[パラオ共和国]

フィリピン東方の太平洋上に浮かぶ島国であるパラオ共和国。1994年に米国の信託統治領であるミクロネシア連邦から独立した、人口約2万人の小国である。漁業、農業、観光が主要産業となっている。かつて第一次世界大戦後のパリ講和会議によって日本の委任統治領となり、日本が統治していたこともある。そのため、日本統治時代に日本語教育を受けたパラオ人は、日本語を話すことができることで有名である。

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野瀬さんが所有する昭和9年発行の「新日本圖帖(ずちょう)」より。地図中心の白枠内が日本の委任統治領で、パラオも含まれている。左下の大きな島はニューギニア島で、島の北東部およびその東部に点在する島々は、豪州の委任統治領。

2008年2月に野瀬さんと福田さんはオーストラリアからの運用を終えたが、6月頃になり、福田さんが野瀬さんに「またどこか行きませんか」と声をかけたところ、野瀬さんからは「パラオがいいですね」との返事が即返ってきた。実は、福田さんは、2007年にCQワールドワイドDXコンテスト電信部門への参加目的で、JF2IWW内藤さんと2人でパラオから運用していた。野瀬さんは福田さんからパラオでの運用の話を聞いており、すでにパラオに行く気になっていたのであった。

野瀬さんは、「パラオは戦前、日本の委任統治領でしたし、太平洋戦争時には、日本軍守備隊12,000人と米国軍が73日間に渡って死闘を繰り広げ、日本軍守備隊が玉砕した有名なペリリュー島がある国で、どんなところか見たくて一度行きたかったのです」と話す。日程の関係から、2人はCQワールドワイドDXコンテスト電話部門への参加を兼ねてその年の10月に行くことに決めた。

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ビーチで撮影した写真を使用したT88ACのQSLカード。

[T88ACを取得]

パラオと日本の間には相互運用協定はないが、日本のライセンスをベースにパラオのライセンスの申請ができる。また、レンタルシャックを利用する場合は、レンタルシャックを管理する現地の旅行社が免許申請を代行してくれ、現地に到着した際に空港でライセンスを手渡ししてくれるので、手間いらずである。野瀬さんと福田さんも、レンタルシャックを利用したので、旅行社を通してライセンスの取得を行った。

パラオでのアマチュア無線局のコールサインはT88に続く2文字のサフィックスとなるが、空きがあれば希望サフィックスがもらえるため、野瀬さんは空いているコールを調べ、10個の希望コールを事前に提出したが、結果としてT88ACのコールが割り当てられた。一方の福田さんは、前年に取得したT88FYの更新を行った。さらに福田さんはコンテスト用に特別コールサインも申請し、特別局を必要とする理由書や各種資料(コンテスト規約等)を提出し、別料金を支払ってT8ICを取得した。エリア番号のないT8のプリフィックスは、通常、放送局に割り当てられるコールサインで、アマチュア無線局に割り当てられるのは、ほとんど例がないという。

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T88ACのライセンス。

[レンタルシャックを借りる]

10月23日(木)、2人は中部国際空港からグアム島、ヤップ島経由でパラオに到着した。2007年のグアム島でもレンタルシャックから運用したが、パラオでもレンタルシャックを借りたため、軽装備で出かけることができた。無線機、アンテナは持って行かず、周辺機器(パドル、ヘッドホン、ボイスメモリー、メモリーキーヤー)とパソコンだけを持ち込んだ。

パラオで借りたのはウエストプラザバイザシーホテルの中にあるレンタルシャックで、普段は普通の客室として一般客に利用されている部屋を、レンタルシャックの利用者がある時だけ、旅行社であるインパックツアーが、コンテナに入った無線機材一式をレンタルシャック用の部屋に運び入れてくれる仕組みになっている。

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ウエストプラザバイザシーホテルの屋上に常設されているレンタルシャックのアンテナ群。

無線機器の設置や、電源、アンテナの接続は、レンタルシャックの利用者が自ら行うことになっているが、出発前に日本語の説明書を自宅まで送ってくれるので、配線に関して問題はないという。アンテナとローテーターのコントロールケーブルは部屋の外にあるボックス内まで来ているため、そこから部屋まで配線することになっている。

[2局同時に運用]

このレンタルシャックには100W機が2装置あり、野瀬さんと福田さんは同時運用を行った。加えてリニアアンプ(600W出力)が1台あったため、2人は1時間毎に交代でリニアアンプを使用した。100W同士なら2局同時運用でもあまり問題が無いものの、リニアアンプを使用すると、周波数によっては600W局が100W局に被ってしまうため、そのようなときには100W局がQSYを余儀なくされたが、そこは割り切って運用を行った。

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T88ACを運用中の野瀬さん。

アンテナは、3.5〜50MHzまで用意されており、ホテル屋上の設置された2基のルーフタワーに乗っている。3.8MHz帯だけSWRが若干高めだったが、アンテナチューナーで同調させて問題なく使用できた。「整備の悪いレンタルシャックですと、現地に行っても機器が故障していて使えなかったといったことがときどきある様ですが、私たちが借りたところは何も問題ありませんでした」「レンタルシャックの長所は行くのが楽という点ですが、現地に到着して機器が壊れていたら、どうすることもできないのが欠点ですね」、と野瀬さんは話す。

[コンテストへの参加]

パラオと日本はほぼ同じ経度に位置するため時差がない。そのため日本時間と同じ、現地時間で10月25日(土)の朝9時からコンテストが始まった。2008年は太陽活動最低期のためコンディションは良くなかったものの、途中、睡眠、休憩を入れて48時間運用(とは言っても、野瀬さんは実質20時間程度の運用)の結果、700QSOに終わった。また、コンテスト以外では、18MHzを中心にオンエアして約100QSOを行い、合計800QSOという結果だった。一方の福田さんは、ほとんど寝ずに運用し、合計2700QSOという結果を残している。

[パラオの観光]

「パラオといえばダイビング」と言うほど、パラオには世界中からダイバーが訪れることで有名である。逆に言うと、ダイビング以外では、見るべき観光名所などがほとんどないということになる。野瀬さんの今回のパラオ行きは、無線運用がメインであったため、ホテルからはほとんど外出しなかったが、エピソンミュージアムという博物館と、ティードッグという港を少し見てきた。その際、土産物として、野瀬さんは亀の木彫り工芸品を購入した。

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エピソンミュージアム。石貨などが展示されている。

野瀬さんは亀が好きで、自宅のベランダで20年以上も亀を飼っているが、その亀が野瀬さんの住むマンションの11階のベランダから、2回も地上に落下した。しかし2回とも奇跡的に生きていた。そのうち1回は、野瀬さんが見つけたときには動かなかったので、もうダメだと思ったというが、「地面がコンクリートじゃなくて芝生だったことが幸いしたと思います」と野瀬さんは話す。コンテストへの参加と、その前後の運用、それに少々の観光を終えた野瀬さんと福田さんは、10月28日(火)に帰国した。「次回パラオへ行く機会があれば、ぜひペリリュー島観光がしたいです」、と話す。