JA2BNN 野瀬 隆司氏
No.22 8N2HQの運用(2)
[準備をはじめる]
蛭川のシャックには、コンテストで使用されるすべてのバンドについて常設アンテナがあり、3.5MHz用には逆V型ダイポールアンテナ、3.8MHz用にも別の逆V型ダイポールアンテナが設置されていた。しかし、両アンテナは調子があまり良くなかったので、8N2HQを運用するにあたり、両アンテナを一旦下ろして張り替え、再調整することに決めた。さらに送信用には垂直偏波のスローパーアンテナを追加、受信用には磁界ループアンテナを上げようと計画した。
マストのトップに取り付けられた受信用磁界ループアンテナ。
計画だけは進んだが、メンバーの都合がなかなか合わず、アンテナを張り替える日程が確保できず、結局、コンテスト当日の7月12日(土)に作業を行うことになった。コンテストは夜21時から始まるため、午前中の早い時間に作業を始めれば十分に間に合うと考えた。まずは、受信用の磁界ループアンテナを南側のパンザマストのトップに設置した。このアンテナは、JK2XXK戸根さんが自作したもので、土曜日の朝に、蛭川のシャックに到着したばかりだった。パンザマストに戸根さんが自ら登って設置作業を完了した。
[3.5MHz用ダイポールが不調]
午後からは、調子の悪かった3.5MHz用と3.8MHz用の逆V型ダイポールアンテナを張り直した。ダイポールの先が雑木林の中に入ってしまっていたのを修正し、少しでもよく飛ぶような配置に展開し直した。まず、3.8MHz用はすんなりSWRが下がって予定どおり作業を完了したが、3.5MHz用はどれだけ調整しても、うまくSWRが下がらなかった。
日が暮れても調整を続けたがどうしてもダメだった。アンテナの調整と平行して、シャック内で進めていた無線機器の準備は完了し、アンテナの調整完了待ちとなっていた。しかし、コンテスト開始があと1時間と迫った20時になってもまだ解決しないため、これはダメだと諦めて、戸根さんが、15kmほど離れた自宅に置いてある移動運用用の3.5MHzダイポールアンテナを取りに帰ることにした。
[運用をスタート]
しかし、戸根さんが自宅からアンテナを持って帰ってくるまでに21時をすぎてしまうことは確実なため、アンテナが使用できる3.8MHzでとりあえずスタートを切ることに決めた。戸根さんは「3.5MHzのアンテナが上がるまで3.8MHzでできるだけ粘ってください」と言い残して急いで帰宅した。
21時になり8N2HQはJF2IWL長倉さんのオペレーションで8N2HQの運用をスタートした。夏場の3.5/3.8MHzはあまり海外まで電波が飛んでいかないため、交信相手はどうしても国内局が中心となるが、国内局の多くは3.8MHzではなく、3.5MHzで運用しているため、3.8MHzでの交信レートは予想したほどは上がらなかった。それでも北米局からもポツリポツリと呼ばれ、着実にスコアは伸びていった。
21時過ぎ、戸根さんがダイポールを持ってシャックに帰ってきたが、そのダイポールは移動運用用のためバランの耐電力が足りず、まずはこれを1kWに耐えられるものに交換した。その後、全長12mのアルミ製の伸縮ポールを使って、戸根さんは暗闇の中、懐中電灯の明かりをたよりに一人でこのアンテナを設置した。総延長が60m以上にもなった同軸の配線まで完了した時にはすでに23時近くになっていた。ようやく3.5MHzに出られるようになり、3.8MHz用のアンテナを持たない国内局との交信が可能となった。
戸根さんが仮設した移動用逆Vダイポールアンテナ。写真一番右の柱が支柱のアルミ製伸縮ポール。
[3.5MHzの運用を始める]
3.5MHzの運用が可能になると、国内局との交信で局数が飛躍的にアップして行った。3.5/3.8MHzは夜間こそ稼ぎ時なので、電波を絶やすことなく交代で運用した。しかし、「夜中のヨーロッパの局は、こちらから呼んでも全然応答がありませんでした」というように、厳しい運用を強いられた。ヨーロッパでは近隣諸国からの混信が多いため、なかなか日本からの微弱な電波を捕らえられない様子だった。受信にはほとんど磁界ループを使用したという。
夜が明けてDX局が入感しなくなると、交信相手は国内局オンリーとなるので、主に3.5MHz帯を運用して、局数を積み重ねていった。土曜日から日曜日にかけての夜間は野瀬さん、戸根さん、長倉さんの3名で運用したが、日曜日の日中にJH2AMH児玉さんが加わり、4名のフルメンバー体制となった。コンテスト中に食事を全員で摂ることはもちろんできないが、「日中にはシャックの前庭で飛騨牛のバーベキューをやって、スタミナを補給しました」、と野瀬さんは笑って話す。
8N2HQを運用中の野瀬さん。
[結果]
日曜日21時のコンテスト終了まで、交代で運用した結果、3.5MHz電話を担当した「チームひるかわ」の8N2HQは、565QSO、16マルチという成績で終了し、過去7年間で見ても、日本チームの最高QSO数をマークする結果となった。一方、日本チーム全体(JARL)の最終結果は9,820QSO、281マルチで4,727,544点となり、世界の59連盟が参加した中、24位という成績であった。
世界1位はカナリア諸島(アフリカ)から参加したスペインの連盟局・EF8Uで、スコアは日本チームの5倍以上になる23,193,708点をマークしている。しかし、JARLより上位の世界1〜23位のうち、21連盟はヨーロッパの連盟で、ヨーロッパ以外は、1位のカナリア諸島(アフリカ)と、19位の極東ロシア(アジア)の僅か2連盟だけで、このコンテストがいかにヨーロッパに有利であることがよく分かる。ちなみにアジアからは、JARL以外に、極東ロシア、中国、アルメニア、韓国、台湾、香港、インド、マレーシアの各連盟が参加したが、JARLは、参加9連盟中2位という好成績であった。
野瀬さんは、「アンテナを整備する日程調整がメンバーの都合で上手く取れなかったり、さらに、やっと調整した日が雨になって作業ができなかったりしたため、結果として準備不足となり非常にお粗末なアンテナシステムでした」、「あとで分かったことですが、3.5MHz用の逆Vダイポールアンテナの調子が悪かったのは、バランの故障でした」、「少なくとも無線機器とアンテナのセットアップは、前の週までには、完了しておかないといけません」と反省点を挙げる。
さらに、「今回は貴重な体験ができましたので、今年2009年もHQ局に応募したいと思います。昨年の失敗を克服するため、今年ははじめから3.5MHzのSSBを希望したいと考えています」、と野瀬さんは抱負を語る。
2008年に「チームひるかわ」が運用した8N2HQのQSLカード。写真は、岐阜県重要無形民俗文化財に指定されている、蛭川(ひるかわ)の「杵振り踊り」の様子。