[1.9MHz]

海老原さんが1.9MHzにオンエアを始めたのは古く、当初はプラグインコイルを使って、1969年に小笠原返還記念局のJD1YABとファーストQSOを達成、その後1973年に1.9MHz帯が付いたトランシーバーを入手してから本格的な運用を始めた。このトランシーバーはDC電源にも対応していたため、海老原さんは、1.9MHzシングルバンドでの移動運用に熱中するようになる。

さらに自宅には38m長の逆L型アンテナを設置し、自らもJCCハンティングに励んでいた。1974年5月には、クラブの仲間と蔵王までドライブに行った際、東北自動車道にて、日本で初めて走行中の車内から1.9MHzでオンエアを行った。この時の様子は、連載第7回をご覧いただきたい。

[WACAを目指す]

海老原さんの1.9MHzの運用は1974〜75年がピークで、その後はもっぱらDXCCのカントリー稼ぎに熱を入れたため下火にはなっていったが、1.9MHzの運用を止めはせず、JCCのポイントも少しずつではあるが増えていった。1991年にアルバニアとのQSOで、現存全エンティティとのQSOを達成し、DXCC#1オナーロールメンバーとなってからは、再び1.9MHzに力を入れて、WACA(全市交信賞)の取得を目標に置いた。

DXCC#1オナーロールメンバーになったDXerの多くは、その後5バンドDXCCを目指したり、RTTYや160m、6mDXCCを目指したりするが、海老原さんは国内QSOに目を向け、昔からやっている1.9MHzでのWACAを目指すことにした。理由は、その時点で1.9MHz特記のWACAはまだ数人しか完成されていない超難関アワードで、やり甲斐があったからだ。

photo

海老原さんが受賞したWACAの盾。

[ラストは西之表市]

とはいうものの、この頃はまだ人に頼んでまでJCCのニューを増やすことはせず、もっぱら日々のワッチでポイントを増やしていった。2006年、未交信市が約80となった時点で、ウオンテッドリストを作成し、本格的にWACAを狙いだした。そのリストは、よく移動運用する友人局や、ホームページなどで移動運用関係の情報提供をしている局に配信して協力を依頼した。

これを行ってからは、未交信市が順調に減っていき、やがて1桁となり、ついには最後の1市となった。最後まで残ったのは種子島にある鹿児島県西之表市だった。しばらくして、この西之表市にJH3LBD筒井さんが50MHz主体で移動するという情報を得た海老原さんは、筒井さんに頼み、1.9MHzのダイポールアンテナを渡して現地からオンエアしてもらった。そして2008年8月9日、筒井さんのCQを捉えた海老原さんは、すかさずコールしてQSOが成立。1969年の初オンエア以来、約40年を要して、現存するすべての市(当時で784市)とのQSOを達成した。

西之表市の1.9MHzはかなり珍しく、筒井さんのオンエアで全市とのQSOを達成した局は海老原さん以外にもいたため、後は如何に早くQSLカードを入手し、アワード発行元のJARLに対して申請するかであった。海老原さんは用意周到で、すでにWACAの申請書を書き終えてあり、QSLカードさえ到着すればすぐに申請書をJARLに発送する準備ができていた。

[#7を取得]

筒井さんは種子島の現地から海老原さん宛にQSLカードを発送してくれ、それが8月14日に到着した。海老原さんは即日、JARLに向けて申請書を発送し、8月26日付けで、1.9MHzの特記番号7番のWACAを受賞した。海老原さんのJCC700の1.9MHzの特記番号は5番だったため、JCC700からWACAまでの過程で2局に抜かれたことになるが、10番以内の特記番号が取得できて満足しているという。なお、WACAの8番とはタッチの差だった。

photo

ラストワンとなったJH3LBD/6の手書きのQSLカード。

「未交信リストを作ってから2年半ほどかかったことになりますが、1.9MHzはアンテナが大型になるだけでなく伝搬的にも難しいし、さらに電信しか出られないので、移動サービスをしてくれる局が限られてしまい、DXCC#1オナーロールの達成と同じくらい難しいと思います」、「最後の方は、自力ワッチでは何ともならないので、多くの局に協力してもらって完成しました。特にJH7IPR高橋さんとJO2ASQ清水さんの両局に多くを助けて頂きました。そしてJA7KJR甲斐谷さんには多くの移動情報の提供を頂きました」と話す。

photo

海老原さんが受賞した1.9MHz特記番号7番のWACA。

JARLは、全市との交信を対象としたWACAの他に、全郡との交信を対象としたWAGAも発行している。海老原さんは、WAGAには興味がなかったが、最近になって少し意識しだし、チェックを始めたところだという。