[移動運用車両]

ある日、以前にベトナムや東マレーシアに一緒に出かけたことのあるJA4HCK馬場さんから連絡があり、所有している移動運用車両を譲渡したいが購入してくれる人はいませんかという内容であった。この車両は、もともとNHK鳥取放送局が放送中継車として使用していたもので、それを馬場さんがNHKから譲り受けて所有していたものだった。

馬場さんは、自宅ビル内の駐車場で保管していたため、車体に錆はなくコンディション良好な車両だった。また、もともと放送中継車のため、回転可能な10m長の油圧式の伸縮マストや、5kVAの消音型発電機が搭載されており、車両のエンジンをかけずに無線運用が可能で、さらには冷暖房が効くなど、車両サイズを除いては、移動運用を行うには言うことのないものだった。馬場さんは、あまり移動運用にも出かけないしメンテナンスも大変なので、手放したいとの話だった。

海老原さんは、この話を京都クラブのメーリングリストに流したところ、さっそくJH3QNH山下さんから、「譲渡価格などの具体的な話を聞いてみたい。場合によっては京都クラブで買おうじゃないか」と反応があった。その旨を馬場さんに伝えたところ、価格は超格安の条件が提示され、さらに京都観光がてら京都まで持っていきますよと連絡があった。

これを受け、京都クラブで購入することも検討したが、クラブの所有とすると管理がおおざっぱになってしまって、車両が長持ちしないのではないかという懸念も出た。最終的には、4人でオーナー会を作り、オーナー会の所有物にすることに決まった。オーナー会は、山下さん、海老原さんに加え、自動車整備会社を経営しているJA3RCT久松さん、車両の保管場所を提供してくれるJA3OIN橋本さんの4名で結成された。

[車両を購入]

2001年6月、馬場さんが京都まで陸送してくれた車両を受け取った。さっそく愛称を決めることにしたが、以前に京都クラブで「ぽっぽちゃん」という愛称の移動用車両を持っていたこともあって、今回は「ぽっぽちゃん2」と決めた。同時に車両を維持管理するための規定を作った。基本的なところとしては燃料の満タン返しというルールである。また、京都クラブの行事とかJARL京都府支部での行事使用に供したときはその都度、一定の使用料を徴収することとした。

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ぽっぽちゃん2と海老原さん(左)。

これに対して、京都クラブからは財政がひっ迫しているため年間契約にして欲しい旨の申し出があり、利用回数制限なしの年間契約とした。オーナー会の4人の誰かが個人的に使う分にはもちろん使用料金は発生しないが、この4人が単独で車両を使うことはほとんど無い状況だという。実際に運用してみると、京都クラブには年間4〜5回、合計10日間程度の貸し出しとなっている。なおJARL京都支部に貸し出すことはほとんどないため、年間の収入は京都クラブから入ってくる数万円だけで、これだけでは維持費が全然足りず、車検の度に、任意保険料なども含めオーナーの4人が各々3〜4万円ずつを負担している状況になっている。

このように、車両が出動するのは京都クラブの行事の年間10日間程度で、その他にはほとんど使われていないこともあり、これまで車両を修理したのは、車載発電機のエンジンからのオイル漏れだけで、その他にはバッテリーを交換した程度。タイヤはまだ1度も変えていない状況という。

[装備品]

まず油圧式の自動伸縮マストは一杯まで伸ばすと地上高10mになる。強度的にはHFの3エレメントトライバンド八木アンテナ程度なら問題なく上げることができる。それ以上のアンテナを上げる際には、車両の左右に付いているアウトリガーを手動で引き出して車両の安定性を確保することができるようになっている。マストは車内から回転させることができるため、ローテーターは不要である。またマストトップには放送中継時のパラボラアンテナの制御に使う仰角可変のローテーターがついているが、アマチュア無線の運用では通常は不要なため、これは使っていない。

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2012年関西ハムフェスティバルの会場にて。

車内に装備されている発電機は富士重工製の5kVAの大容量で、周波数は50Hzにも60Hzにも調整可能な仕様になっている。さらに住宅地等での中継にも使えるように消音型のため、夏場はエアコンを始動して空調の効いた車内で快適な運用ができるという。一方、冬場はどうかというと、暖房のための灯油ヒーターが別に搭載されており、冬場でも快適に運用が行えるようになっている。海老原さんは初めてこの車両を見たとき「さすがにNHKやなあ」と思ったと話す。

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車内で運用中のJI6DUE野原さん。

このような装備品の関係で、燃料はディーゼルエンジン用の軽油、発電機のためのガソリン、ヒーターのための灯油と3種類が必要となっており面倒と言えば面倒だが、それを感じさせない利便性があるため、京都クラブで参加するコンテストや、JCCサービスなどで活躍している。

[コンテスト]

JARL本部主催のコンテストには、京都クラブがこの車両を使ってよく参加しており、2、3人が車内のシャックから運用し、それ以外のオペレーターは、電気だけを車載発電機からもらって、自分の車の車内で運用する。移動先に東屋などがあるときは、車両はアンテナタワーと発電機として使用し、東屋などに半固定シャックを構築して運用することもあるという。

海老原さんもちょくちょくコンテストの応援に出かけている。特に車載発電機の始動にコツがいるため、オーナー会のメンバーである海老原さんかJH3QNH山下さんに声がかかることが多い。もちろんオペレーターが不足した際は、海老原さん自らがパドルを手にして、電信の運用を行うこともある。

「この車両には、パワーステアリングがついていないこと、さらにターボなしのディーゼルエンジンで出足が悪いため、京都クラブの若いメンバーは運転したがりません」、「ただし、パワーがないと言っても、かなり急な坂でも低速トルクはあるので登坂は可能です」、と海老原さんは説明する。また、山の中の狭路での離合時などのために、「助手を乗せて走った方がベターです」と海老原さんは、付け加える。

[誤認される]

2004年、この車両に乗って京都府北部に誕生した京丹後市に新市の移動運用サービスに行った際、パトカーがやってきたことがあった。その頃はたまたまパナウェーブ研究所の集団がテレビなどを賑わしている時で、海老原さんらは白いテントを建てて運用していたからだった。警官は住民からの通報をうけてやってきたとのことで、「お宅らはパナウェーブの方ですか」という質問を受けたというが、アマチュア無線の運用であることを説明したところ、特に怪しむこともなく帰って行った。

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白いテントを建てて運用したため誤認された。京丹後市にて。