[SSTV]

2003年に濱田さんはSSTVモードの運用を始めた。SSTVとはスロー・スキャン・テレビジョンのことで、1枚数秒から数分かけて静止画を送り合って交信するアマチュア無線の画像通信ではポピュラーなモードである。かつてはモノクロ画像だったが、現在ではカラー画像が主流となっている。SSBの送信機で画像が送れるため、占有周波数帯域幅は3kHz以下であり、SSTVはHF帯でも免許が下りる。またHF帯で運用できるため、海外との交信も盛んである。

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インドネシアのYC1SUMとQSO中の受信画像。

これに対して動画で交信するATV(アマチュア・テレビジョン)は、占有周波数帯域幅が数MHzに及ぶため、1200MHz帯以上でしか免許されず、そのためもっぱら近距離との通信になる。またパソコンと無線機だけでは運用できず、専用の装置(ATV装置)も必要になるため、設備が大がかりになる点が、SSTVと異なる。

[専門書がない]

濱田さんがSSTVを始めたきっかけは、「歳を取って喋るのが疲れるし、耳もよく聞こえなくなってきたので、喋らなくても聞かなくても、画像の交換によってQSOが楽しめるSSTVに興味を持ちました」と話す。しかし、濱田さんの回りでは、だれもSSTVを運用しておらず、アドバイザーがいなかった。そのため、参考になる書籍で勉強しようとしたが、出版社に専門書を注文しても、その書籍はすでに廃刊になっていますという返事だった。

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濱田さんが購入したアマチュア無線関連の専門書の一部。

さらに、SSTV以外でも、アマチュア無線の専門技術について解説した本は当時少なかった。濱田さんは若い頃から、「本を読め、本を読んだら何でも載っている」と先輩から言われ続けていたため、知識の習得は専門書に頼ってきたが、その専門書が少なかったため、苦労したという。結局、一番参考になったのは、インターネット上の記事であった。SSTVでアクティブな局が開設しているホームページを参照することで、SSTVを運用するのに必要なほとんどの知識を得ることができた。

その他には、ポピュラーなSSTV用ソフトウェア「MMSSTV」のドキュメントファイル、それに、後日購入したCQ誌の別冊などであった。濱田さんは、アマチュア無線の知識習得や情報収集のため、長い間CQ誌を購読しており、5、6年前からは定期購読に切り替えたため、発売の度にいちいち本屋に行かなくても済む様になっている。

SSTVを運用するには、かつては残像型ブラウン管や、スキャンコンバーターといわれる装置が必要であったが、今ではパソコンとソフトウェアで運用できる様になった。この代表的なソフトウェアが前述のMMSSTVである。このソフトウェアはJE3HHT森さんが開発したフリーウェアで、アナログ方式のSSTVでは世界的なスタンダードになっている。濱田さんもさっそくMMSSTVを入手してSSTV運用の準備を始めた。

[インターフェース]

MMSSTVをインストールしたパソコンと無線機を接続するのに、レベル調整や送受信コントロールを行うインターフェースが必要になる。このインターフェースについては周辺機器メーカーの完成品を購入した。しかしその使い方がよく分からなかったので、電話で問い合わせたところ、愛想のない回答が返ってきてがっかりした。ケースを開けて中身を確認したところ、特殊な部品は使っていなかったため、2台目のインターフェースからはすべて自作し、最終的に濱田さんは全トランシーバー分のインターフェースを揃えた。

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今は使っていない自作インターフェース。

ただし、淡路島には、細かい電子パーツを販売するショップが無いため、濱田さんは、必要な部品を東京のショップから通信販売で購入した。「代金を銀行に振り込み、振り込んだ領収書をFAXで送れば、すぐに部品を送ってくるので重宝しています」と話す。

[運用を始める]

インターフェースも揃ったので、濱田さんは無線機とパソコンを接続して、まずは受信からトライしてみた。しかし、なぜか強力な信号でも復調しなかった。いろいろと調べるうちに、スラント(傾き)の調整ができていないのが原因ということが解った。そのため濱田さんは、標準電波を受信してスラントを調整したところ、受信したSSTVの電波が画像として写る様になった。

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ハンガリーのHA7EGとQSO中の受信画像。

その後いよいよ濱田さんはQSOを始め、アクティブにオンエアした。SSTVは喋らなくてもQSOが可能なため、身体的負担も少なく、また国内外を問わずQSOができた。その頃の運用時間は昼間の午後が多く、そのため時間の関係で海外局は北米の局よりヨーロッパの局の方が圧倒的に多かった。「その時間、北米の局は就寝時間ですから」と濱田さんは話す。

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フランスのF4ALJとQSO中の受信画像。

[受信画像の保存]

QSOした画像は、パソコンに取り込んで保存する様にした。SSBやFMなど音声通信のモードで通信記録を録音して残しておくことはあまり行わないが、SSTVの場合は受信画像を残すことが容易であった。濱田さんは、SSTVのQSOに対して発行するQSLカードには、相手から送られてきた「73」の画像を印刷して発行する様にしている。

濱田さんは、国内局相手にVHFでもSSTVの運用を行い、HF分と合わせて、これまでにトータル200局くらいとSSTVモードでQSOしている。インターフェースについては、以前はトランシーバー毎に別々のインターフェースを使用していたが、現在はロータリースイッチを使った自作のリグ切替器を使って、1個のインターフェースを切り替え使用している。

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友人であるJA9CD柳原さんとQSO中の受信画像。

「近頃は、2mにはあまりSSTVで出てきませんね。最近パソコンが不調になったため入れ替えを行い、まだスラント調整ができていませんが、調整が完了したらSSTVを再開予定です」、と話す。実は数週間前に、SSTVで使っていた古いパソコンに、新しいOSを入れたら、ドライバーの関係でサウンド機能が動かなくなってしまった。そのため、濱田さんはパソコンの修理業者に相談したところ、新しいパソコンを買った方がいいですよと言われて、業者が勧める廉価なパソコンを購入したのであった。このパソコンにMMSSTVをインストールしたものの、スラント調整をせずに送信したところ、濱田さんのCQを受信した局から「スラントしてます」と指摘されたからだった。