[シンボルマークで苦労] 

2月10日のトーク会場。司会者は村松さんに対して「50年もこの趣味を続けられ、多くの外国のハムとの交信。時間、言葉、経費、大変なものですね」と発言。これに対して、会場からは大きな拍手が湧いた。その拍手は開幕までの村松さんの労力を察したからだった。

労力を使わざるを得ない事態はすぐにもちあがった。村松さんは新に作るQSLカードにどうしてもEXPOのシンボルマークを入れたかった。主催者の2005年日本国際博覧会協会は「シンボルマークの使用を個人に許可した例はない」と許可が出ない。村松さんは「QSLカードを作り海外に送ることを公表し、名古屋市もこの案を採用しているのだから」と食い下がった。

新しいコールサインで作ったQSLカード

協会は「シンボルマークのステッカーがあるのでそれを張ったらどうですか」と言う。村松さんは「何千枚ものカードに張るのは大変です」と反論。結局、万博PRのためのDM(ダイレクトメール)扱いとして許可が出た。「QSLカードがDMと同じ扱いになったのには驚いたが、知恵を絞ってくれたので最後は感謝した」と言う。

[120ヵ国目標] 

その村松さんに会期前にうれしいコールサインが下された。「JA2XO」である。EXPO(万博)に近いコールであり、国内には珍しいコールでもある。村松さんの申請に対して、東海総合通信局は「愛・地球博」に間に合うように新コールを許可してくれた。ただし、2つのコールを同一免許人が、同一エリアで持つことは許されないため、村松さんはそれまでのJA2ACを指定事項変更として申請する事になった。「しばらくは慣れ親しんだJA2ACとのお別れだった」と言う。「アワードマニアの方からはJA2XOは引張りだこでして・・・」となった。

村松さんは交信目標をたてる。「愛・地球博」に出展する国は120カ国であり、電波伝播が良好なことを前提にその国すべてとの交信をねらった。QSLカードは8000枚を印刷準備し、村松さんは暇があれば無線機の前に座り続けた。平成14年(2002年)1月から平成16年(2004年)年末までの3年間の交信結果は85カ国、海外2500局、国内3500局の6000局となった。

「85カ国は通常のアワードで数えるエンティティ(領土)でなく、文字通り国そのものの数なのでまずまずの成果だろう」と村松さんは残念がってはいない。「愛知博」のPRは「国内外それぞれ10万人に伝わったのではないか」と村松さんは推定している。海外の2500局は家族3人に知らせ、それぞれが職場、地域、学校などで15人程度に伝えたろうとの計算である。

一方、国内は3500局が同じく家族3人に知らせ、それぞれ10人に伝えたと想定しての計算である。いずれにしても、村松さんはその成果を今年(2005年)になって展示会の形で披露した。2月4日から20日まで名古屋市中区のテレビ塔1階の展示室、次いで4月24日から5月13日まで、同区の東別院AOギャラリーで開催され、テレビや新聞でも取り上げられた。

名古屋市のテレビ塔下展示室で開かれた村松さんの展示

もちろん、届いたQSLカード全ての展示は展示スペースからも不可能。国別や変ったカードを中心に展示した。アマチュア無線を知らない若い世代にはカードを通してアマチュア無線を知らせる機会を提供する役割を果たすことにもなった。また、このようにして海外に愛知博を知らせる方法があり、事実、実行したことに感動した来場者もいた。

[WIZアワード] 

海外への「愛知博」PR交信のついでに実は村松さんは日本ITU(国際電気通信連合)協会が主催するWIZアワードに挑戦した。日本ITUが制定している世界80ゾーンのうち30ゾーン以上との交信が条件。難しいのは1月1日から12月31日までの1年間に限定されていることと、陸地のない海だけのゾーンもあることだった。

海域のゾーンは航海中の船上のハムと交信しなければならず、偶然の要素が大きい。加えて「年末がタイムリミットなので、夏以降の交信はQSLカードの到着が間に合わない場合が多く苦労した」と言う。村松さんは各国が設置しているカードの集中配送組織であるビューローはあきらめた。「JARL経由では10%から20%しか帰ってこず、しかも2~3年かかるのがざら」と言う。

そこで、実施したのがSASEの活用。SASEはセルフ・アドレスド・スタンプド・エンベロープの略で、自分の住所氏名を書き、切手を貼った返信用封筒を同封したもので、相手に返信を急がせる時に使う。IRC(国際返信切手券)を2、3枚入れる場合もあり送料、返信用封筒代などを含めると、約3年間の経費は馬鹿にならないものだったらしい。「そこまでしても、返ってきたのは70%ぐらいだった」と落胆している。

[ボランティアで記念局へ] 

JARLは愛知県長久手で開催されている[愛・地球博]会場内に日本国際博覧会特別記念局8J2AIを開設し、会場から国内外との交信を行うとともに、来場者による運用の便を図っている。地元のJARL東海地方本部のメンバーが毎日3交代で詰めており、南極との交信や、国際宇宙ステーションに乗りこんでいるハムとの交信を実施している。

記念局のサフィックスであるAIは「愛・地球博」の愛をイメージしており、アマチュア無線の14の周波数帯の電波を使っての交信が可能。村松さんもボランティアの一人として、1週間に2回程度この記念局を訪ね活動に加わっている。村松さんの計画は「期間中40回程度手助けできたら」というものである。

「愛・地球博」のJARL記念局のIC-7800の前で