[ロケーション]

翌朝は、前日の到着が深夜だったため睡眠不足ではあったが、アンテナ設営のために皆で早起きした。ホテルから見る朝焼けは素晴らしいもので、芝生を張りつめた広いガーデンの向こう側は100mくらいの高さの崖になっていて、眼下には原生林が広がりその向こう側には太平洋を臨むことができた。同時に、ポンペイ島を代表するソケースロックへの眺望が開け、昨晩降り立った飛行場の島も見えた。

360度、障害物になる様なものはなく、事前にJH8BKL河瀬さんから聞いていた通りの素晴らしロケーションだった。海老原さんらの滞在中、このホテルには数組の宿泊客しかなく、マネージャーから許可を得て、広い芝生のガーデンはアンテナ建設に全部使える事になった。

[アンテナ設営]

滞在第1日目の7月30日は、レストランで朝食を済ませてから、芝生のガーデンに出てアンテナ設営の打ち合わせを行い、各アンテナの設営場所を決めた。まず10/18/24MHz用ロータリーダイポール、14/21/28MHz用2エレメントHB9CV、50MHz用2エレメントHB9CVの3基を、芝生ガーデンの端の崖側に建てることにした。マストは河瀬さんがホテルの倉庫に保管していた物を借用した。

次に、1.8MHz用ダイポールを椰子の木を給電点にして旧館と新館の間に展開、3.5MHz用ダイポールは、1.8MHzとの干渉を避けるため、別の椰子の木を給電点として展開。7MHz用ダイポールは、椰子の木と旧館の間に展開することにした。設置場所を決めた後は手分けして順次設営して行った。途中、スコールなどで作業が中断した際には、屋内でシャックの構築を進めるなど時間を有効に使った。

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手分けしてアンテナ設置中。

ダイポールの給電点になる椰子の木には、ホテルの従業員に登ってもらって滑車を取り付けもらい、アンテナの設営や調整が楽にできる様にした。1.8MHz用ダイポールを設置後に、海老原さんが持参したアンテナアナライザーでSWRを測定したところ、メーターが振り切れて同調点が無かった。そのため、バランを外して同軸ケーブルに直接給電してみたり、エレメントの長さを調整するため近くのDIYショップに電線を買いに行ったりして予想外の時間を取られてしまった。

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椰子の木に滑車取付中のホテル従業員。

しかし、これは以前にサイパンで運用した際に経験したのと同じ状況だと気づいた。目の前に見えているソケースロックの岩山の上に何基もの業務用アンテナが見え、その内の1基がFM放送用のアンテナで、そこからの強力な電波が回り込んでアンテナアナライザーのメーターを振り切らせていると考えた。IC-706内蔵のSWRメーターで計ったところ正常な数値を示したため、多少面倒ではあったが、シャックとアンテナ設置場所間で430MHz帯のハンディトランシーバーを使って連絡を取り合いながら調整を行った。

[想定外の大トラブル]

上記のような事もあって予定より時間を要したが、3本のワイヤーダイポール、50MHz用2エレメントHB9CV、10/18/24MHz用ロータリーダイポールは無事に設置できた。最後に、今回のためにクラブで新規に購入した14/21/28用2エレメントHB9CVの設置を始めた。梱包を解き、完成したときの形になる様に、芝生の上にエレメントやブラケットなどのパーツを並べていった。ところが、いくら探してもブームのパイプが無かった。

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設置を終えたアンテナ群。

「このアンテナの梱包は誰がした」とか、「誰かブームを梱包した覚えがあるか」、「インシュレーターはエアークッションで包んだのは覚えているが」など、色々な会話が飛び交ったが、結局見つけられなかった。念入りに荷造りをしたにも関わらず、なんとブームパイプを入れるのを忘れていたのであった。ちなみにこのブームパイプは、帰国後の確認で、JA3OIN橋本さんの倉庫に残っていた。

[ブームパイプに角材を代用]

そのため皆で解決方法を検討した。要するにブームパイプを何かで代用すればよいので、角材を使って同じ様な構造物を作ることにした。直ぐにホテルのスタッフに頼んでホテルの送迎車を出してもらい、先ほどのDIYショップに材料の購入に出かけた。日本なら数百円で入手できる角材が、ポンペイでは日本円換算で約2000円もしたが、この島国では普通の木材は全て輸入品のため、高価とのことだった。

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角材のブームとエレメントは結束バンドで固定。

角材の他に、結束バンド、針金なども合わせて購入し、すぐに組み立てに取りかかった。このアンテナはHB9CVタイプであり、エレメントとエレメントを繋ぐ位相給電用のアルミパイプでエレメントの間隔が固定されるため、ブーム長は適当で構わなかった。強風でも吹かない限り1週間くらいは持つであろうと考え、ボルトナットの代わりに結束バンドと針金を使ってブームとエレメントを固定したが、滞在中は問題なく耐えてくれた。

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形になった14/21/28MHz用2エレメントHB9CV。遠景はソケースロック。

何とか夕方暗くなる頃にはHB9CVの形に組み上がった。「昔HFのキュビカルクワッドを作ったとき、JA3DY橋本さんから、アンテナはそれらしき形をしていれはそれなりの性能は出る、と教えられた事を思い出しました」、と海老原さんは話す。この日の計画では、午前中にアンテナの設置を終わらせて、午後から運用を開始する予定だったところ、これらのトラブルで半日、運用のスタートが遅れてしまった。

[インターネット]

一方、アンテナの設置中にホテルのマネージャーである菅沼さんから、無線LANの設定をしましょうと声がかかった。この島のネット環境は、FMSテレコムという会社がソケースロックに無線LAN用のアンテナを建てており、島内のユーザーにインターネット接続を有償提供していた。ただし料金が高く、1枚5米ドルのプリペイドカードを購入しても、1枚では数時間しか使用できなかった。

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インターネット接続のためのプリペイドカード。

しかも、OSがウインドウズVISTAのパソコンでないと接続できず、ウインドウズXPのパソコンはネット接続には使用できなかった。今回はV6 DX-Pedition専用のホームページを立ち上げて、オンラインログを提供したり、現地の写真を掲載したりした海老原さんらは、頻繁にインターネットにアクセスする必要があり、その他にも個人のメールチェックなどにもネット接続が必要なため、最終的に10枚くらいのプリペイドカードを購入したという。

[ホテルのレストラン]

ホテル内のレストランは独立した別棟にあり、宿泊客ではない近隣の住民なども利用している様子で、夕食時には子供連れの家族による食事風景が何度か見られた。メニューには、刺身定食、てんぷら定食、カツ丼、親子丼などの和食もあり、日本人のお客もよく来る様子だった。定食には味噌汁や漬物がついてきて違和感は無かった。さらに納豆や豆腐といったものもメニューにあった。量は結構多く、7〜8ドル程度で十分満腹になった。

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レストランで朝食中。

従業員に話を聞いたところ、以前はこのホテルで日本人の調理人が働いていたことがあるとのことで、この様なメニューがあるのかもしれないと思った。海老原さんが宿泊した当時は、現地の主婦たちが厨房を切り盛りしている様子で、注文してから料理が出てくるまで30分以上待たされることは珍しくなかった。なお朝食はバイキング形式ではなく、トーストと目玉焼きとコーヒーなどが定番となっており、全部単品で注文する必要があった。海老原さんらは全食事の半分くらいは自炊し、半分くらいはこのレストランを利用したという。