[スズメ撃ち]

終戦直後、海老原さんがまだ北区の市街地に住んでいた子供の頃、近所に住んでいた大学生のお兄さんが空気銃を持っており、よくスズメ撃ちに連れて行ってもらった。その頃は、空気銃を裸で持ったままウロウロしていても、警察官には何も言われなかった。そして時々、空気銃でスズメを撃たせてもらったこともあった。空気銃には4.5mmの口径と5.5mmの口径のものがあり、弾は鉛製だった。この遊びで使っていたのは4.5mm口径の銃で、10〜15mの距離なら命中率も高くなり、スズメならこれで十分だった。

スズメ以外では、当時どこの町内にも必ずあった国旗掲揚用の旗竿の先端に付いていた「ぼんぼり」を狙って撃った。このぼんぼりは金属製だったため、当たると「カーン」という音が響いた。「当たった弾も外れた弾も何処かに飛んでいって落ちていたハズですが、銃の威力が小さいのであまり遠くまでも飛ばないし、さして影響なかったのでしょうね」と海老原さんは話す。現在では空気銃にも所持許可が必要で、日本ライフル協会に所属している大学の射撃部くらいにしか許可が下りないという。

1958年、海老原さんは、左京区岩倉にある現在の家に引っ越したが、周辺は当時まだまだ田畑に囲まれていた。その時も近所に住む、立命館大学の射撃部員だった親戚の一人が競技用空気銃を何丁か持っていたため、それを借りて稲刈りの終わった田んぼに集まるスズメを撃ちに行った。撃ったスズメは焼き鳥にして食した。「スズメは骨ごと食べられるんです」と海老原さんは説明する。しかし、しばらくすると銃砲の所持許可が厳しくなり、空気銃でのスズメ撃ちはできなくなってしまった。

[銃砲所持許可]

それから約20年が経過した1978年、海老原さんはすでに38歳になっていたが、近くで喫茶店を営む友人が、装薬銃(火薬を使った銃)で狩猟をやっていることを知り、その友人に銃砲店を紹介してもらって、銃砲所持許可の試験を受けに行くこととなる。海老原さんは、試験を問題なくパスし、散弾銃を入手できる資格を得た。当時の日本の銃砲店では米国の銃砲店とは違い、そんなに多くの銃を揃えている訳ではなく、価格や目的に合う気に入った銃を選択するのは難しく、結局カタログで選んで取り寄せてもらった。

同年11月、念願の散弾銃を入手し同時に狩猟免許も受ける。ちなみに、現在では、銃砲所持許可の試験には実技があり、射撃場に出向いて備え付けの銃でクレー射撃の教習を受け、実射を行うことになっている。射撃場ではインストラクターが丁寧に指導してくれるが、試験では25発撃って5発をクレーピジョン(クレー射撃の標的で素焼きの皿)に命中させること、そして銃の安全取扱いなどのチェックにも合格しないといけない。

[クレー射撃]

海老原さんは、狩猟もさることながら、どちらかと言えばクレー射撃をやりたかった。銃砲所持許可を得た後、銃を購入するに際して、その旨を銃砲店に相談したところ、クレー射撃にはスキートとトラップの2つの競技種目があるが、まずはスキートから始めることを勧められ、スキート用の上下2連銃を購入した。そのため、銃を所持した当初は、狩猟よりもスキート射撃にのめり込んでいった。

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クレー射撃を楽しむ海老原さん。

それでも、射撃用の散弾銃を購入後、せっかく購入したのでと、ヤマドリ撃ちに持っていったこともあった。しかし、競技用のその銃は、引き金が1kgの力で落ちる様に銃砲店で調整してもらったため、引き金が軽すぎて猟場で持ち歩くのは危険と判断し、その銃での実猟は止めた。その代わりにクレー射撃に専念することとなり、練習のためにかなりの頻度で射撃場に通った。盆、暮れには射撃場からお中元やお歳暮が届くほどだった。

当時、海老原さんが通っていた山科射撃場は、敷地内に竹藪を持っており、そこから切り出した竹を、よく南座に提供していた。歌舞伎公演では舞台に多くの竹を使うからだった。そんな関係もあって、歌舞伎俳優や映画俳優もよく射撃に来ていた。「萬屋錦之助さんや松方弘樹さんと競射をしたこともありますよ」と海老原さんは話す。

「クレー射撃をやると、ヤマドリとかキジ撃ちがものすごく上手くなります」、「ヤマドリは山深いところにいますが、犬に追われると、時速50〜60kmくらいのスピードで谷を下ってきます。まさにクレー射撃で練習するとおりの状況なのです。」「しかし、最近はヤマドリが少なくなり、また今年2011年からは絶滅危惧種に指定されて、捕獲禁止になりました」、「キジはいますが、田んぼの近くとかの里にいるので鉄砲で撃てません。そんなこともあって、鳥撃ちをやっていた人はだんだん大物(イノシシやシカ)猟に変わってきています」と話す。

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海老原さんが仕留めたヤマドリ。

[トラップ]

クレー射撃にはトラップとスキートの2つの競技種目があるが、クレーピジョン(以下クレー)の放出方向や角度が全く違うため、それぞれ専用の散弾銃を使用する。トラップは、射台の15m先から前方に飛び出すクレーを撃つ。1枚のクレーに対して2発撃つことができるが、1発目を外して2発目を撃つ場合はかなりの遠射(60mくらい)になるので、銃身の長い散弾銃が必要になる。また、遠射の可能性があるので散弾粒の大きい装弾を使うため反動も大きい。

トラップは1ラウンドで25枚のクレーを撃ち、撃ち落としたクレーの枚数が得点になる。1発目で撃ち落としても、2発目で撃ち落としても点数は同じで、全部撃ち落とした場合は25点満点である。クレー1枚に対して2発撃つ場合があるので、1ラウンドで最大50発撃つことになる。

トラップの競技場には射台が5つあり、6人で競技するため、1番射台から5番射台に1人ずつ入って1人は待機となる。1番射台に入った競技者から撃っていき、射台に入った5人全員が撃ち終えると、射台を1つ横に移動するが、待機競技者が1番射台に入り、1番射台に入っていた競技者が2番射台に移動、順番に移動して行き、5射台に入っていた競技者が待機となる。一回りを5回繰り返すことで、競技者全員が1番射台から5番射台で5回ずつ、合計25回(最大50発)撃ち、得点で順位を競う。

クレーは射台の前方15mの地表にあるクレー発射口から前方に放出されるが、射台毎に放出角度が変わる。ただし前方のみへの放出なので、銃の振り角度はスキートに比べて少ない。そのため、競技に入門しやすく、競技人口はスキートより圧倒的にトラップの方が多い。「トラップはとっつき易いですが、その反面変化が少ないので、私はスキートの方がおもしろいと思います」と海老原さんは話す。

トラップ射撃は普通7.5号の散弾を使うが、装弾1個に2.4mm径の鉛粒が410個ぐらい入っている。撃ち出した散弾は30m先で30cmぐらいに広がるが、近くで撃つと散弾の広がりが小さいので、正確に撃つ必要がある。一方スキート用の散弾は9号で、装弾1個に2.0mm径の鉛粒が675個ぐらい入っている。