[報道マンのつぶやき] 

「愛・地球博」でのアマチュア無線に関する取材は、JARL記念局だけではなく村松さん個人にも多くのメディアからの依頼があった。開幕前のPR交信、記念局でのボランティア活動、パビリオン巡りなど、村松さんの活躍ぶりが報道する価値があると認められたためである。

「愛・地球博」JARL記念局のQSLカード

村松さんのシャックにカメラを据え付け「さあ、どこそこの国と交信してください」といわれ困ることも多い。「いつでもどことでも自由に交信できると勘違いされている。そういう時に限って、空中のコンディションが悪く何時間たってもつながらないんです」と困った話しをしてくれた。しかし、JA2XOのコールサインでの国内交信はパイルアップ(同時に多くから呼び出されること)を実感してもらえた。

北海道から沖縄まで「30秒に1局の割合で、30分間に数十局をさばき、いささか自慢の情況をつくれた」と言う。内容は各地からの激励であり、またローカルの話題もあり、「それなりに見ごたえがあったと思った」が、報道マンの見方は予想もしないものだった。「どうですか、ハムの電波は?」と聞くと、返事は「携帯電話ですな」であった。

村松さんは、やや気色ばんで「とんでもない、これは無線通信ですよ」と反論すると「携帯も無線ですよ。しかも有線、無線を上手く結合して今では画像も送れ、GPSで位置情報も手軽なものです。とても手放せない便利な機器です」と言う。「彼らは国内QSOに全く魅力を感ぜず、PRの活字にもならなかった。理解してもらうのは無理と思った」と村松さんは言う。

[アマチュア無線局の減少] 

アマチュア無線局の減少、それにともなうJARL会員の減少が問題となって久しい。今年、仙台で開かれたJARL通常総会でも会員数の予想が質問されていた。今後年率3%を上回る減少との予想であるが、村松さんは「10年先、15年先を見ればアマチュア局は50万局を大幅にしたまわるであろうし、JARL会員もその10分の1に近づいていくであろう」と予測する。

「一つの趣味の世界として考えるとあまりにも寂しい」と村松さんは言いながらも「いくらかの明るさがないでもない」と指摘している。先に触れているが名古屋大学で行われたノーベル物理学者の小柴さんの講演には、予想を上回る科学を目指す若い学生や子供たちが集った。バスを仕立ててきた高校生たち、若いお母さんに連れられてきた小・中学生たち。「皆熱心に一言も聞き漏らすまいと聞き入っていた。私はうれしくなった」という。

昭和50年に村松さんが自宅に建てたアンテナ

[アマチュア無線の発展に向けて] 

(1)経験豊かな老人パワーの活用
村松さんから今後のアマチュア無線発展に向けて、いくつかの提言を聞かせてもらった。まず「経験豊かな老人ハムの活用」である。村松さんの周辺にも定年退職後に家庭に入ったままの人が実に多いと言う。「この人たちが学校の課外授業などに、シルバーボランティアとして活躍したらどうか。積極的に学校に売りこむべきである」と提案する。

(2)地域の有識者を利用
各地には教育、産業界、政・官界の第一線で活動しているハムが少なくない。現在は電波を出していないものの、若い時に免許をもっていた人が多い。「その人たちと話しをしてみると、依然としてアマチュア無線に興味をもっている。しかも、これらの方々は私が思っている以上に地域では有力者として知られている」と村松さんは指摘する。アマチュア無線の活性化について、その方々に助言を求めるなど利用すべき、というのである。

(3)ハムサロンをつくろう

かつて、各地方にJARLは地方事務局を設置していた。村松さんもしばしば事務局に立ち寄り「思わぬ人とのアイボールもあったが、今は必要があって集ろうとしても場所がない」と落胆している。ちなみに、地方事務局は昭和42年(1967年)に名古屋に設けられたのを皮切りに、当時の各支部単位に設けられた。

JARLの会員増加にともない、東京一極では事務処理が対応できなくなったことや、地方で処理できる案件を地方に回し事務処理のスピードを早めるとともに、よりアマチュア無線の発展を効率良く図っていくことが目的であった。しかし、財政難から平成12年(2000年)に全て閉鎖されている。村松さんは「知恵を絞って、気軽に集れる場所を作る必要がある」と言う。

村松さんの自宅シャック

(4)子供科学実験教室を
現在、全国各地で一部のハムグループはJARL主催の催しを利用したり、あるいは単独に子供たちを集めて「ラジオ工作教室」「科学教室」などを開催している。これらの行事に参加し、無線通信を知った子供たちの中からハムが誕生したケースは少なくない。しかし、このような行事が行われている地域は限られている。村松さんは「もっと活発に」と提案する。

「愛・地球博」での「科学実験工作教室」に立会っての村松さんの感想は「ハンダゴテ、ニッパーなど、全く始めて使うという子供ばかりだった。レベルの高い工作より道具の使い方、取り扱い方など入門クラスの開催が必要ではないか」という。

(5)一局、一局のレベル向上を
「アマチュア無線人口が減少してもそれほど悲観することはない」とも村松さんは言う。現在、アマチュア無線の従事者の免許取得者は320万人弱、局免許取得者は60万人であり、人口あたりのハム人口は世界のトップであることに変わりない。村松さんはこのような状態をベースに「一人一人が高レベルのハムを目指すことも大事」と指摘する。

村松さんは最後にぜひ、付け加えて欲しいと次ぎのようなコメントを寄せています。

~終わりに臨んで長物語りにつきあっていただいたYL、OLの健康をお祈りするとともに、今回の機会を与えていただいたアイコム株式会社の井上徳造社長と執筆者の吉田正昭氏に深くお礼申し上げます~