客が同じ便で到着した様子だった。その中には大きなサーフボードを持った若者の姿も見受けられた。その頃、新聞の広告などで、大手旅行会社がスリランカツアーの客を募集しているのをよく見かけるようになっていたことを海老原さんは思い出した。

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シンガポール空港でのトランジット。

入国審査で時間がかかったため、機内預けの荷物はすでにターンテーブルから出てきていた。それらを回収しすぐに税関に向かったが、無線機類をはじめ、心配していた長尺物のアンテナなども今回は全てフリーパスで通関できた。「あれは、おそらく後ろに長蛇の列があったからかだと思います。ラッキーでした」と海老原さんは話す。通関後はホテルからの迎えのバスに乗り込み、空港から約20km離れたニゴンボにあるブルーオーシャンビーチホテルに直行した。

ホテルでの部屋割りは、海老原さんとJA3AVO中出さんが相部屋であったが、部屋に入ったところ、ホテル側の手違いで、部屋にはキングサイズのベッドが1台あるだけだった。この時は早朝4時だったこともあり、仕方がないので中出さんとベッドをシェアして3時間ほどの仮眠を取った。そして朝になるとすぐにフロントにクレームを入れて、2台の標準ベッドを入れてもらった。

[アンテナ設置]

朝食後はさっそくアンテナ設置のための下見を行い、またどこの部屋をシャックにするかなどを田中さんと一緒に検討した。まずアンテナの設置に関して、ホテルの各棟から約50mが芝生や南洋樹のガーデンになっており、そこには高い建物がなくアンテナを設置するのに絶好のロケーションであることが分かった。

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18/24MHz用2エレメントHB9CVを設置中。

また、このブルーオーシャンビーチホテルは、どのゲストルームにもテレビが設置されていないことが分かった。ホテルのスタッフに話を聞くと、ここはヨーロッパからの長期滞在者が多いリゾートホテルなので、ゆっくりしてもらうために、わざとTVセットは置いてないとのことだった。これによって、テレビに対するインターフェアを心配する必要が無くなったのは好条件だった。

[シャック構築]

次にシャックに関して、無線組の6人に割り当てられていた3部屋は連続しており、仮にそれぞれの部屋にシャックを構築した場合、十分なアイソレーションが取れず、お互いに送信波が影響する可能性があるため、棟の端部屋と端部屋、もう一部屋はその中間に変更してもらえるようにフロントマネージャーと交渉することにした。今回の通訳を務めてくれたガイドのビーさんは観光組と一緒に早朝からコロンボの市内観光に出発してしまったので、日本人のみで英語で交渉に当たったが、相手はスリランカ独特の訛りがある英語だったため悪戦苦闘した。それでも最終的には、海老原さんらの要望が受け入れられ、希望した3部屋に変更してもらうことができた。

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ブルーオーシャンビーチホテルの客室。

まず、1階の南端部屋に第1シャックを構築することとし、IC-756とIC-PW1の組み合わせで1kW局を設置した。第1シャック用のアンテナとして、1.8MHz用バーチカル、3.5MHz用ダイポール、7MHz用ダイポール、21MHz用4エレメントフルサイズ八木を設置した。次に3階の北端部屋に第2シャックとしてIC-7400と500Wリニアアンプの組み合わせの局を設置した。このシャックはWARCバンド専用とし、10MHz用ダイポールと18/24MHz用2エレメントHB9CVを設置した。

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21MHz用4エレメントフルサイズ八木。アンテナの向う側にはインド洋。

最後に棟の中間の1階に第3シャックとしてIC-746単体の100W局を設置し、アンテナは、14MHz用2エレメントフルサイズHB9CVを設置した。第1シャックと第2シャックとの距離は100m以上取れたため、お互いにリニアアンプを使って運用しても、レギュラーバンドとWARCバンドでの同時運用に全く問題はなかった。

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第1シャックで運用中の海老原さん。

なお、今回はコンディションが悪そうだったこともあって、28MHzについては最初からアンテナの準備をしていなかったが、24MHzがワールドワイドにオープンし、交信相手の何局かからは28MHzの要望があった。そのためアンテナを持ってきていたならかなりの成果が期待できたと考えられ残念であった。

[1.8MHzバーチカル]

今回は初めて1.8MHz用のアンテナとして、タイタネックス社の V80Eという全長20mのバーチカルアンテナを準備した。このアンテナは色々なDXペディションで使用された実績がある移動運用のために開発されたアルミ製のバーチカルアンテナで、1.8MHz、3.5MHz、7MHzに出られる様になっている。これは、池田さんがこの年5月のデイトンハムベンション会場で購入し、デイトンからスリランカに直送したものだった。

しかし実際の設置では、必ず2段のステーを3方向に取る必要があり、そのため、他の宿泊客に迷惑になったり、ステーに足などを引っかけて転倒するような事故が起こったりすると大変なため、一旦は設置したものの、最悪のケースを考えてすぐに撤去した。このアンテナのために、ラジアル250mを準備し、1.8MHzでの運用に期待を持っていたが、今回は1.8MHzの運用を断念せざるを得なくなった。「撤収後の2日間は、インド洋からの強風に曝されたため、結果的にあきらめて正解だったと思います」と海老原さんは話す。

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一旦設置したV80E。

この4回目の訪スリランカでは、無線組と観光組を完全に分け、無線用の十分な機材を搬入するなど、無線に専念できる条件が整っており、また食事に関してはもっぱらホテルのレストランで摂ったため、ホテルから長時間外出することはほとんど無かった。そのため、無線組の6人は、3つのシャックの何処かにいることになり、必ずどこかのバンドで電波は出ていた。また、無線組は全員パイルアップを捌く技量を備えていたためQSOレートも高く、過去3回の運用に比べるとQSO数は格段にアップし、無線組6人で合計7300QSOを記録した。海老原さん自身も初めての4桁となる1278QSOを達成している。